人が住むのに適した場所ではない…なぜ東京に住み続けるのか?

本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とする名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』(時事通信出版局)から一部を抜粋し、大震災の危険性はどれほど高まっているのか、さらに対策はどれほど進んでいるのかを紹介しながら、防災・減災に向けた早急な対応の必要性を説いていきます。

首都・東京の「地域力の弱さ」が気がかり

東京は魔物のような魅力を持っています。全国から東京に憧れて多くの若者が集まります。毎年、他の道府県から10~20代の若者が24万人くらい転入してくるそうです。全国の大学生290万人のうち、75万人が東京都の大学に通っています。人口比で10%の東京に、大学生は25%もいる計算です。さらに、大企業や官公庁も東京に集中していますので、就職のために若者が集まります。

 

東京都庁や区役所、消防署の職員と話をしていて、驚くことがあります。多くの人が東京生まれではない。居住地も都外や区外の方が多いようです。

 

* 東京は、隣接県からの遠距離通勤も多いです。総務省の平成25年度統計によると、関東大都市圏の雇用者のうち、1時間以上の通勤時間を要している割合は29%で、近畿大都市圏の19%、中京大都市圏の11%と比べて厳しい通勤状況です。

 

* 東京は住宅の平均延べ床面積も、全国平均の94平方メートルに対して、64平方メートルと最小。大阪は76平方メートル、愛知は95平方メートルもあります。遠くて狭い住宅事情が、出生率の低さにもつながっているようです。東京の合計特殊出生率は、全国平均の1.43人を大きく下回り、1.21人と最下位です。

 

* 東京には独り身の人が多く、2015年の統計によると、単独世帯の割合は全国平均の34.6%に対して、東京は47.2%です。

 

地方では、県庁や市役所の職員の多くは地元出身者です。地元出身や居住でないと、地域特性の把握や、土地勘・地元愛などにも差が出てくるのではないかと感じます。

 

公立以外の国立や私立中学の生徒数の比率は、全国平均がわずか8%に対して、東京は25%もあって最大です。地元の小中学校は地域コミュニティーの中心ですが、ただでさえ子どもが少なく、地元の公立学校に通わないようでは地域との関係が疎遠な人が多くなります。災害対応で重要となる地域力の弱さが気がかりです。

 

食料やエネルギーの自給力も、地方と比べて劣っています。農林水産省によると、2015年度の食料自給率は、カロリーベースで全国平均39%に対して、東京はわずか1%。新潟や福島、青森の原子力発電所に頼ってきた電気など、食料やエネルギーの他地域への依存度が高いため、他地域での災害の影響を受けやすくなります。

 

* 第3次(サービス)産業で働く人の比率が高いのも東京の特徴です。2005年の国勢調査によると、第3次産業の従事者は、全国平均67.2%に対して、東京は77.4%となっています。農業従事者や建設業従事者の割合が低く、災害後の復旧・復興に大きな力を発揮する汗をかいて働く人が少ないように感じます。

巨大経済圏形成が進むなか「東京にこだわる」理由は?

関東大震災を思い出せば明らかなように、首都に何かがあったときの他地域への影響は計り知れません。今のような東京一極集中を続けるなら、東京の安全性を格段に向上させる必要があります。首都税を課してのインフラ整備や焼け止まり帯の整備、東京の建築物の安全性を他地域より高める「首都安全係数」の新設などを考えてもいいのではないでしょうか。

 

関東大震災から3週間余り後の9月27日、帝都復興院が設置され、後藤新平が総裁に就きました。

 

後藤新平 写真/時事
後藤新平
写真/時事

 

* 医者だった後藤新平は、24才で愛知県病院長になりました。今の名古屋大学医学部附属病院長に当たり、私とも少し縁がありそうです。

 

後藤は、予算規模40億円もの東京・横浜の都市計画と帝都復興計画を提案。その中身は、国による被災地の買い取りや100メートル道路の建設、ライフラインの共同溝化など、斬新な計画でした。

 

財政緊縮のため、予算は政府案の段階で約6億円に縮減されましたが、後藤は内務省の優秀な部下を使って計画を策定。彼でなければ描けなかった復興という大きなビジョンがあり、そのマインドが残って今の東京につながる都市計画の骨格ができたといえます。住宅も青山の同潤会アパートなどが実現しました。昭和通りができたおかげで、のちに高速道路もつくられました。

 

現在の東京の原形がここでできたのです。

 

* 後藤はもともと東北の出で、苦労して地元の医学校に行き、多くの人に見い出されて成長しました。学歴もなく、薩長出身でもない人が、自分の力だけで内務大臣や東京市長となり、東京を大改造する辣腕(らつわん)を振るったのです。

 

戦災復興時には、東京にそういう人がいませんでした。戦争に負けた後で、有能な人はみんなはずされたからです。連合国軍がやってきて、国の体制を守るのに必死で、復興まで考える余裕がなかったのかもしれません。

 

逆に地方には気概のある人がいて、独自の100メートル道路の街をつくった名古屋をはじめ、東京以外の多くの街では、都市がちゃんと形づくられました。

 

今の課題は、2020年のオリンピック・パラリンピック後の東京をどうするのか、でしょう。2027年にリニア中央新幹線が開通すると、東京と名古屋が40分で結ばれ、大阪も含めた「スーパーメガリージョン」(巨大経済圏)の形成が着々と進みます。そんな中で、リスクの大きい東京に住み続ける意味はどれだけあるのでしょうか。

 

今はテレワークもでき、高速移動手段もあります。人間の生き方が大事な時代ですから、リニアが止まる山梨や長野や岐阜に住む人を増やして、首都を小さくするべきではないでしょうか。東京は首都機能をつくるのにはよいのですが、人が住むのに適した場所ではないと、声を大にして言わなければいけません。東京では老人福祉施設や火葬場が不足していて、高齢になったときに苦労しています。定年後、元気なうちにふるさとに戻ってくれる人が増えたらいいなと思っています。

 

さて、最後にもう一度問います。

 

それでも、東京に住みますか?

 

* 魅惑的な東京に住み続けたい人は、東京の危うさに気付き、防災、減災の達人になってほしいと思います。

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名古屋大学教授 減災連携研究センター長

1957年生まれ、名古屋市出身。名古屋大学教授・減災連携研究センター長、あいち・なごや強靱化共創センター長、工学博士、日本地震工学会会長など。81年3月名古屋大学大学院工学研究科修了。同年大手建設会社入社。91年名古屋大学に転じ、2012年1月より現職。専門は、建築耐震工学、地震工学、地域防災。早期の耐震化を強く訴え、防災の国民運動作りを率先。「自然災害は防ぐことは出来ないが、その被害を減らすことはできる」という信念のもと、研究のかたわら、耐震教材を多数開発し、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている。巨大な建物を実際に揺らすことのできる世界に類をみない研究・展示施設、名古屋大学「減災館」はその結集とも言える。中央防災会議防災対策実行会議に設置された「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」の主査を務めた。

著者紹介

連載来たる大震災を前に本音で語る…巨大地震対策の実情

必ずくる震災で日本を終わらせないために。

必ずくる震災で日本を終わらせないために。

福和 伸夫

時事通信社

必ず起きる南海トラフ地震。死者想定は最大32万3000人。1410兆円の損失。それは日本を「終わり」にしてしまうかもしれない。直下地震で東京の首都機能喪失も。電気、ガス、水、通信を守り、命と経済を守り抜く。安全保障として…

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