本記事では、ある超富裕層の投資信託の選び方について見ていきます。※本連載では、ペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会社 代表取締役の山口聰氏に、超富裕層の資産運用のエピソードから、資産防衛のヒントを解説していただきます。

「シンプルイズベスト」を重要視した投資信託選び

富裕層の資産運用では「ポートフォリオの分散」についてよく話題になりますが、実際のポートフォリオは金融機関から提案された商品の集合体になっていたり、商品の組合せのバランスが悪かったりすることがあります。

 

そもそも金融商品の種類や数がとても多く、どのような視点で選べばよいのか、悩むことはしばしばです。そのような場合、富裕層はどのような視点で商品を選び、運用を行っているのでしょうか。一つのキーワードとして、「シンプルイズベスト」が挙げられます。今回は、経営者として日々多忙なある富裕層のシンプルな投資法について見ていきます。

 

今回のお客様は中国出身の50歳代前半の経営者。学生のころに日本に留学され、卒業後そのまま日本で貿易の会社を立ち上げて成功されたR様です。本業では多くの分野で展開をしていますが、トップであるご自身でしっかり会社をマネジメントし、事業は順調に右肩上がりで拡大しています。

 

そんなR様の資産運用のモットーは「シンプルに徹すること」。投資信託を選ぶ際には、価格変動の要因のわかりやすさを重視します。つまりシンプルな仕組みの投資信託であり、基準価額が動いた要因が自分ですぐに確認、理解できる単純なものしか選ばないのです。なぜなら、取引の際の判断は基準価額の動きを見るのではなく、その投資信託が実際に投資している投資先の状況を見て判断することが重要だからです。

 

具体的には、R様は株式や債券といった異なる商品が組み入れてあるバランス型の投資信託や複合資産の投資信託は避け、株式投信、それも投資先の国を1国に限定したものしか取引されません。米国の大型株に投資する投資信託であれば、為替レートの動きとNYダウの動きと投資信託の基準価額の動きを照らし合わせながら、変動要因が株価によるものか為替によるものかを把握する、といった具合です。

値動きの要因がつかみやすい投資信託を選ぶ

それではR様の実際の取引例を見てみましょう。

 

R様が取引した投資信託の一つに「ブラックロックのUSベーシック・バリュ・オープン」がありました。米ブラックロック社が運用を行い、設定が1998年7月というロングセラー商品です。ファンドの目的は、目論見書によると「主に米国株式を投資対象として、過小評価されている株式に投資し、値上がり益及びインカム収益を追求します」とあります。その名の通り、シンプルな米国株式へのバリュー投資スタイルを取る投資信託です。

 

R様はこの投資信託を2011年10月に買付けました。

 

「リーマンショックからちょうど3年が経ち、これから米国を中心に世界経済が回復に向かうとすれば、過去を見ても米国株式の上昇なくして世界経済の回復はないだろう。そうなればシンプルに米国の大型割安株を中長期保有するのが有効だろう」と考えたのです。

 

そして2015年の10月ごろ、世界では中国経済の不安が話題になり、米国では9年半ぶりの利上げ開始を控えたところで市場は不安定な動きを見せました。R様はそこで一旦利益を確定。期間中の動きは図表2の網掛け部分です。

 

[図表2]ブラックロック・ジャパン株式会社 ホームページより引用
[図表2]USベーシック・バリュ・オープン(引用:ブラックロック・ジャパン株式会社 ホームページ)

 

売却した判断のポイントを伺うと、「NYダウが史上最高値を更新したあと、中国を中心に世界経済の先行きに不透明感が出たことに市場が動揺したため、米国株を一旦売却してもよい水準に来たんだろうと判断ができた」とのことです。

 

さらに、「基準価額だけを見ていたら、単に買ったときよりずいぶん上がったということしかわからないから、売りどきかどうかの判断はそれだけだとできない」と付け加えました。

 

今回のポイントとしては、過去の米国株の歴史を見る限り、長期の力強い上昇トレンドが失われる事態は考えにくいとして、米国株全体の上昇の動きと為替の動きをほぼダイレクトに反映するシンプルな金融商品である点を重視し、この投資信託を選んだことです。シンプルな仕組みで価格変動要因がつかみやすいゆえ、売買のタイミングも検討しやすかったといえます。

 

R様はほかにも、日本株式、インドネシア国債、オーストラリア株式、J‐REITなど、投資対象を一国の同一商品のみに絞った投資信託を活用し、中長期的な視点で資産運用を行っています。このようなシンプルな投資信託であれば、一見してわかりにくい価格変動要因やリスクを不必要に負うことはありません。このような金融商品は、仕組みがシンプルな分だけ比較的コストを控えたものが多く、長期間運用されているロングセラー商品が多いのも特徴です。

 

 まとめ 

R様の投資法をまとめると、次のようになります。

 

①米国株式や日本株式のように、投資対象や投資先国は一つに限定した商品を選択

②さらに基準価額の変動要因が対象株式と為替に分解できる、といったようにわかりやすい商品を選択

③取引の判断は基準価額の水準ではなく、商品の投資先の動きや価格水準を見る

④テーマ型投信も、投資先の対象を絞ることで基準価額の変動要因がわかりやすい商品を選ぶ

⑤インデックスと比較できるようなシンプルな仕組みの商品を選ぶ

 

R様のように、投資信託の価格変動の実態をできるだけ正確に把握しやすい商品を選択することが、投資信託を活用した資産防衛の第一歩になるのではないでしょうか。

 

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