もはや過去のものとなった「日本型経営システム」
1980年代くらいまで、日本には「日本型経営システム」といわれるものがあり、日本企業の強さの源泉とされていました。具体的には、「新卒一括採用」「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」「定年退職」がセットになったものです。
新卒の高校生や大学生を大量に採用し、新人研修から順に階層別研修を行い、現場ではOJT、ジョブローテーションでいろいろな事業所や部門を経験させます。転勤や異動、長時間労働も当たり前。自社が使いやすいように教育し、育て、長期にわたって雇用を保証します。
そこでの働き方は、基本的に全員一律です。個人の事情で勝手にはみ出すことは許されず、無理をしてでも会社の都合に合わせるか、嫌なら会社を辞めるか、二者択一しかなかったといえるでしょう。
20世紀は大量生産・大量消費を基本とする「産業資本主義」の時代でした。大量の資本を集め、大規模な工場などの設備と多くの人員を確保できるかどうかで、企業の競争力が左右されたのです。「日本型経営システム」は、それにとてもマッチした経営スタイルであり、1980年代には海外でも「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などともてはやされるほどになりました。
しかし、20世紀末になると、先進国では大量生産・大量消費の時代は終わりを迎えます。物質面では満ち足りた社会となり、サービス業など第3次産業が経済のけん引役になります。個人の好みや趣味嗜好にきめ細かく応えなければモノもサービスも売れない「ポスト産業資本主義」の到来です。
いまや、少子高齢化、急速な技術革新、経済のグローバル化など、日本企業を取り巻く経営環境は急激に変化しています。近年もシャープ、東芝などの大手企業が経営不振に陥り、大量の人員整理を行ったりしているのは象徴的です。「日本型経営システム」はもはや、過去のものになったといっても過言ではないでしょう。
それぞれの価値観、人生の季節に見合った働き方へ
このような企業を取り巻く環境の変化は、働き方にも当然、影響します。夫が正社員で働き、妻は専業主婦、子どもが2人という「標準世帯(4人世帯で働いているのが1人)」はもはや少数です。
2017年時点で、世帯数で一番多いのは無職の1人世帯とされ、標準世帯は全体の5%もありません。むしろ、夫婦共働き世帯のほうが全体の約7%を占めており、標準世帯より多いのです。
こうした流れの中で、「働き方改革」とともによく耳にするのが、「ワークライフバランス」や「ダイバーシティ」という言葉です。「ワークライフバランス」とは、ワーク(仕事)とライフ(生活)を調和させるという意味で、性別・年齢を問わず、誰もが働きやすい社会や組織をつくろうという考え方です。
日本では1986年に施行された「男女雇用機会均等法」により男女別の採用や働き方が禁止され、女性も結婚、出産、育児をしながら働き続けられるようにと提唱された頃から広まってきたようです。
ただ、いまや「ワークライフバランス」は、女性だけの問題ではありません。近年、働き盛りの40代、50代の社員が介護休職・介護退職するようになってきました。
子育てと違って介護は終わりが見えません。先ほど触れた「働き方改革」も、子育てをしていたり介護をしていたり、様々な事情を抱える人でも働き続けられることが目標のひとつになっています。そうしないと社会全体で働き手を確保できないし、個々の企業においても事業を継続できなくなっています。もちろん個人にとっても、安心して働き続けられることは生活の安定のため欠かせません。
さらに最近よく聞くようになったのが「ダイバーシティ」です。ダイバーシティとは日本語では「多様性」と訳され、企業経営や組織運営において多様な人材を積極的に活用しようという考え方です。
もともとは欧米で、女性や少数民族の就業機会を拡大しようという取り組みとして始まり、「Diversity and Inclusion」というようにInclusion(包摂)と組み合わせて使われるようです。
現在は、性別や人種の違いに限らず、年齢・性格・学歴・価値観などの多様性を受け入れ、広く人材を活用することで生産性を高めようとするマネジメントの文脈でよく用いられます。企業がダイバーシティを重視するのは、有能な人材を採用し、斬新なアイデアで新しい商品やサービスを生み出し、顧客の多様なニーズに応えないと生き残れないという危機感があるのです。
こうした「働き方改革」や「ワークライフバランス」「ダイバーシティ」については、なんだか目新しく中身がよく分からない印象を受けるかもしれません。しかし、実際には法律や各種規制などにどんどん反映されつつあり、特に中小企業はどう対応していいのか四苦八苦しているようです。
しかし、私たちの会社は別です。これらのことを私たちの会社では「社員が好きなように働ける」ということで20年前から当たり前に実践してきたからです。
むしろ、「うちでやってきたことをそう呼ぶんだ」というのが正直な感想であり、「何をいまさら」という気もしています。
瀬古 恭裕
株式会社鈴鹿 代表取締役