本記事では、資産運用先となる金融機関の選び方について、ある超富裕層の事例を見ていきます。※本連載では、ペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会社 代表取締役の山口聰氏に、超富裕層の資産運用のエピソードから、資産防衛のヒントを解説していただきます。

積極的な金融投資で財を成した超富裕層

今回のお客様は、50歳代前半の士業のG先生です。ご自身が主催する法人のほか、若い時から不動産収入を持ち、莫大な金融資産を保有されていました。

 

G先生がそれほどまでの超富裕層になられた理由は、士業ビジネスを積極拡大して成功させた、その優れたビジネス感覚にありました。

 

同時に資産運用にも積極的で、個別株式の信用取引からFX取引まであらゆる取引を経験されていました。金融商品での運用額はなんと30億円強。ご自身でインターネットを使って運用をされるほか、金融機関にも運用を依頼していました。

 

一般的に複数の金融機関と取引をしている超富裕層のもとには、ひっきりなしに担当者から提案があります。各社とも預かり資産を他社に持っていかれないよう必死で、ロットが大きくて高収益が狙える提案となると、各社とも提案内容はある程度似通ってきます。そこでお客様は相見積りのような形で各社の提案内容を比較検討することも少なくありません。

 

G先生は、まとまった資金を、超富裕層では定番の「外貨建て劣後債券」や「仕組債」の類、そして「投資信託」で運用していました。また資産全体のポートフォリオを意識するというよりは、商品ごとに目標リターンを決めて各々のパフォーマンスを重視していました。当然のことながら、提案内容や条件について非常に慎重に検討していきます。G先生の基準が相当シビアであったことは間違いありません。

金融機関は各々の「強み」で使い分ける

しかし今回のポイントは、G先生のシビアな基準ではなく、金融機関ごとに最も得意な商品分野を把握し、A証券は仕組債、B金融機関は外国債券、C証券は投資信託、というように使い分けていた点にあります。G先生いわく、

 

「機関投資家も多く取引するような劣後債などは、金融機関が在庫を持たずに相対で市場から直接調達するから、やはり欧米のメジャープレーヤーが圧倒的に強いよね。

 

仕組債も同じような傾向はあるけれど日系大手も強い。加えて仕組債は担当者のセンスもかなり重要かな。

 

あと投資信託は国内大手がフォローのバックアップ体制という点でしっかりしていると思う。まあ大手証券会社は人も多いし手広くなんでもやっているからね」

 

さすがはG先生です。超富裕層ならではの視点というべきでしょうか。担当者のセンスや力量もかなり重要ですが、金融機関ごとに強い分野があり、筆者の経験からも同感です。そこをうまく理解して利用すると、都度各社からの提案を見比べる手間が省け、各社の担当者との信頼度も高まってよい関係になるのではないでしょうか。

 

具体的には、欧米の主要金融が発行する外貨建て社債や劣後債などのハイブリッド証券、事業債などは、基本的に在庫をあまり持たない外資系金融機関が強いです。これらの債券は金融機関の相対取引で仕入れますので、やはりグローバルメジャープレーヤーである外資系金融機関の独壇場です。ちなみにインターネット証券のなかには外資系金融機関と遜色ない対応が可能なところが出てきています。

 

国内大手証券会社でも同様の対応は可能なケースもありますが、通常担当者から提案される場合はその証券会社の在庫玉であることが多いです。これは、証券会社が一旦マーケットから仕入れた債券を在庫ストックとして保有し、各営業店のお客様に提案リストとして案内しやすいようにしているためです。

 

また、大手証券会社では「店内打ち返し玉」というものがあります。これは、新規に債券が発行される際に販売を引き受けた証券会社のなかで、お客様に販売したものが、そのあとお客様の売りで販売証券会社が買い取り、ストックとなったものを指します。打ち返し玉はマーケットでの調達コストが無いので、実勢の水準からみて魅力的な場合があります。

 

仕組債については、発行体となって債券を組成するアレンジャーに条件を問い合わせる際、基本的にはどの金融機関から聞いても、同じ条件同じタイミングであれば理屈上では差はないはずです。しかし実際には、販売側の証券会社とアレンジャーとの関係で多少なり条件に差が出ることがあります。そもそも仕組債のプライスを出すアレンジャー側としても、刻々と変化する市況と自社のリスク管理の都合などで販売会社に提示するプライスは常に変動していますので、多数のアレンジャーと太いパイプを持つ国内外大手証券会社ではコンペ形式でベストプライスを入手することができます。

 

投資信託については、商品ラインナップ数でみれば断然国内系大手証券会社が多く、外資系は取扱数こそ少ないですが独自の外国籍投信を扱っていたりします。ただ、国内系大手証券会社の取扱数が多いといっても、今やインターネット証券でも各社の投資信託を取り扱っているため、単純に取扱数だけで見ると、大手証券会社に優位性はありません。そのためG先生はフォロー体制を重視されていました。商品で差別化しにくいのであれば担当者のフォローの質やその他のサービスが重要になります。担当者との相性もあるでしょう。

 

このように、G先生は各社の特徴や強みを把握して複数の金融機関とうまく付き合っていました。

 

 まとめ 

 

最後に、今回ご紹介した幅広い分野に積極的に投資を行うG先生の極意をまとめると次のようになります。

 

①比較的まとまった資金が必要だが投資妙味の高い外国債券は外資系金融機関で直接取引

②仕組債は国内外大手証券会社を通して複数の発行体からベストプライスで入手

③投資信託は担当者との相性と国内大手証券会社の手厚いフォロー体制を重視

④今後は商品やサービスが充実しているインターネット証券の活用を拡大

 

いかがでしたでしょうか。資産運用には商品の選択ももちろん重要ですが、パートナーとなる金融機関や担当者を選ぶところにもこだわるのがG様流の極意です。最近ではインターネット証券のなかにも十分な商品競争力を持った会社が出てきているので、今後はインターネット証券の活用を増やすことも検討しているそうです。

 

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