週1~2日勤務の社員、大学生との二足のわらじの社員
私たちの会社ではどのような形で「社員が好きなように働いて」いるのか。いくつか具体例を紹介しましょう。Aさんは電気保安管理部門に所属する30代の社員で、現在は週に1〜2回しか出勤しません。彼は第一種電気主任技術者というかなり難易度の高い資格を持っているものの、仕事はなるべく少なく、他に時間をかけたいことがあると言います。
そこで会社として、週1〜2回の出勤でも活躍してもらえる業務と職場を見つけ、腕を振るってもらっています。
Bさんは30代半ばで、現在は営業部で活躍しています。5年ほど前、Bさんから「4年制の大学に通いたい」という相談がありました。Bさんは高校を卒業して働き始め、当時はすでに結婚してお子さんも2人いたのですが、仕事関係の技術を大学で勉強し直したいという強い希望が湧いてきたというのです。そこでBさんとよく話し合い、平日の夕方6時から深夜0時まで勤務してもらうことにしました。Bさんは日中、大学に通って4年で無事、卒業。そのまま私たちの会社で頑張ってくれています。
Cさんは20代で、スキーが趣味です。そのため冬のスキーシーズンになると、1〜2カ月の長期休暇を毎年、取ります。
彼が所属する部署では、そのことが分かっているので春から秋にかけて彼の業務量を増やし、逆に冬になると他の社員が頑張って彼を送り出すようにしています。人生において何を重視するか、何に幸せを感じるのか、仕事とどう向き合うのかは人によって異なります。
柔軟な働き方を認めたほうが、社員は結果を出す
また、同じ人でも人生のステージやタイミング、環境によって考え方や希望は変わるでしょう。たとえば、結婚して子供が生まれ、家を建てたとしましょう。そうなると、いままで以上に働いて昇進・昇給したいと思うかもしれません。逆に、子どもが生まれたり、親の介護が必要になったりして、残業はなるべくしたくないということもあるでしょう。
私たちの会社では、社員全員がいかに効率よく仕事をこなし、結果を出すかにこだわっています。全員が平日の朝9時から夕方5時まで一律に働くことはそれほど重要ではありません。カレンダー上、出勤日や勤務時間は一応、決まっていますが、実際はケースバイケースです。社員の事情に応じて「何とでもする」「何とでもなる」というのが私たちの会社の基本方針です。
いま紹介したケースの他にも、父子家庭なので昼間、2時間だけお子さんの学校の面談で抜けたりしている社員、不妊治療中で奥さんから連絡があり、急に休暇を取った社員などもいました。
「会社なのだからそうしなければならない」といった、よく分からない理由で社員を縛ることほど不合理なことはありません。むしろ、その人の事情に合わせて柔軟な働き方を認めたほうが、社員は結果を出してくれます。
限られた時間で働くことを自分で選んだ社員ほど、限られた勤務時間で結果を出そうとやる気を出し、持てる能力を最大限、発揮しようとするからでしょう。
働き方として用意された「3つのコース」
私たちの会社では、新卒であれ中途であれ入社前から「好きなように働ける」ということを説明しています。具体的には、働き方に次のような3つのコースを用意して、どれがいいか聞くようにしています。
①昇進・昇給を目指しバリバリ働く
②プライベートを重視し残業や休日出勤はなし
③両方の中間でほどほどに働く
①の場合でも法律などの条件はきちんと守りますし、残業については、サービス残業が当たり前だった10年以上前から、30分単位で割増給与を支払っています。そして、①〜③のどのコースで働くかは、入社後いつでも見直すことができます。
なぜこんなことをするのかというと、入社前に本人の本音を聞くとともに、私たちの会社のやり方を説明し、「働いてみたらイメージしていたのと違った」というミスマッチを避けるためです。
若い人の間では、建設業というだけで敬遠されがちです。採用するときに、口先だけで良いことを言っても見透かされてしまいます。
建設業ではまた、4月に入社した新入社員は夏までに辞めることが多く、逆に夏場を乗り越えると定着率が高まるというデータがあります。会社としても、この社員は残業しないとか土日はなるべく出たくないなどと予め分かっていると、人員の配置が組みやすくなります。
こうしたことから、事前に働き方について本音で話し合うことは、社員にとっても会社にとっても合理的なのです。
地元の高校へ新卒採用の説明で回るときも、こういうやり方を正直に説明します。就職担当の先生方からは、「建設業でありながら希望すれば現場でも残業ゼロ」というので驚かれるとともに、「すごくいいやり方ですね」と評価していただいています。
このやり方は、新卒採用にかなり効き目があり、2019年は5名採用できました。いまの若者はかつてのように、「車を買いたい、オーディオを買いたい、だから頑張って働く」という時代ではありません。むしろ、「仕事はほどほどに、自分のプライベートを大事にしたい」という若者のほうが多いと思います。そういう若い人の価値観を尊重するのが、私たちの会社の基本的なスタンスです。
瀬古 恭裕
株式会社鈴鹿 代表取締役