2500万円まで非課税で贈与できる「相続時精算課税制度」ですが、一度利用すると元には戻せません。今回は、相続時精算課税制度の概要と、この制度を使うタイミング・留意点などを見ていきます。

2500万円まで非課税、超えた分は一律20%の贈与税

相続時精算課税制度を使っての贈与は、2500万円まで非課税です。2500万円を超えた部分については一律20%の贈与税がかかります。65歳以上の親から20歳以上の子への贈与で利用できるこの制度は、平成2711日以降は、60歳以上の親と祖父母から20歳以上の子や孫への贈与で適用と、その範囲が拡大されます。


たとえば、この制度を使って親が長男と次男に限度額いっぱい贈与すれば、一気に5000万円の相続財産が減ります。暦年贈与で少額を毎年コツコツと移転するより、まとまった額をごっそり移せるのは魅力でしょう。


いざ相続が発生した際は、相続時精算課税制度で贈与した財産は相続財産に組み込んで計算しなくてはなりませんが、すでに支払った贈与税分は相続税から控除できます。相続税より贈与税が大きく、払い過ぎていた場合は、申告すれば贈与税の還付が受けられます。
少しややこしいですが、簡単に言えば“相続税の前払い”です。贈与税と相続税の二重課税にはならないので安心してください。


たとえば、こんな使い方をする人もいます。自分が生きているうちに子に事業継承をさせたい親が、自社株をドンと1回で贈与してしまうのです。


相続時精算課税制度では非課税枠を超えた部分の税率が一律20%です。1億でも10億でも20%の課税です。相続税は5000万円以下なら20%以内ですが、それ以上になると累進課税で税率が上がっていきます。つまり、相続税より低い税率で子に会社を譲れるわけです。相続時に生前贈与分を加算するにしても、すでに支払った贈与税は控除されるので損とはなりません。株を全部移譲して事業を完全に引き継いでしまうことで、親子とも気持ちがすっきりします。

 

具体的な意図を持って実行しないと失敗につながる!?

相続時精算課税制度を利用するに当たっては、その条件を把握しておく必要があります。一度利用すると、もう元に戻せません。以下の4つの注意点を確認してから利用することを考えてください。

 

 父と長男、父と次男のように11の関係で、一生のうちに上限2500万円までしか非課税とならない
 一度、相続時精算課税制度を選択すると、再び暦年贈与を使うことはできない
 贈与を受けた財産がたとえ失われても、相続税の課税財産となってしまう
 相続時に精算する際は贈与時の評価額で行う


がデメリットとして働きやすいのは、相続まで時間がある場合です。3億円の財産を持つ人が相続時精算課税制度を選択し、長男次男への2500万円の贈与を行って5000万円を移転したとします。まだ25000万円が残りますが、残った25000万円については暦年贈与が使えないため、贈与する場合には必ず一律20%の課税がされます。相続までに時間がある場合は、暦年贈与の非課税枠を使い続ける方が得になる場合が出てきます。


がデメリットになりやすいのは、贈与する財産の価値が将来的に下がりそうな場合です。評価額にして2500万円の土地をこの制度を使って子に贈与したとします。ところが、5年後に相続が起きてみると土地の価値が下がり2000万円になっていました。5年の間に500万円分の財産が失われたことになります。それでも相続税は贈与時の評価額である2500万円で計算しなくてはなりません。


このように、将来的に値下がりしそうなものは、相続時精算課税制度での贈与には適しません。反対にいえば、将来的に値上がりしそうなものは適しています。2500万円で贈与した株が5000万円になったとしても、相続税の計算は2500万円で行えます。確実に値上がりが見込める財産がある場合には、この制度の選択を一考しても良いかもしれません。

 

単純に非課税枠を使って節税ができるという制度ではないため、実行する場合には個人の事情、資産状況や相続発生のタイミング、将来的な財産額などさまざまな点を考慮しなければなりません。つまり、具体的な意図を持って実行することが必要です。親が安易に選択して失敗しないためにも、利用する時には子の方から明確な意図があるかを確認しておきましょう。

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    本連載は、2014年8月25日刊行の書籍『相続貧乏にならないために 子が知っておくべき50のこと』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    大久保 栄吾

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