前回は、自社株の引き下げ対策について説明をしました。今回は、「戦略的な株式移譲」で会社を安定的に引き継ぐ方法を見ていきます。

会社の株式を毎期の決算ごとに移譲していく理由

会社を存続させていくためには、経営権を現経営者から後継者へバトンタッチしなくてはなりません。そのためには、現経営者が保有する株式を後継者に移譲することが挙げられますが、もう一つ、経営理念や経営方針などを引き継ぐことを忘れてはいけません。

 

事業承継では会社の株式、利益、社員といった目に見えるものだけでなく、会社の歴史やルール、未来設計といったところを丸ごと引き継がなくてはなりません。当然、相続が発生してからでは間に合いません。現経営者である被相続人が元気なうちから承継しておくべきことです。

 

とはいえ、事業承継について語ろうと思えば、それだけで一冊の本ができてしまいますので、ここでは株の移譲のみに話題を絞って説明します。

 

自社株を一気に引き下げて贈与するという方法は前述しましたが、中小企業の株式移譲は、基本は贈与で少しずつ移転します。毎期の決算終了後に自社の株価を算出し、後継者を中心とした親族(親族に後継者がいない場合には後継者となる社員など)になるべく低い税率、または110万円の非課税枠を利用して贈与します。

 

毎期コツコツと長期的に行うメリットがあります。節税のためだけでなく、後継者の成長に合わせる意味合いがあるからです。少しずつ株が後継者に移譲されることで、次期社長としての意識や心がまえを強くしていきます。すべての株を移転する頃には、一人前の経営者としての準備を整えます。

 

しかし、被相続人が早く経営権を譲ってしまいたいとか、病気や高齢で相続まで間がないという場合は、短期間もしくは1回で株を移譲してしまわなくてはなりません。この時検討するのが、前述した「相続時精算課税制度」です。

親族などへの株式の「分散」に留意

2500万円までの非課税枠を利用して、まとめて株を贈与してしまいます。ちなみに、後継者への株式の移譲の方法には、「非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度」という制度があります。

 

上場していない会社で相続が起きた時に、その相続税の納税を猶予してくれる制度なのですが、あまり使われていないのが現状です。というのも、これを選択すると、従業員を80%以上維持しなければならなかったり、相続後の相続株式を継続保有しなくてはいけなかったりと制約があるからです。

 

よほど経営的に安定していて今後もそれが続く見込みが大きい会社でないと、猶予を受け続けることは困難だと思います。ただし、この制度は年々規定が緩くなっています。将来的にはもう少し使いやすい制度になるのではないでしょうか。

 

株式を移譲する際の注意事項として、移譲を効率的に進めるために複数の親族に株式を分散させることがあります。その場合、株式の分散は経営権力の分散に通じますから、新たに経営者となった者の元に買い戻す必要が出てきます。

 

「株を手放したくない」とか「高く買い取ってくれ」と言われて困らないよう、事前に予防策を取っておくことです。

 

被相続人が遺言書で特定の事業継承者以外に株が分散しないように書いておく、会社の定款に会社経営に関与しない者に対しては株式を買い取ることができる旨の条文を入れておく、などの対策があります。

本連載は、2014年8月25日刊行の書籍『相続貧乏にならないために 子が知っておくべき50のこと』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続貧乏にならないために 子が知っておくべき50のこと

相続貧乏にならないために 子が知っておくべき50のこと

大久保 栄吾

幻冬舎メディアコンサルティング

額の大きな相続は、しっかり対策をとらないと相続税が大変。だからといって親が生きているうちから子が積極的に相続対策に関与することは「縁起でもない」ということで、なかなか難しい。 本書では親が生きているうちから、子…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録