「理念」はコストゼロのマネジメント手法
「理念経営」と聞いて、どんなイメージがありますか?
理念経営が好きなタイプと、理念経営に嫌悪感を示すタイプ。この2つに分かれるのではないでしょうか。
後者のタイプの人は「理念経営なんてきれいごとじゃないか」と思っているはず。私自身、理念経営に懐疑的な人たちの感覚も理解しています。
しかし一度立ち止まって考えてみてください。
理念経営を英語に訳すと、どうなるでしょうか?
「ビジョン・マネジメント」
これで少しイメージが変わりませんか?
船井総研には「1:1.6:1.6の2乗の法則」というものがあるそうです。人から言われて無理矢理やらされる仕事の成果が1だとします。納得して取り組んだときの成果はその1.6倍。自発的にやるとさらにその1.6倍。つまり、強制されたときに比べて1.6×1.6=2.56倍の成果が上がるというのです。
社員をやる気にさせようと思ったら、給料を上げたり、休みを増やしたりして、労働条件を整えなければなりません。これにはコストがかかります。
ところがビジョンを掲げるのにお金はいりません。コストゼロ。それで社員の自発性を引き出せるのです。こんなお得なマネジメント方法はないでしょう。
「コストゼロで人がやる気になる経営戦略」
これがビジョン・マネジメントなのです。ビジョンを共有して、目的意識を持って仕事するだけで、2.6倍のパフォーマンスになるのです。それで成果が上がるなら、取り入れない理由はありません。
本来、企業理念は手段ではなく目的です。何のために企業を繁栄させるのか? 何のために成功するのか? 何事も目的が重要なのです。
しかし、このような考え方に嫌悪感を抱くタイプの皆さんは、まずは理念をコストゼロのマネジメント手法として取り入れてみてください。やっていくうちに自然と目的志向が身につくはずです。
企業理念とは、パソコンで言えば「OS」
それでは、企業理念とは何か。スマートフォンやパソコンをイメージするとわかりやすいでしょう。スマホやパソコンにはオペレーティングシステム(OS)が入っています。OSという土台の上で、さまざまなアプリケーションが動いています。
スマホアプリは、次から次へといろんなものが出てきます。しかし、古いOSに最新のアプリは乗りません。たとえ乗ってもサクサク動きません。なぜなら、アプリの容量が大きくなっているからです。
会社でいえば、OSが企業理念、営業手法やマーケティングツールがアプリ。世の中には、営業ノウハウがあふれています。コンサルタントもいくらでもいます。多くの会社がこうしたものを取り入れていますが、成果が上がる企業とそうでない企業があります。
その違いこそ、OSにあるのです。
私は高校時代、サッカー部員でした。夏合宿では「なんでこんなに走らされんの?」というくらい延々と走らされたものです。下半身をとにかく強化する。ドリブルやパスがどんなにうまくても、基礎体力がないと、当たり負けしてテクニックを生かせません。
この基礎体力がOSです。
多くの企業がいいアプリを求めています。これは簡単に手に入ります。
ところが基礎体力、つまりOSは一朝一夕には出来上がりません。
4〜5年前、東京で肉バルが流行りました。今は全国に波及しましたが、関西ではまだ珍しかったころ、A社とB社が関西で同じような肉バルを始めました。ところがこの2社は明暗が分かれました。
飲食業界は社員の離職率の高いこともあって、B社の社員は次々と辞めてしまったのです。社員が次々と入れ替わっては、質の高いサービスを提供できません。結局、B社は大コケしてしまいました。
片やA社は社員一人ひとりのキャリアプランが確立されていて、みんなが自発的に働く。だから社員たちのレベルが高い。精鋭揃いの筋肉質な社員たちがいる会社が、肉バルという人気アプリを導入したのです。当たらないはずはありません。
このA社の理念は「食文化を通してお客さまの暮らしを豊かにする」。ということは、何もアプリは肉バルに限らなくていいのです。実際、A社は肉バル以外の業態も運営していますが、どれも絶好調です。OSがしっかりしていれば、どんなアプリを乗せてもうまくいくのです。
[図表]
松下幸之助は、成功の50%を占める絶対条件が経営理念の確立、30%を占める必要条件が社風、残りの20%の付帯条件が戦略と戦術だと述べています。つまり、OSが8割、アプリが2割ということです。
受け継いだ会社が成功するかどうかは、OS次第なのです。