最終回となる今回は、超富裕層が購入している金融商品や、その活用の方法について見ていきます。※本連載では、ペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会社 代表取締役の山口聰氏に、超富裕層の資産運用のエピソードから、資産防衛のヒントを解説していただきます。

金融機関には富裕層向けに「専門部署」がある

これまで超富裕層と呼ばれる人たちが、どのような資産防衛、資産運用をしているかを、具体的な事例をもと紹介してきました。最終回となる今回は、超富裕層はどのような金融商品を買っているのか、またどのように活用しているのか、紹介していきます。なぜならそこには超富裕層に共通するパターンや考え方が存在し、資産防衛に対するヒントが隠されているからです。

 

実は「超富裕層向け」といっても、何か特別に利回りやリターンが高い金融商品が存在しているわけではありません。インターネットの普及に伴い、証券会社の担当者から「お客様だけに、特別なご提案をお持ちしました」と耳打ちされていたようなことはすでに遠い過去の話です。今や情報の格差はほぼ完全になくなり、あらゆる商品が誰でも簡単に小額から投資できる便利な時代となっています。

 

では、超富裕層向けの金融商品がないのかといえば、そうではありません。過去の連載でも紹介した、流動性がやや劣るハイブリッド証券や、オーダーメイドで組成する仕組債の類、特定の少人数の方向けに組成する私募投資信託などは、ある程度まとまったロットが必要なものであり、超富裕層が主な対象となる金融商品です。

 

これらの金融商品は投資妙味が高いことが多く(必ずしも高いとは限らない)、もともと細かく分割して取引できない事情があったり、オーダーメイドで組成するコストや商品性の面から投資単位が大きくなってしまったりします。しかし裏を返せば流動性が低かったり、リターンに対して負うリスクや複雑さが大きかったりする意味で、資産に余裕のある超富裕層向け商品と位置付けられている側面もあります。

 

証券会社や銀行、外資系金融機関には富裕層向けに専門部署があることはよく知られています。特に外資系金融機関には一般的な金融機関と違い、具体的な商品ラインナップをWEBやパンフレットで公開することはほぼないので、その秘密性がサービスや提案の期待値を上げているといえます。

「超富裕層向け」として限定されている商品も存在

超富裕層向け商品のリターンは必ずしもよいというわけではなく、金融機関では一般のお客様にも公募投資信託をすすめています。またおすすめの方法が特別というわけでもありません。金融機関が公表しているデータを見れば、むしろ、お客様自らが運用会社の直販を利用して購入しているケースのほうが、全体的にはパフォーマンスがよいという指摘もあります。

 

では、超富裕層向けの商品のメリットは何でしょうか。結論からいうと、超富裕層向けと呼べる商品のメリットは、お客様の投資ニーズやタイミングに対してきめ細かくオーダーメイドで対応したり、お客様の要望に対して会社の在庫ストックにないものを探してきたりする、「担当者の対応」そのものなのです。

 

仕組債を例にすると、お客様の希望する年限やリターンの水準、リスクの許容度など、細かく担当者と打合せをして丁寧に作りこむことができます。また、ハイブリッド証券なら金融市場で取引されている多数の発行体、多数の銘柄のなかからお客様の要望に応じて可能な限り近いものを探してくれます。そのような対応により、商品の選択とリスクセレクトの幅も飛躍的に広がります。同じ素材を使って料理をする場合でも、調理方法や手間の掛け方で完成する料理も変わってくるのと同じです。担当者の対応こそが超富裕層向け商品の特徴なのです。

 

一方で、商品自体が超富裕層向けとして限定されているものも存在しています。その一部を紹介しますと、海外で運用されているヘッジファンドなどの商品を日本国内でも購入できるように導入した外国籍投資信託や、金融市場とは基本的に関連性の薄い損害保険市場に投資する私募投資信託などがあります。

 

これらは株式や債券といった一般的な金融商品との関連性や相関関係が低い点で、より分散投資の効果を高めるものとして期待されています。たとえば損害保険市場関連の商品は、想定外の大規模な災害が発生して保険金の支払いが増加するような場合には、商品としての価格は下落傾向になりますが、そうでなければ比較的安定的なリターンが見込めるものです。

 

さらに、一定の金額を金融機関に預けて運用を任せるファンドラップに、より運用の個別性を持たせた一任勘定契約も充実しています。一般的なファンドラップに比べると投資金額は格段に大きくなりますが、より細かい運用方針を選択できたり、個別銘柄の組入れが可能であったり、海外の超富裕層が利用している投資商品と同じ投資が可能になったりするというメリットがあります。しかしコスト面で優位なケースがあっても、必ずしも運用自体が優位であるとは限りません。

超富裕層はローンの利用率が高い

これ以外に、証券会社でも一部取り扱いはありますが、超富裕層ほど利用しているケースが多いものに、保有金融資産を担保にするローン商品があります。これは何かの投資チャンスに対して機動的に動きたい場合、保有金融資産を換金することなく、たとえば1%で借り入れ3%で運用できれば合理的、というような考え方に基づく商品です。興味深いことに、金融資産や運用資産が多いケースほど、ローンの利用率は多いようです。徹底したリスク管理を行う超富裕層だからこそ、理に適ったレバレッジをかけてより効率的な運用を実現しているのです。

 

最後に超富裕層がどのように資産を分散しているかについてですが、運用資産の額は大きいですが、あまり複数の商品を利用していないケースが多いです。管理の煩わしさもありますが、リスク管理をしっかりした上で、リターンの実額を考えると細かくわけすぎないほうが効率的というわけです。一概にはいえませんが、一任勘定などのポートフォリオや株式投資の個別銘柄を除くと、保有商品は5つから多くても10くらいのケースが一般的ではないでしょうか。意外かもしれませんが、超富裕層は資産運用においては効率性も重視し、ある程度の集中投資を好む傾向があるようです。必要以上には分散させない、といったほうがよいかもしれません。

 

 まとめ 

 

今回は超富裕層が実際に購入したり利用したりしている金融商品や資産運用の方法について紹介しました。最後に超富裕層に共通する視点をまとめます。

 

①保有商品の数は数種から10種ほどと比較的少なめ

②投資信託や債券など、同種の商品では2~5銘柄ほどに分散

③金利やリスク、リターンを必ず数字で考え、合理的ならば借入金も活用する

④金融資産に占める運用資産の比率が高い一方で、キャッシュもその一部と考えて常に余裕を持つ

⑤担当者をしっかり選んで担当者との信頼関係を重視する

 

いかがだったでしょうか。超富裕層の資産防衛の方法は、自分が管理できる範囲内で、決して無理をせず、資産運用の効率と合理性を重視していることがよくわかります。また、転勤がある金融機関の担当者では難しいかもしれませんが、超富裕層の資産運用では、金融機関を特色や目的に応じて使い分け、信頼でき長く付き合えるパートナーがしっかりそばについている、ということも共通しています。

 

超富裕層というと、浮世離れした存在に思われがちですが、資産防衛や資産運用に対する考え方には、真似すべきところがあるのではないでしょうか。

 

 

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