贈与の事実を子が知らなければ「名義預金」に・・・
妻:あなた、長男に毎月、積立を5万円しているけど、預金で大丈夫なの?
夫:大丈夫だろう。年間60万円で、贈与税の基礎控除110万円以下だから。
妻:それだったらいいのだけど・・・。
夫:何か問題があると聞いたのか?
妻:この間、税金のセミナーで〝名義預金〟といわれているのを聞いたの。
夫:〝名義預金〟って何?
妻:預金の名義は長男だけど、お金の出所はあなたでしょう。だからこの預金はあなたのものといっていたわ。
夫:納得いかないな。
生前にまとまったお金を子どもや孫に贈与したいと思う親は多いはずです。しかし、目的もなく金銭を与えることは教育上問題になると思案し、なかなか贈与に踏み出せない場合もあると思います。
お金が自分の口座にあると相続財産は膨らむばかりです。また、お子さんにだまってコツコツと預金をためこんでいたとしましょう。贈与税も払っていたとします。しかし、その贈与の事実をお子さんが知らなければ贈与ということになりません。贈与税の申告をしていても同じです。これを「名義預金」といいます。
これを回避する方法として「信託」の活用があります。名義預金と認定されず、子や孫に秘密の贈与をする方法として自己信託を使います。「親が親自身に対して預金を信託する」ということです。
委託者が親、受託者も親にして、信託契約そのものは委託者と受託者の間で締結し両者(両方とも親)が合意します。そしてその信託から利益を得る受益者を子にするのです。信託契約で受益者にその旨を通知しなければならないのですが、特約で別段の定めをすれば知らせないことも可能になるのです。
自己信託は、簡単にいうと、信託の設定後も、本人が管理者となり、その財産の決裁権・裁量権を持つことができるわけです。
自己信託にする場合、原則的にその信託契約は「公正証書」で残す方がいいと思われます。公正証書は公証役場で保管され、記載された内容は法的な効力を有します。この方法であれば、子や孫に知られることなく贈与をすることが可能です。
したがって、親は公正証書で「信託宣言」をし、親名義の口座から親名義の口座にその金額を振替えて、その口座を信託口として分別管理します。
そうすれば名義預金とされることなく、親の現金を子や孫に贈与しながら、親の管理が可能になります。そして、教育上の問題も解決され、競争から共創へと考えを導くことになるよう希望します。
名義預金にしないための具体策とは?
税務調査による申告漏れの主な相続財産は、現金や預貯金による〝名義預金〟です。バブル頃までは、銀行の支店長が「お客様から100万円の定期預金、一口3万円の積立預金10口を獲得するまで店には戻ってくるな」と言うほどのモーレツな時代でもありました。その頃の銀行員は、犬の貯金箱や石鹸、サランラップなど、大量の粗品を置いて帰っていったものです。
そういう名残から、銀行の成績上、定期預金は長男で、積立預金は長女で・・・と名義を借り、その家のお母さんなどが〝しょうがないわね〟といってお金をコントロールするというのは、日常茶飯事でした。
(1)名義預金に認定されてしまうポイントとは
名義預金とは、簡単にいうと名前だけが違う、亡くなった人の預金という意味です。名義預金に該当するかどうかは、
●単に名義を配偶者や子・孫などの親族のものとしているもの
●形式的に贈与を行ったに過ぎず、実質的に贈与が成立していないもの
の2つに大別されます。さまざまな観点から総合的に判断する必要があり、主な判断基準としては次のようなものがあります。
●名義は親族等のものだが、その預金の管理・運用は誰が行っているのか
●通帳や印鑑の管理(実際の預入れ、引出し、預替え等預金の運用)は誰が行っているのか
通帳の名義人以外の人が行っていれば、名義預金として実質的に預金の出所の人の財産と認められる可能性が高くなります。
(2)贈与の証拠を残して名義預金にしない方法とは
贈与の証拠を残す民法上の贈与とは、
「あげましょう」
「はい、もらいましょう」
という契約で成り立ちます。たとえば、父が子ども名義で預金をしていても、その預金の存在を子どもが知らない場合は、子どもの「もらいましょう」という意思表示がないことから、贈与は成立していないと考えられます。そのため、税務上の時効は成立しないことになります。
名義預金にしないための具体策として、
①贈与契約書を作成(確定日付があればなおよい)
②金銭の贈与は振り込みの方法により、記録を残す
③子ども名義の通帳の印鑑は、子ども本人のものを使用し、子ども自らが管理する
以上をきちんとしておくことです。そうでないと、税務署は贈与を認めず、亡くなった人の財産となって相続税がかかります。
したがって、自己信託を検討して対策を練りましょう。