損保会社が自賠責の運用を牛耳る「交通事故保証制度」の問題点

本記事では、救済制度の不備で被害者が二度泣かされることになる「日本の交通事故賠償制度」の問題点を取り上げます。

交通事故被害者は「救済制度の不備」に泣かされる

私が、本記事で強く主張したいことは、交通事故被害者の立場をどう捉えるのか、その位置付けである。交通事故は、毎年70万人の負傷者を出し、うち4万人は重傷者であり、死亡者は4000人を超える。このような毎年多くの被害者を出すことが分かっているのであれば、それに対して国家として対応をきちんとすべきではないのか、適正な賠償を受けるための権利の充実のための制度を整えるべきである、ただそれだけなのである。

 

交通事故被害者は、その事故での痛みで泣く以外に、救済制度の不備によって二度泣かされるのだ。営利企業である損害保険会社が自賠責の運用を牛耳り、裁判所もなぜかその判断に流されている。このような歪んだ運用のため、我が国の交通事故賠償制度は国家補償としての役割も不完全であり、不法行為における損害賠償という点でも不十分であるという構造的な問題を抱えているのである。

 

我々(弁護士法人サリュ)としては、交通事故は国策災害であるという認識に立っている。それゆえ被害者救済を第一目的とした制度設計を再構築するべきであると考える。

 

スウェーデンのような社会保障的な制度設計に向かうのか、あるいは当事者間の不法行為賠償の枠組みを維持したフランスのような制度設計が妥当なのかは、議論のあるところであろう。いずれにしても、現行制度とその運用の仕方を見直し、新たな制度や運用の仕組みを考える必要があると考える。

 

交通事故被害者を取り巻く環境を変えるには、まずは、その立場を明確にすることだ。交通事故被害は国家政策の被害であると位置付け、交通事故被害者は被害を回復する「権利」があるとまず位置付けるべきである。

 

交通事故被害者が、その被害を回復することが権利として認められることは当然だが、現在の状況を考えたときに、改めてその権利性を強調することに私は意義があると考える。そのうえで、交通事故被害者の権利を確保するために、どのような制度を整えなければならないかを考えていくべきなのである。

 

症状固定までに置かれる交通事故被害者の窮状、症状固定に続く後遺障害認定の問題、そして、最終手段である裁判の問題。

 

以下で、これら我が国の交通事故賠償制度の問題点に対して、具体的に提言していこうと思う。もちろん現在の我が国の硬直化した社会において、制度の再構築や改革は非常に困難であり、一朝一夕にできるものではない。しかしながら現場に携わる弁護士として、たとえ希望的に見えたとしても、あえてあるべき姿=理想に沿った大胆な提言をすることが大切なのではないかと考える。

強制部分の賠償をもっと厚くするべき

強制保険と任意保険による2段階の賠償システムになっている我が国の交通事故賠償制度だが、強制保険が最低補償であるがゆえに、十分な賠償を得るためには任意保険による賠償が不可欠である。ちなみに死亡事故の場合、自賠責における対人賠償額の上限は3000万円である。しかし実際の賠償額が3000万円以内で収まったのは4割程度といわれている。残りの6割が3000万円を超え、しかも5000万円を超えるのは全体の約2割にも上るのである。死亡事故の半数以上が自賠責の賠償額を超えてしまうのだ。

 

しかし、いまだに自動車所有者の26.6%が任意保険に未加入である(2014年3月時点)。あなたが万が一交通事故に遭ってしまったとして、およそ4分の1の確率で十分な賠償を受けられないことになるのだ。被害者にとって相手が任意保険に入っているかどうかなど分からないし、選択することなどもちろんできない。

 

加害者が任意保険に未加入であれば、不足する賠償金は基本的には加害者本人が支払うことになる。しかし5000万円の賠償額だとして、未加入なら2000万円足りない。そんなお金を簡単に支払える人はいない。どんなにひどい後遺症を負ったとしても自賠責以上の賠償がなされないなら、被害者の損害とその無念はどう埋め合わされるのだろうか?

 

加害者が任意保険に加入していたか否かで、被害者が受ける賠償が左右されてしまうのだ。特に死亡や重度障害などの場合、加害者が任意保険に加入していない場合には、遺族や家族にも悲惨な結果をもたらすことになる。また、被害者だけでなく困難な支払い義務を負った加害者もまた同様に苦しむことになるのだ。

 

加害者が任意保険に加入していたか否かで、被害者が受ける賠償が左右されてしまう制度設計。これは、自賠責保険を導入した当初は、何より最低補償を整えなければならないという社会的要求に応えるため、やむを得ないことであっただろう。しかし、それから60年もそれを放置し続けたのだ。そこには、交通事故被害は自己責任であり、最低補償を整備しただけで十分であるというような発想が根底にあったとしか思えない。

 

しかし、賠償を受けることは、被害者の当然の権利である。その当然の権利が、加害者が任意保険に加入しているか否かによって左右されてしまう不平等な状態は一刻も早く解消すべきである。そのために、交通事故賠償は、すべて強制保険によって補償される制度を構築すべきとだと考える。

 

この点、イギリスやフランス、スウェーデンなどは強制保険でほぼ十分な補償ができるようになっている(イギリスとフランスは強制保険の限度額が無制限である)。しかも多くの国ではその運用を民間の保険会社が行っていることを考えれば、我が国においても決して不可能なことではないはずである。

交通傷害の治療費は健康保険の基準にすべき

交通傷害の医療費に関して、自由診療で行うのが一般的なため、治療費が保険治療よりも高い。1989年3月14日の東京地裁の「10円判決」で交通事故の傷害治療に関しても、健康保険診療報酬体系を基準にすることが妥当とされた。

 

この判決を機に同年6月に「新基準」が作成されたにもかかわらず、結局交通事故傷害に関しては自由診療が中心となっている。それは医療内容や医療費の審査を行う公平な審査機関がないからだと指摘されている。その結果、保険会社内部の不透明な医療審査に委ねられ、1点20円、30円の自由診療がそのまま続いているのである。

 

たとえば2000点の治療をしたとする。1点10円であれば治療費は2万円だ。ところが1点20円、30円の交通事故治療では4万円、6万円となってしまうのだ。それによって自賠責の傷害部分の限度額120万円にすぐに到達してしまう。

 

結局、自賠責の限度額で収めたいと考える保険会社はその分治療費の打ち切りを早め、被害者に不利益をもたらすことにつながっていく。さらに、被害者に過失がある交通事故のケースでは、治療費の一部も被害者が負担しなければならない。

 

先ほどの2000点の治療の場合、たとえば被害者に過失が2割あるとしたら、1点10円であれば4000円の負担になる。これが自由診療だと8000円とか1万2000円を被害者が負担しなければならないのだ。

 

欧州諸国では、交通外傷に対しても社会保険システムの中で処理され、医療内容や医療費は社会保険によって査定され処理されているという。そのため、我が国のように病院と保険会社が医療費をめぐって争い、交通事故被害者がその巻き添えを食う結果、満足な治療を受けることができなくなるということはないという。

 

我が国の健康保険制度は国民皆保険として定着し、世界的にも医療技術とサービスの高さが注目されている。そうであれば、交通事故による傷害治療に関しても、病院と保険会社の治療費を巡る争いを避けるために、すべて社会保険である健康保険を適用するべきではないか。

 

実際、被害者がその気になれば治療を健康保険で行い、治療費を1点10円とすることも可能である。ただしそれは保険会社の治療費打ち切りなどの支払い拒否により、やむなく健保を利用して自費で治療を受ける場合が多いのが実状であろう。ところが健康保険で治療していると、後遺障害診断書を書くことを拒否する医師や医師会が存在するのだ。

 

交通事故被害者の望むところは、ただ一日も早い治癒とそのために治療を受けることである。そして、その交通事故被害者の期待は、当然保護されるべき権利である。

 

治療費という、最も基本的な賠償における多くの問題は、一刻も早く解決されるべきだ。

示談代行を行う保険会社を縛る仕組みづくりが必要だ

交通事故被害者の二次被害についても触れたい。保険会社による症状固定や治療費打ち切りなどの強引なやり方、まるでこちらが詐病か濃厚診療をしているかのような扱い、それによって壊れてしまう医師との信頼関係・・・これらに被害者は傷付き精神的に参ってしまうのである。

 

このような二次被害の多くは、交通事故直後から症状固定までの傷害治療の段階で起きている。これは、なりふり構わず自賠責の枠内で収めようとする保険会社のやり方が大きな原因であることは言うまでもない。自賠責の上限を引き上げることは、そんな二次被害を避けるためにも有効だろう。

 

ただし、この二次被害の問題は根底に保険会社が示談代行権を持ち、治療の現場にまで好きなように口を挟んでくる現行制度そのものに原因がある。本来、示談は本人同士が話し合って行うものである。お金をもらって代理できるのは弁護士だけである(弁護士法第72条)。さまざまな経緯があって例外的に保険会社の示談代行は認められたが、保険会社が示談代行をするにあたって日弁連はいくつかの条件を出した。

 

1 裁判所基準に準じる任意保険支払い基準を定め、賠償金支払いの適正化を図る

2 中立の紛争処理機関を設置し、その斡旋案を尊重する

3 損害賠償金の内払制度を確立し、被害者の経済的負担を軽減する

4 被害者の保険会社への直接請求権を約款に明記する

5 被害者との折衝は保険会社正規常勤職員に限定する

 

これらの条件が果たしてどれだけ保険会社の横暴に歯止めをかけ得るかは疑問である。1の任意保険支払い基準は自賠責保険の基準と裁判所基準の中間であるべきとされ、その基準は裁判所の判例に応じて毎年見直されるとされていた。ところが2002年、保険の自由化によって任意保険基準が廃止されて以降、一般には明らかにされていない。

 

2の紛争処理機関として交通事故紛争処理センターが設立され、その斡旋案を保険会社は拒否できないとされている。しかし、同センターは中立的な立場であって、被害者のために積極的に戦ってくれるわけでもなく、中には被害者に不利な内容を平然と押し付けてくる委員もいる。また、被害者が申し立てを行わないと斡旋が始まらず、保険会社を縛る役割としては不十分である。

 

また5の被害者との折衝は保険会社正規常勤職員のみが行うものとされている。保険会社の正規常勤職員は、法的、医学的知識とこれまでの事例などに通暁した交通事故賠償のプロである。一方、被害者はそのような知識も経験もなければ、調査する手段や資金力もない。両者によって示談を行うのは小学生とプロレスラーが同じリングで闘うようなものだ。決して大げさな表現ではない。まさにそれくらいの開きがあるのである。示談代行を認めるならば、もう少し厳しい条件、制約があってしかるべきであろう。

 

残存症状について、後遺障害として認定を受けることができることを知らない被害者が存在するように、制度や権利を知らないがゆえに、被害者に不利益が発生している事例が存在するのだ。賠償制度を知らないことを自己責任として片づけてよいのか。適正な賠償を受けることが被害者の権利であるとした場合に、到底看過できない問題である。

 

賠償を受けることが被害者の権利であるならば、彼我の情報格差を解消する必要があり、そのためには、たとえば保険会社に、被害者に対する権利の告知を法律で義務付ければよいのではないだろうか。

 

この点、フランス交通事故法において権利の告知が義務付けられていることは前章で述べているところである。我が国の法制度においても情報格差を埋めるためにさまざまな制度がつくられている。たとえば、金融取引や不動産取引における重要事項説明書などは、読者の皆さんにも身近な制度ではないだろうか。

 

消費者と企業、一般の人と組織や団体、専門家というような両者の情報格差をできるだけ少なくし、フェアな取引を行う考え方は社会的なコンセンサスになっている。そうであれば、加害者と被害者という関係に立つ交通事故賠償において、被害者を保護するために保険会社との情報格差を埋める制度を導入することは、法制度としても当然ではないだろうか。

 

また、前著から問題にしてきたが、被害者に不利益な治療費の打ち切りや休業損害の打ち切りなどの問題が依然として存在する。任意保険会社が示談を代行する場合、その立場からして、被害者に不利益な治療費打ち切りなどを行う抽象的なおそれがあることは誰にでも理解できる。そうであれば、被害者の賠償を受ける権利を保障するため、適正な賠償をする義務を法律上課すべきである。

 

この点、フランス法では8カ月以内に適正な賠償額を提示することとされており、これらには罰則規定があるため違反したらペナルティが課せられることはすでに述べた通りである。このような制約があるからこそ、フランスでは強制保険を民間の保険会社が運用しても日本のような問題が起こらないのではないだろうか。我が国にも保険会社に対する同じような制約があってしかるべきである。

 

 

平岡 将人

弁護士法人サリュ 代表

弁護士 

 

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弁護士法人サリュ 代表
弁護士 

昭和52年、埼玉県生まれ。中央大学法学部卒業後、平成18年弁護士登録時より弁護士法人サリュに在籍。「われわれにしかできないことがある。そのために強くあれ。戦え。」というサリュの精神の薫陶を受ける。数多くの交通事故被害者の事件を手がけてきたが、依頼者を救うには制度そのものと対峙しなければならないと気付き、交通事故における障害者差別訴訟では画期的な勝訴を勝ち取るなど実績を残す。平成26年より同法人の2代目の代表に就任。「流されない、見失わない」法律事務所を作るため全国7事務所の弁護士とリーガルスタッフを束ね、日々邁進している。

著者紹介

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