家族を思う気持ちの上に成り立つ「家族信託」
家族信託は、家族による家族のための民事信託です。受託者である家族が、受益者である家族のため、現在から未来へ、不安なく財産管理・資産承継をしていくための仕組みです。
家族信託が活用できるものとして、
●高齢の配偶者と委託者本人
●認知症の配偶者
●障がいを持つ子
●未成年者の子
●無計画で消費癖の強い子や配偶者
●後妻もしくは内縁関係
●事業承継者としての子および孫
●委託者本人および祖先の祭祀にかかわる者
など、さまざまな受益者像が見られます。〝魚心あれば水心〟の思い、相手がこちらに好意を持つならば、こちらも好意を持って応えるということで、活用してください。その主なものについて書いていきます。
二次相続以降の資産の承継先も指定できる
妻:Aさんの子どもさんが少し、ハンディキャップを持っていると聞いたよ。
夫:それは大変苦労しているだろう・・・。
妻:もし、Aさんが先に亡くなったら、子どもさんはどうするかな・・・?
夫:何か対策をしなければいけないね。
妻:生活面でも、経済的にも・・・。
夫:そうだな。
妻:税金面でも優遇されているものがあるかな?
夫:それはあるだろうな。
障がいを抱える子を持つ両親が、その子の生活や人生をどうやって支えていくかという両親が亡くなった後の「親亡き後問題」は重要です。両親が元気なうちに自分たちの死後に備えることが「家族信託」でその問題の解決への糸口となり得ます。
たとえば、重い障がいがある一人っ子のいる家族を想定した場合、両親亡き後、重い障がいがある子自身は遺言を書けず、独身で子もいないケースが多いと思われます。すると、この子に相続人はなく、将来この子が亡くなった際には、せっかく両親が大切に遺した財産は、有効活用できずに国庫に入ってしまうかもしれません。
それが「家族信託」を使うと、二次相続以降の資産の承継先まで指定できます。
子自身が使い切れずに残った資産は、お世話になった社会福祉法人に寄付をすることもできます。また、支えてくれた近所の人や親戚に御礼としてお渡ししたいという両親の想いも叶えることができます。そういう意味合いで「福祉型信託」といわれています。まずは、家族や親族を受託者とし、第一順位の受益者を委託者ご自身と定める自益信託をします。子と老後の生活の安定を図ります。
贈与税が非課税になる「特別障がい者扶養信託契約」
前述した通り、自益信託の場合には、贈与税が課せられません。自らの死後は、障がいをもつ子を第二順位の受益者に指定し、子の生活の安定を図ります。なお、受益権を相続人が引き継ぐ場合は、相続税が課税されます。
また、個人が、特別障がい者を受益者とする「特別障がい者扶養信託契約」により、金銭、有価証券その他の財産を信託すると、贈与税が非課税になる制度があります。温かい思いを障がいのある人に贈与する方法としては、直前の相続税対策としても非常に有利です。
特定障がい者扶養信託契約に基づいた信託は贈与税が非課税
重度の精神障がい者および2級以上の身体障がい者等である特別障がい者の親族が、特別障がい者の治療や生活の安定を図る目的で、金銭、有価証券、不動産等の財産を信託銀行などに特定障がい者扶養信託契約にもとづいて信託した場合には、その特別障がい者が受益者等である信託受益権のうち6000万円までの金額については贈与税が非課税になっています。
ただし、平成25年度税制改正で拡充された精神保健福祉センター等や精神保健指定医の判定により中軽度の知的障がい者とされた者、および障がい者等級が2級または3級である精神障がい者の親族が、同様に特定障がい者扶養信託契約にもとづいて信託した場合における、その障がい者が受益者となる信託受益権の非課税限度額は3000万円とされています。
この特例により贈与税が非課税とされた部分については、相続開始前3年以内の贈与について相続財産への加算の対象に含まれていません。
特定障がい者扶養信託契約とは?
特定障がい者扶養信託契約とは、特定贈与信託(図表15)と呼ばれ、特定障がい者(重度の心身障がい者、中軽度の知的障がい者および障がい者等級2級または3級の精神障がい者)の方の生活の安定を図ることを目的に、その親族(委託者)が金銭や有価証券等の財産を信託銀行等(受託者)に信託することです。
[図表]福祉信託の仕組み