命とお金に関わる保険は、生きている限りほとんどの人にとって必要不可欠な金融商品ですが、近年、その種類や保障内容が多様化・複雑化しています。本記事では、保険ショップを経営する筆者が、保険ショップのビジネスの仕組みを解説し、「保険ショップは、募集手数料が高い保険を勧めてくるのではないか」というよくある疑問に答えます。

保険会社の直販と保険ショップで募集される保険の違い

保険会社の外交員や営業担当者、専属代理店の場合、募集できる保険はその保険会社1社の商品に限られます。

 

一方で、最近増えている保険ショップは複数の保険会社と契約を結んでおり、多様な保険会社の保険商品の中から要望に合わせて保険を自由に組み合わせて加入することができます。

 

昔はどこの商店街にも1軒ぐらい、「町の電気屋さん」と呼ばれる店がありました。そういった電気店のほとんどが、一つのメーカーと専属契約を交わし、そのメーカーの商品のみを扱っていました。

 

一般家庭では、家電製品を買うときも、電球一つ買うときでも、この町の電気屋さんに足を運び、家中が同じメーカーの商品で統一されていることも珍しくはありませんでした。

 

かつての保険募集スタイルで主流だったのは、この「町の電気屋さん」方式です。保険会社の外交員や専属代理店が、一社の保険のみを扱っていました。

 

現在、家電製品を買うときに多くの人が足を運ぶのは家電量販店と呼ばれるお店です。

 

家電量販店ではテレビ一つとっても、シャープ、東芝、日立、パナソニック、ソニー等、数多くのメーカーの製品を扱っています。お客様は複数のメーカーの、数多くの製品の中から、自分の好みのサイズや機能、価格といった条件に合わせてどのテレビを買うか選ぶことができます。

 

例えるなら、この家電量販店スタイルが、現在の保険ショップの姿です。

 

保険ショップでは、多くの保険会社の保険を扱っています。取り扱い社数は保険ショップによって異なりますが、20社以上の保険会社と契約を結んでいる保険ショップがほとんどで、その分、1社専属よりも選択肢の幅が広くなっています。

 

この多様な選択肢、これこそが保険ショップの最大のメリットです。

 

保険会社の直販と、保険ショップで募集される保険の違いはどこにあるのかといえば、保険の商品そのものに違いはありません。あるとするならば、外交員の自社商品に関する知識レベル、自社の保険商品に対する愛情や情熱といったものかもしれません。しかしながら1社専属の保険外交員が情熱に溢れ、乗り合い型保険ショップのスタッフが保険に対する情熱がないのではありません。

 

一つの保険会社の保険商品で何十、何百通りもの保険商品の組み合わせがラインナップされていますので、もちろん一つの保険会社ですべての要望を満たした保険に加入することも大いに賛成ですし、私の会社にも「一つの保険会社に揃えてほしい」と要望されるお客様もいらっしゃいます。これは、どちらが良い悪いという問題ではなく、繰り返すようですが保険に何を求め、何を選択するかの過程に過ぎません。

 

私は保険ショップをファミリーレストランのようなものと例えて話します。一方で保険会社の直販は、言うならばラーメン専門店のようなものと考えてみてください。

 

ファミリーレストランには、ハンバーグもあればパスタもあり、和食の定食があり、うどんやそばもあります。デザートも、ドリンクバーもあります。

 

お腹が減って来店したお客様は、自分が食べたいものを、数多くのメニューの中から選ぶことができます。

 

一方、ラーメン専門店は店主の腕は最高で、とても美味しいのですが、ふとカレーが食べたくなってもメニューにありません。カレーが食べたいのなら、別の店に行かなければならないのと同じように、A社の保険のラインナップに加入したい保険がなかったとしたら、諦めるか、または別の保険会社を探さなければなりません。

 

保険ショップには、とにかくたくさんのメニューが揃っています。その中にはお客様の要望に沿うメニューが必ずあるはずです。希望の保険を求めてあちこちの保険会社をハシゴしなくてもいいというのは、お客様のメリットにもつながります。

保険を選ぶにあたり、手数料云々の話は本質ではない

来店型というこれまでの保険業界にはない募集スタイルで話題になった保険ショップですが、店舗の数が増えるに従って、良くも悪くも雑誌などで特集を組まれるようになってきました。

 

最近よくあるのが「保険ショップは、数ある保険会社の中でも手数料の高い会社の商品を優先して提案している」という記事です。

 

このような記事を読んで、保険ショップに何となく胡散臭さを感じている人もいるでしょう。

 

まず、保険ショップのビジネスの仕組みを簡単に説明しましょう。

 

保険ショップは、保険会社から保険の募集を委託された代理店です。当然、ボランティアで保険を募集しているのではなく、企業として保険会社から各保険会社が規定した保険募集手数料を得ています。これが保険ショップとしての収入になります。

 

簡単に言いますと、保険を1件募集するごとに、保険会社から募集手数料が支払われます。手数料は保険会社が支払うもので、保険に加入するお客様の負担分はありません。

 

ここで皆さんが気にするのは、募集手数料はいくらなのか、また募集手数料の高い保険を優先的に勧めているのではないかということでしょう。

 

設定されている募集手数料は、保険会社ごとに、また保険商品によっても異なります。

 

特に新しく発売になった保険や保険会社が重点的に募集を強化している保険は、手数料が高めに設定されている場合もあります。手数料が高い保険もあれば、低い保険もあるのは事実です。

 

先ほど挙げたように、「手数料収入の高い保険を優先的に勧めているのではないか」と雑誌や書籍で語られるのは、それが原因かもしれません。

 

正直に言うと、そのようなことをしている保険ショップがあるのかないのか、実際のところはわかりません。個人的にはそのような保険ショップはないと思いたいのですが、もしかしたら、お客様のニーズに合わなくても、とにかく手数料の高い保険を勧めているところがあるのかもしれません。こればかりは全国津々浦々の保険ショップすべてを知り尽くしているわけではないので、わからないとしか言いようがないのです。

 

しかし、保険を選ぶにあたり、手数料云々の話は本質ではないと私は思っています。

 

実際に保険ショップで勧められた保険の手数料が高いのか低いのかということを、お客様は知りません。

 

手数料を支払うのは保険会社であり、お客様ではないのですから、まずは「役に立つ保険」に加入することに注力してほしいのです。

 

例えばすし屋に行って、好みのネタを頼んだとしましょう。1貫200円の握りずしを前にして「この握りずしの原価はいくらだろうか」とはあまり考えないはずです。美味しい好みの握りずしが味わえて200円の価値があると思えば、わざわざ隣のすし屋のネタの値段を調べて比べるような真似はしないでしょう。

 

それに意外に知られていないことですが、保険はどこで加入しても同じ保険料です。保険商品は保険会社の外交員を通して加入しても、保険ショップで加入しても、皆さんが支払う保険料はまったく同額です。

 

だとしたら、募集手数料の高い低いはあまり重要ではなく、最も大切なのは自分のライフプランにマッチした保険であるかどうかのはずです。

 

このライフプランという基本がないままに保険に加入しようとすると、手数料の金額が気になってしまうのかもしれませんし、適正な保険を勧められているにもかかわらず「余計な保険に加入させられるのではないか」と疑いを抱いてしまうのかもしれません。

 

例えば、A社とB社の2つの保険会社の保険で、共に死亡保険は3000万円だったとします。違いはA社のほうが、手数料が高く設定されていました。

 

商売じみた話かもしれませんが、お客様にとっては、保障内容や給付条件、保険料が変わらなければA社の保険でもB社の保険でも、保険商品の選択を大きく左右することにはならないかと考えます。

 

本来、手数料収入は皆さんが「役に立つ保険」に加入することと別の話かもしれませんね。

 

関係があるとすれば、前述したように本当は3000万円の保障で十分なのに、5000万円の保障を勧めるなど、お客様の要望を無視して手数料の高い保険を勧めるといったケースでしょう。

 

津々浦々の保険ショップを知り尽くしていないのと同様に、このようなケースがあるのかどうかはわかりませんが、もしあったとしても、そのような保険ショップは早々に淘汰されてしまうでしょう。そのような不誠実なビジネスは、決して長続きしません。

本連載は、2015年6月26日刊行の書籍『死亡保険金は「命の値段」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

死亡保険金は「命の値段」

死亡保険金は「命の値段」

杉山 将樹

幻冬舎メディアコンサルティング

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