持株会社化がもたらす相続税対策
持株会社化は、株式評価の引下げと株式評価の上昇の抑制の両面から効果を発揮します。まず、株式評価の引下げ効果は、複数の事業を営む会社であれば、高収益部門を会社分割によって子会社として独立させることによって実現させることができます。すなわち、分社型分割による持株会社化です[図表1]。これによって、評価会社には低収益部門が残るために、企業オーナーが所有する株式の評価を引き下げることができます。
また、複数のグループ会社を所有している場合は、既存の兄弟会社を株式交換によって100%子会社化することで、持株会社化を実現することができます。すなわち、高収益で株式評価の高いグループ会社を、低収益で株式評価の低い会社の100%子会社とすることによって、企業経営者が所有する株式の評価を引き下げることができます[図表2]。
株式保有特定会社に該当すれば割高な評価となる
持株会社化による相続税対策を実行する際、注意すべきポイントは、持株会社化することによって、評価会社が株式保有特定会社に該当してしまうことです。分社した高収益部門の規模が大きければ、子会社株式の評価額が総資産に占める割合が50%以上となり、株式保有特定会社に該当する可能性が高くなります。
そこで、特定会社外しの方法を検討することになります。すなわち、子会社株式が総資産に占める割合を50%未満に引き下げて、株式保有特定会社から外し、類似業種比準価額を使うことができるようにします。これは、純粋持株会社を事業持株会社に転換するということです。
たとえば、人事・総務・経営企画などの管理部門に係る資産および負債は持株会社に移すための会社分割を行うなどの組織再編を行います。また、子会社化された事業会社の不動産を持株会社に移すことによって、株式保有特定会社から外すことができる場合もあります。その際、不動産を子会社に対して賃貸すれば、純資産価額を下げることができます。すなわち、純資産価額の評価において、建物を貸家評価(30%低下)、土地を貸家建付地評価(概ね20%低下)とすることができます。
持株会社を株式保有特定会社から外して類似業種比準価額方式を適用することができれば、その子会社の株式評価が高まっても、評価される持株会社の株式評価にはほとんど影響はありません。つまり、持株会社を設立することによって、高収益事業の成長に伴う相続税負担の増加を抑制することが可能となるのです。
また、保有する子会社株式の評価が高まったとしても、その上昇を抑えることができます。すなわち、直接保有の場合、自社株式の「含み益」はそのすべてが評価対象となっていたのに対して、持株会社を使って間接保有した場合、子会社株式の含み益に係る法人税等相当額37%が控除されるため、それだけ株式評価の上昇を抑える効果が生じるのです。
以上のように、持株会社化には、株式評価の引下げという短期的な効果だけでなく、株式評価の上昇の抑制という長期的な効果があるのです。
組織再編は税務調査に注意
一般的に、相続税対策を行う企業オーナーは、相続に伴う税負担を可能なかぎり軽減したいと考えるものです。特に、企業オーナーは、ゼロからの叩き上げで資産を築いてきている人が多く、1円を削るような厳しい商売を行ってきたため、コスト意識が強く、無駄な費用は1円でも減らしたいと考えます。それが税金であっても同様です。それゆえ、あらゆる節税手法を駆使して株式の相続税評価を下げようとします。
しかし、極端な組織再編は、租税回避行為であるとして否認されるリスクを伴います。それゆえ、相続税対策のための再編スキームは、時間をかけて自然体で行うとともに、取引に事業関連性があることを確認しておく必要があります。
そもそも、会社の組織再編や資産の譲渡等は、節税以外の「経済的なメリット」を生み出すものであることを前提として実行されるべきものです。この「経済的なメリット」とは、税効果を織り込むことなく実現が客観的に見込まれる経済的利益をいいます。たとえば、事業の集中・選択・リストラ等により収益の増加または経費の節約が実現し、キャッシュ・フローが改善されるようなものが考えられます。
しかし、このような「経済的なメリット」を無視し、税負担を軽減させることのみを目的とする取引が現実に行われています。
この点、同族会社等の行為または計算で、その株主や親族など関係者の相続税または贈与税の負担を不当に減少させるような場合には、税務署長の判断によって課税することができるものとされています。いわゆる同族会社の行為計算の否認という規定です。
税務大学校「組織再編に係る行為計算否認規定の解釈・適用を巡る諸問題」によれば、組織再編を利用した租税回避行為(法人税法132条の2)として、経済的合理性を欠いている取引、個別規定の趣旨・日的に反している取引が挙げられています。
それゆえ、相続税を不当に減少させることのみを目的として企業組織再編や同族間取引を行った場合、税務調査において否認される可能性があることには注意しなければなりません。
したがって、相続税対策を実行する際は、グループ経営の合理化、間接部門の統合によるコスト削減など経済的な合理性を確保するだけでなく、専門家から指導を受け、それを明文化した書面を残しておくことが不可欠となるのです。
【動画/筆者が本記事の内容をわかりやすく解説!】
岸田康雄
島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士