本記事では、「私募投信信託」を活用し資産運用を行った、ある超富裕層の事例を見ていきます。※本連載では、ペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会社 代表取締役の山口聰氏に、超富裕層の資産運用のエピソードから、資産防衛のヒントを解説していただきます。

超低金利時代…預金金利がほぼゼロになった超富裕層

今回のお客様は、ある上場企業のオーナーであるE様です。

 

毎年の配当金の蓄積もあり、潤沢な金融資産を保有していました。仕事の関係で複数の金融機関と取引しているため、各社からひっきりなしに様々な提案が寄せられます。

 

非常に多額の資産を持つ方のなかには、専属で資産を管理するプロフェッショナルがついているケースがあります。E様も、資産全体を管理する専属の担当者F様がいました。

 

E様の資産のなかで最も多いのは自社株ですが、それ以外に運用可能な金融資産は、取引金融機関各社に分散して運用していました。

 

運用内容としては、資産全体の通貨の保有バランスに注意しながら、円建て・外貨建て預金を中心に、株式や投資信託、債券、仕組債の活用まで幅広いもの。商品自体は富裕層向けの特別なものではなく、いたってシンプルな運用ポートフォリオでした。

 

E様の運用の第一の目的は、資産を安全に管理していくことであり、自社株を除いたE様の運用資産の過半を占めるのが、普通預金と定期預金でした。投資機会を活用すること自体に興味は持っていましたが、あえてリスクを取る必要はないと考えていました。

 

しかしそうはいっても超低金利のご時世です。以前なら特別大口優遇金利で定期預金でもそれなりの利息がついていましたが、さすがのE様ほどの預金額でもほとんど金利はついていない状況でした。


安全性を重視したポートフォリオの管理を任されていたF様ですが、多くの預金金利がほぼゼロ近くになってしまい、さすがに困っていたようです。

 

2013年ごろのある日、「預金に比較的近い安全性を持ちつつ、いつでも換金できる流動性もあり、1~2%ほどの金利を確保できる円建ての商品アイデアはないでしょうか」と、相談がありました。

取れるリスクに合わせて作る富裕層専用の運用商品

2013年ごろといえば10年国債の利回りが0.7%くらいのころですから、なかなかの難題です。

 

まず話を聞いてイメージできる金融商品は、一昔前のMMF(マネーマネジメントファンド)や中期国債ファンドです。しかしすでにそのころにはMMFなどの公社債投信もほとんど利回りが無い状況でした。

 

いくら超富裕層といっても、市場の原理に反したうまい投資商品などありはしません。リターンを期待するには、当然何らかのリスクを取る必要があります。

 

いろいろ検討した上で出た結論は、お客様側が許容できるリスクを細かく分析して、その範囲でイメージに近いお客様専用の商品を作ってみよう、というものでした。

 

投資先としては社債などの債券が有力候補になりますが、当然ながら円建て債券では1%を確保することも困難です。必然的に外貨建債券が対象ということになります。

 

様々な債券を検討した結果、対象を主要金融機関の発行する債券とし、そのなかでも普通社債と期限付き劣後債までを対象とすることになりました。金融機関であれば格付け情報など信用性に対する情報が比較的多いことと、定期預金のようにあらかじめ満期日が確定していることを考慮した結果です。

 

お客様側の希望は期間3年くらいまでということでしたが、できるだけコスト控除後の利回りを確保するために、残存期間2年から4年までのドル建て債券を見繕い、円ベースで元本確保型(保証ではない)に近いスキームを作るために、為替ヘッジを付けた私募投資信託(=設定当初から少数の投資家や特定の機関投資家に対しての販売をを目的にした投資信託)の形で行うことになりました。

 

無事、大手運用会社が運用管理を引き受けてくれることで話もまとまり、具体的なイメージが見えてきました。

 

一番の難関は、お客様が期待する利回りとコストのバランスでした。

 

MMFや中期国債ファンドであれば、買付け時にお客様が別途負担する手数料はありません。今回も、買付け手数料はなしという強い要望がありました。しかし、お預かりした資金を債券に投資する私募ファンドとしてペイするには、相応の資金規模も必要です。

 

とはいえ、運用期間中の管理コストを上げるとお客様側の利回りが低下してしまいます。加えて、当時はまだ米国が金融緩和を継続している最中でしたが、やがて金融緩和政策の終了と共にヘッジコストが上昇するかもしれないリスクもありました。

 

こうして試行錯誤の上、最終的にでき上がったお客様専用商品の概要が以下になります。

 

●商品形態:私募投資信託

●投資対象:欧米の主要金機関が発行するドル建て普通社債と期限付き劣後債

●信託期限:4年

●買付け手数料:なし

●組入れ予定銘柄数:10銘柄

●平均残存期間:約3.6年

●ポートフォリオ平均利回り:約1.7%(コスト控除後)

●信託財産留保額 :あり

 

通常の投資信託では、組入れた債券が償還すると再投資していきますが、このファンドではスタート時に債券を一括購入したら満期まで保有し続けて再投資をしない点、つまり銘柄の組み換えなど運用を一切しないところに特徴があります。

 

こうすることで、組入れ債券がすべて期間内に償還され、組入れ債券からの金利収入がすべてファンド内にキャッシュで蓄積されるため、当ファンドが満期を迎える時点でどれくらいの投資利回りになるか、購入時にある程度見通せます。

 

これが元本確保型に近づけるポイントでした。

 

しかし投資成果があらかじめ確定していたり保証されていたりすることはありません。万一発行体が破綻したり、為替ヘッジコストが急騰したりした場合には元本を割り込む可能性があります。

 

安全性を重視した提案でなんとかお客様のご意向を実現しようとしますが、様々なリスクを取っていただいていることは事実です。

 

たった1%超しかない期待リターンですが、しっかりリスクを把握しようとすると様々な分析が必要になるのです。

 

 まとめ 

 

E様に取っていただいたリスクとしては次のようになります。

 

①年利1%以上の利回りを得るために、3年以上資金を固定化するリスク(再投資リスク)

②債券を発行する金融機関の信用リスク

③途中換金時には値下がりして投資元金を割り込む価格変動リスク

④為替ヘッジコストが上昇した場合に期待したリターンが得られなくなるリスク

 

このように、超富裕層は資産を守るための運用で細かくリスクを分析し、目的とするリターンに見合うか慎重に検討しているのです。

 

今回は私募ファンドという特殊なケースでしたが、リスクを分析する視点は通常の公募ファンドとまったく同じです。

 

投資環境が変化していくなかで、皆様がお持ちの投資信託も、リスクとリターンとコストがしっかり見合ったものになっているでしょうか?

 

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