課長は、降格することなく「課の縮小」を選択できる
従業員の価値観を尊重するスタンスは、管理職についても同じです。私たちの会社では、課長には毎年、自分が担当する課について、次の3つのうちどれを選ぶかアンケートを取っています。
①人員も業務量も増やして課を大きくしたい
②現状維持のままでいい
③むしろ縮小していきたい
課長にいちいち、そんなことを聞く会社はまずないでしょう。普通は会社全体の経営目標を部門ごとに割り振り、さらにそれを課ごとに落とし込むはずです。最初から課長が「縮小」を選べるなんてありえません。
しかし、私たちの会社では課長が「縮小」を選ぶことも自由です。そして、ここが大事な点なのですが、縮小=降格ではありません。課長にふさわしい能力とスキルがあると会社が認めた人なわけですし、担当する課を縮小し、そのまま課長を続けてもらうのが基本です。人によってはちょっと休憩期間が必要だっただけで、また拡大モードに戻る人もいます。
本人が管理職(課長)という立場が辛いと言ってきたときに初めて、部下のいないマネージャー待遇にスライドしたり、課長補佐へ降格してもらうことを検討します。
役員の選出に「グループ全社員」からの立候補制を導入
私たちの会社では最近、役員についても本人の意思を尊重するため、立候補制を導入しました。新しい取締役と執行役員については、社内からの立候補で選ぶのです。立候補できるのは、子会社の役員も含め、グループの全社員です。
もちろん、立候補してもらった候補者は一定の基準で選考します。一定の基準には次の6つがあります。
第一に、誠実な人格であること。誠実であることを私たちの会社ではとても重視しています。誠実とは、どんな人に対しても公平で素直に接することができるということです。
役員というとつい、多くの部下を束ねるリーダーシップが条件のように思われますが、私たちの会社では必ずしもそうではありません。たとえば、非常に高度な技術を備えたスペシャリストなども、誠実な人であれば役員として登用していきたいと考えています。
第二に、高い識見と能力を有すること。これについては主に部下や同僚など周囲の評価から判断します。
第三に、会社に多様な視点を取り入れる観点を有すること。これはまさに「ダイバーシティ」の推進に他ならず、「働き方改革」や「ワークライフバランス」にも通じます。
第四に、出身分野における実績。これは、数値的なデータが中心となります。
第五に、本人に役員就任への強い意志があること。指名でも推薦でもなく、立候補の意義がここにあります。なぜ自分は役員になりたいのか、役員になったら何を行うのか、そしてどのような成果を会社にもたらすのか、自分の言葉で語ってもらいます。
第六に、取締役会の承認です。以上の基準をクリアできる人であれば、取締役会の承認は自ずと得られるでしょう。取締役や執行役員になれば当然、経営計画に対する責任があります。待遇は実績に比例します。
ただ、期待された結果が出なくても、すぐ降格させるわけではありません。選んだ会社にも責任がありますから、なぜうまくいかなかったかをよく話し合います。中には「責任をとって辞めます」という人もいますが、私はいつも「自分で手を挙げてなったんだから、すぐ辞めるのは違うんじゃないか?」と問い、うまくいくにはどうすればいいか、一緒に考えます。
そもそも「責任をとって辞める」ということは、社員であれ役員であれ必要ないと思います。仕事におけるすべての失敗は、つきつめれば会社や社長である私自身に責任があるからです。
昔は終身雇用が前提だったので、何かあれば辞任をすることで責任をとるという理屈が成り立ったのかもしれません。しかし、終身雇用が実質上、崩れてしまった現代ではもはや合いません。それに、各社員や管理職、役員にそれぞれの仕事をお願いしているのは、絶対間違いのない能力があるからというより、やる気があると見込んでいるからです。仕事に失敗がつきものだということは、会社も十分理解しています。むしろ、失敗を恐れずにチャレンジすることが、社員の成長や会社の成長につながると考え、前向きに評価していきたいと思っています。
業界特有の複雑なスケジュールでも、自由な労働は可能
建設業界の特徴は、元請けのゼネコンが現場ごとに工事全体を仕切り、その下に一次下請け、二次下請け、三次下請け、場合によっては四次、五次くらいまで業種ごとに下請け企業が重層構造で連なっていることです。ひとつの現場に延べ数十社から場合によっては100社以上が関わることもあります。
そのため、スケジュール管理が複雑で難しいと同時に、極めて重要になります。1社で遅れが発生すると、それが玉突き状に波及していくからです。特に竣工間際になると、各種検査などがあって多忙を極めます。また、天候などによって影響を受けることもあります。
そうした中でいかにして最終的な工期を守るか。最終的な工期を守るため、すべての会社、すべての関係者が動いており、自社の都合だけで働けるわけではありません。私たちの会社でも、現場によって日々の業務量には大きな差があります。しかも、私たちの会社の社員には残業なし、土日出勤なしという人もいますから、そこを調整するのはなかなか大変です。
しかし、実際にはちゃんとうまくやれています。具体的には、工事の進捗状況を見ながらバリバリ頑張るという社員や外注先を上手に組み合わせ、品質を確保しつつ業務をこなしていきます。このバランスのとり方が私たちの会社のノウハウであり強みになっています。そして、ひとつの現場が終わったらバリバリ頑張る社員にはしっかり休んでもらいます。待遇面でもしっかり報います。それによって現場がスムーズに回っているのです。
瀬古 恭裕
株式会社鈴鹿 代表取締役