信託する前後で「税金を支払う人」に変化はなし
夫:だんだん物忘れがして心配だよ。
妻:そうね、この間もメガネを探していて頭にかかっていたね。
夫:そろそろ不動産の管理を子どもに任せたいな。
妻:そうね、あなたも今年で75歳ね。
夫:だけど収入は渡したくないよ。
妻:それはそうね、まだまだ私たちもお金が必要だしね。
夫:何かいい方法はないかな。
妻:それは家族信託でしょう。
父親が賃貸住宅を長男に信託したとします。
委託者:父親(管理を委託した人)
受託者:長男(管理する人)
受益者:父親(利益をもらう人)
賃貸住宅の名義は、長男に移りますが、委託者=受益者(自益信託)のため贈与にはなりません。あくまで、賃貸住宅の利益を父親が受け取るから贈与になりません。
受益者を妻、または、長男にすると、委託者=受益者でないため贈与となります。そのため、贈与にならないよう、利益をもらう人を父親としています。そして、父親が利益をもらうため、従前通り、父親名義で確定申告を行います。
賃貸住宅の名義は、受託者である長男になっていますが、父親の確定申告で建物の減価償却費や修繕費などが経費になります。つまり、信託する前後で、税金については変わることはありません。
生前に「家族信託」しておくことで手続きが円滑に進む
賃貸住宅の管理を長男に任せただけで何もメリットがないと思われるかもしれません。ところが、ケースによっては、メリットがあります。
たとえば、父親が遺言を書こうとしたとき、すでに妻の判断能力がなくなっていると大変です。夫が先に亡くなっても、妻の生活費は必要です。ましてや、介護施設などに入居していれば、月々の利用料などの生活費が必要です。遺言で、賃貸住宅を妻に相続させることはできます。しかし、判断能力がないため、妻への名義変更後、入居者との賃貸契約書や修繕の発注ができません。
この場合、父親が生前に、賃貸住宅を長男に信託しておくと、名義が長男に変わるので、賃貸契約書も、修繕の発注も、円滑にできます。そして、信託契約で、父親は、「自分が亡くなったら、妻に受益者を変更する」と書いておくと、子どもたちの母への生活費の負担も軽くなり安心です。
この場合、信託財産は賃貸住宅とその敷地なので、妻が受益権を取得したときには貸付事業用宅地等として小規模宅地特例を受けることができます。
なお、信託財産が自宅とその敷地であれば、特定居住用宅地等として小規模宅地特例を受けることができます。