近年、医療機関に対しても労基署の調査が頻繁に行われており、「病院はもちろん、クリニックであっても、いつ労基署が調査に入っても珍しくない時代になった」といわれています。本記事では、就業規則に明記することで、のちの経営を縛ることになりかねない条件等を見ていきます。※本連載は、現在開業している医師、これから開業を目指す医師に向けて、人事労務管理のポイントを平易に解説します。

独自ルールもOKだが、法律を下回る内容では効力なし

就業規則・労使協定

 

就業規則とは労働者の給与や労働時間などの諸条件や、職場内のルール等を定めた規則集です。

 

就業規則を作成することによるメリットは以下の通りです。

 

①使用者

●自身のルールを明文化して労働者に通知することができる。

●合理的かつ効率的な労務管理を行うことができる。

●無用なトラブルを回避し、安定した労使関係を構築できる。

 

②労働者

●クリニックのルールが明確になり、安心して働くことができる。

●自身の労働条件と権利がいつでも確認できる。

 

就業規則に記載する内容には、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、自身のクリニックで独自に定める場合に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)とがあります。

 

絶対的必要記載事項

①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項

②賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

③退職に関する事項(解雇の事由を含む)

 

相対的必要記載事項

①退職手当に関する事項

②臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項

③食費、作業用品などの負担に関する事項

④安全衛生に関する事項

⑤職業訓練に関する事項

⑥災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項

⑦表彰、制裁に関する事項

⑧その他全労働者に適用される事項

 

上記⑧については、具体的には服務規律や採用、休職、育児休業、懲戒事由等をはじめとしたクリニック独自のルールのことを指します。記載する内容は自由ですが、法律を下回わる内容を記載した場合には、当然のことながらその効力は認められません。

 

次に、クリニックにとって、記載したほうが良い事項、記載しないほうが良い事項の具体例をいくつかご紹介します。

「昇給・賞与」の確約は書かないほうがいい

記載したほうが良い事項

 

●昇格、降格

労働者の数が増えてくると、副院長や事務長といった役職を定める必要があるため、昇格の制度を設定していくほうが管理上スムーズであるといえます。また労働者の私的な事由でパートタイム勤務となりその役職を全うできなくなった場合や、プレイヤーとしては優秀で昇格したものの指導力が不足しており役職適正なしという判断を下した場合等に降格を命じる必要もありますので、就業規則に明記しておくべきです。

 

●人事異動(配置転換、出向、勤務場所の変更等

極端な話かもしれませんが、看護師として採用した者がイップスのような症状になってしまい、看護師業務に従事させ続けることが危険と判断し、配置転換をする場合には必要となります。またMS法人設立による転籍出向や、分院開設にともない本院からの勤務場所の変更等もありますので、人事異動については詳細に規定すべきです。

 

記載しないほうが良い事項

 

●昇給、賞与の確約

昇給は1年で〇〇円とする、賞与は基本給の〇ヶ月分といったような、給与基準を定めてしまうと、法的に使用者に支払い義務が発生します。経営規模が小さなクリニックにおいては金額の確約をすることで経営に大きな影響を及ぼすこともあるため記載しないほうが良いといえます。

 

労働者から確約をしてほしいという要望が上がっても、これらは使用者の裁量範囲で決定できることですから、記載方法としては「クリニックの経営状況や労働者の勤務態度による」と規定しておくべきです。

 

休職期間中の待遇

 

長期間にわたる休職期間の設定をはじめ、休職開始から数ヶ月間の給与支給を確約する等を記載すると、これを不当に利用しようとする労働者も出てくるため、記載しないほうが良いと思われます。

 

また、常時10人以上の労働者を雇用しているクリニックでは、就業規則を作成し、労働者の過半数が同意する代表者の署名がある意見書を添付したうえで、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。就業規則は労働者への周知義務があるため、周知されていない場合にはその効力は無効となります。

 

よって就業規則は院長室に保管するのではなく、労働者がいつでも閲覧できるように、見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などによって周知すべきです。

 

一度就業規則を作成したらそれで終わりというわけではありません。クリニックのルールは必要性に応じて変更していくことが重要です。具体的には以下のような場合があります。

 

●新たなルールの導入(退職金・休職制度の新設、服務規律の変更等)

●クリニックの事業規模拡大(副院長や事務長等への昇格要件の追加・分院の開設等)

●法改正(民法、労働法等)

●時代の変化(SNS等による情報漏洩に代表される変化への対応等)

 

また、就業規則を変更したら当然のことながら、その変更の届け出も忘れずに行わなくてはなりません。

 

[図表1]就業規則(変更)届

 

[図表2]就業規則意見書

 

 

もうひとつ留意すべき点として、分院開設時やMS法人設立時において、本院と同一の労働条件で雇用し、同一内容の就業規則が適用できるようにすべきです。というのも同一グループ内で異なる労働条件を設定していると、昇給、賞与、有給取得や長期休暇等の条件が不一致となるため労働者間のトラブルに発展するからです。また先にも述べた通り同一グループ内での人事異動も想定されますので、異動先で労働条件が変わってしまうことで労働者の不安や不満が生じてくるため注意が必要です。

 

就業規則のほかに労働条件を定めるうえで忘れてはならないのが労使協定です。労使協定とは、労働者と使用者の間で締結される書面による協定のことをいいます。労使協定は、労働者一人ひとりと書面を交わす雇用契約書とは異なり、労働者の過半数が同意する代表者との締結をすることにより、クリニック全体のルールとして正式に認められることになります。なお、労使協定には、労働基準監督署への届出が必要なものとそうでないものがあり、種類も多岐にわたっておりますので、ここではクリニックの運営上、必要性の高い事例をいくつかご紹介します。

残業をさせるには協定書の届け出が必須

労働基準監督署への届出が必要な労使協定

時間外、休日労働に関する協定届

残業を行うすべてのクリニックにおいて必要です。この協定書の作成・届け出がないと、労働者に対して残業を命じることができません。

 

●変形労働時間制に関する労使協定届(1週間単位、1ヶ月単位、1年単位)

1日8時間、1週40時間以内という労働基準法の原則的な労働時間を超えて、弾力的な所定労働時間の設定を行う場合において必要となります。例えば「1日9時間×週4日・1日4時間×週1日」の40時間労働や、隔週で休日が異なる「1週目48時間労働、2週目32時間労働」といったような場合があります。

 

[図表3]時間外休日労働に関する協定届

 

 

[図表4]1ヶ月単位の変形労働時間制に関する協定届

 

 

労働基準監督署への届出が必要でない労使協定

一斉休憩の適用除外に関する労使協定書

本来休憩時間は労働者全員に一斉に与えなければいけません。そのため昼の休診時間を設けずシフトによる交代制でクリニックを運営するような場合は必ず必要となります。

 

●年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定書

年末年始やゴールデンウィークの飛び石となっている日や、院長の学会や研修会参加にともなう休診日を、有給休暇に充当する場合に必要となります。

 

●賃金控除に関する協定書

労働者の給与から、旅費の積立金、研修会の費用、社宅の家賃等を控除して給与を支給する際に必要となります。

 

法令遵守が求められる昨今、これらの備えをすることで労働者との信頼関係を構築していくことが、安定したクリニック運営につながるといえるでしょう。

 

[図表5]一斉休憩の適用除外に関する労使協定書

 

[図表6]年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定-1

 

[図表7]年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定-2

 

[図表8]年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定-3

 

[図表9]賃金控除に関する協定書

 

 

髙田 一毅

みなとみらい税理士法人 髙田会計事務所 所長 税理士

 

クリニック人事労務読本

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髙田 一毅

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