有給休暇や育休・産休の取得は?「医療機関の休暇」の実態

近年、医療機関に対しても労基署の調査が頻繁に行われており、「病院はもちろん、クリニックであっても、いつ労基署が調査に入っても珍しくない時代になった」といわれています。本記事では、円滑なクリニック運営に欠かせない、従業員の有給休暇取得のルール策定について解説します。※本連載は、現在開業している医師、これから開業を目指す医師に向けて、人事労務管理のポイントを平易に解説します。

有給休暇が付与される日数は、法律で定められている

年次有給休暇は常勤職員だけでなく非常勤職員(パートタイマー・代診ドクター等)にも付与されます。付与される休暇日数はその者の所定労働日数等によって以下の通りとなります。なお、週所定労働時間が30時間以上の者の有給日数は、常勤職員の有給日数と同等です。

 

[図表1]常勤職員の有給日数

 

[図表2]非常勤職員(週所定労働時間が30時間未満の者)の有給日数

 

また、代診ドクターで毎週1回必ず出勤する場合には、[図表2]に基づき入職6ヶ月経過後、年間1日が付与されます。これらについては意外と知られていないのが事実です。

 

クリニックの運営を円滑にするには、有給休暇についての細かなルールをあらかじめ定めておく必要があります。具体例をあげますと以下のような項目が考えられます。

 

有給休暇の取得単位

 

有給休暇の消化は原則として1日単位です。よく労働者側の希望として半日単位の消化を認めてほしいということを聞きますが、それを認めるか否かはクリニックが定めるルールに基づきます。なお有給休暇の取得を1時間単位とする場合には労使協定を結ぶ必要があります。しかしながら運用上、煩雑になるためお勧めしません。

 

申請方法

 

法的には申請方法は定められていません。よって口頭による通知でも有効です。また申請先は院長と明文化されているわけでもありません。しかしながら「有給休暇を申請する際は有給休暇申請書を院長に手渡しすること」というような申請方法を定めておくべきです。そうしなかったために院長の知らないところで労働者が事務長の許可を得て有給休暇を取っていたという事案が実際に起こっています。これにより診療当日に看護師が不足し円滑なクリニック運営が出来なかったのです。

 

なお、有給休暇申請書を設置する場合、取得理由の記載義務が労働者側にはないため、該当欄を作成しないほうがベターです。言い換えるならば労働者は理由を問わず有給休暇を取得することができるのです。

 

有給消化の申請期限

 

○○日前までの事前申請が必要である旨をあらかじめ定めておくことをお勧めします。何日前までに申請しなくてはいけないという日数の設定については、客観的に見て合理的でありかつ妥当な日数であることが必要です。一般的には、1ヶ月前にしておかないと非常勤職員のシフト表作成に支障を来します。申請期限を定めていない場合には、トラブルとなるケースが多く、円滑なクリニック運営を阻害する要因となります。

 

有給消化の事後申請

 

体調不良等の理由により欠勤した労働者から、欠勤した日について有給休暇を消化したことにしてほしいという要望がよく聞かれますが、使用者においては、事後申請による有給休暇を認めなければいけない義務はありませんので、クリニックごとにルールを定める必要があります。

 

これまで有給休暇取得の際のルールを説明してきましたが、ここからはクリニックの運営にあたって留意すべき制度について解説します。

 

計画的付与

 

使用者は、労使協定を結ぶことにより、年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分について、労働者の請求する時季によらず、労使協定で定めた計画的時季に付与することができる制度のことです。この制度を利用することにより、本来は勤務日であるはずのゴールデンウィークの飛び石の日を有給休暇の消化日としたり、院長が学会参加により休診とする日等を有給休暇の消化日として処理することが可能となります。

 

労働者側のメリットとしては、前もって休診日を知ることになり個人的なレジャーの予定を立てたり、平日でなければ処理できない役所や銀行手続きを行うことが可能となる等があります。使用者側のメリットとしては、有給休暇消化日程を前もって決定できるので、クリニック運営をスムーズに運んでいくことが可能となります。

 

実際に計画的付与を行う場合には、就業規則の定めるところにより、スタッフの過半数を代表する者との間で、書面による協定(労使協定)を締結する必要があります。

 

そこで定める項目は次の通りです。

 

①計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者)

②対象となる年次有給休暇の日数

③計画的付与の具体的な方法

④対象となる年次有給休暇を持たない者の扱い

⑤計画的付与日の変更

 

時季変更権

 

労働者が有給休暇の時季指定をした場合、その有給休暇取得によってクリニックの正常な運営が妨げられるときには、使用者は有給休暇の取得を拒否する権利(時季変更権)があります。

 

時季変更権の行使の適否は、事業の内容、規模、労働者の担当業務、事業活動の繁閑、申請があった有給休暇の日数、他の労働者の休暇との調整等の様々な要因を考慮して判断しますが、使用者は労働者の希望が実現されるように配慮をすることが求められます。そのため単にマンパワーが不足するからという理由だけで労働者が希望する日の有給休暇取得を拒否することはできません。また、スタッフが指定した時季に有給休暇を取れるような配慮(代替要員の確保等)を使用者が怠った状態で行使された時季変更権は無効となります。

 

有給休暇の時効

 

有給休暇の消滅時効は、有給休暇が取得可能となった時点を起算日として2年間です。労働者が有給休暇の取得請求をしなかった場合に、この消滅時効にかかった有給休暇の未消化分については、すべて無効となります。言い換えれば、40日間が上限となり、それを超えた日数については消滅することになります。

 

有給休暇の買取

 

有給休暇を事前に金銭で買い取ることは禁止されています。しかしながら例外的に、労働者がその権利を行使せず、時効や退職等の理由でこれが消滅するような場合、残日数に応じて金銭の支給をすることは、事前の買取とは異なるため、必ずしも禁止されていません。そのため例えば退職時に引き継ぎをしっかりやってくれたことで有給休暇を消化できなかった労働者に対して、退職金に加算して有給休暇の未消化分を支給するというのもひとつの選択肢です。

労働者の産休・育休希望は、原則拒否できないが…

産休とは、出産予定日前6週から出産日までの産前休業と、出産日の翌日から8週の産後休業のことをいいます。産前休業は労働者から休業の申請があった場合において休業をさせることが使用者に義務付けられており、産後休業は労働者に就労の意思があったとしても使用者は休業をさせなければいけません(労働者本人が請求し、医師が認めた場合は産後6週経過後からは就労可)。

 

育休とは育児休業のことであり、1歳に満たない子どもを養育する労働者は、申し出をすることにより、以下のように育児休業を取得することができます。

 

原則として、子どもが1歳になるまでの間で希望する期間について育児のために休業することができます。これについては事情を問われることはありませんが、後述するように労使協定により取得できないケースがあります。

 

例外的に、子どもの1歳到達日において、保育所に入所を希望し申込みをしているにもかかわらず、子が1歳に達する日後の期間について当面入所が受け入れられない場合等の事情がある場合には、1歳到達日の翌日から1歳6ヶ月に達する日まで育児休業を取得することができます。次に1歳6ヶ月到達時点で同様である場合に労働者が再度申請することにより2歳に達する日まで育児休業を延長できます。

 

この2歳までというのは2017年10月に改正された内容であり、今まで最長で1歳6ヶ月であったものが、半年間延長されたわけです。使用者である院長にとっては今後ますます育休中のスタッフ配置を考えていく必要があります。

 

労働者が産休・育休を希望する場合は原則としてそれを拒否することはできませんが、長期間休まれてはクリニック運営上支障を来すから、いっそのこと辞めさせたいという院長も少なからずいらっしゃるというのが実態です。

 

しかしここで冷静に考えていただきたいのですが、入社してから出産するまでの従事期間と復帰してから退職するまでの従事期間とを比較すると、通常は圧倒的に後者のほうが長くなるはずです。クリニックの長期的な運営を考えれば、いかに辞めてもらうかよりも、いかに復帰をして長く勤務してもらうかを考えるほうが最終的にクリニックの存続には有効です。

 

そのためには、休業前に労働者と復帰予定日を相談したり、休業中の人員配置(補充採用をするのか、パートスタッフに勤務日を増やしてもらうのか等)を検討したり、同様に経過確認やクリニックへの帰属意識を保持するために定期的に連絡を取るべきでしょう。

 

何より育児休業を取得したいといった労働者と院長が揉めていては、他の労働者が不安になってしまいます。先輩が安心して育児休業を取得できて復帰後も変わりなく働いている光景は、他の労働者にとっての安心につながることを忘れてはいけません。

 

ただし、新たに採用した労働者の中には、1歳に満たない子がいるにもかかわらず親に子どもを預けられるので働けますといって就職をし、結局まともに働けず育児休業を申請するような者もいます。これでは使用者もたまったものではありません。こうした場合に、労使協定を定めることにより、以下の労働者については育児休業を認めないことができます。

 

●雇用されている期間が1年未満の労働者

●1年以内に雇用関係が終了する労働者(ただし、1歳以降延長する育児休業期間内において契約期間が終了する者を除く)

●週の所定労働日数が2日以下の労働者

 

またクリニックならではの留意点としては、労働者に適用されている健康保険制度によって受給できる権利が異なるということです。加入しているのが、健康保険(協会けんぽ・医療従事者健康保険組合等)であるか、国民健康保険(医師国保・歯科医師国保・市長村国保)であるかによって次のような違いがあります。

 

健康保険においては、出産手当金という産前産後期間における給付金の制度があるうえに、産休・育休期間においては保険料の支払いが免除されます。

 

一方で国民健康保険においては、出産手当金がないうえに、保険料の支払い免除もありません。よって休業期間中に収入がないにもかかわらず保険料負担が発生しますので、休業前にあらかじめ労働者に対してしっかりと制度を説明しておく必要があります。

 

[図表3]育児休業申出書

 

 

[図表4]育児・介護休業に関する労使協定

 

 

まれにこの点についての補塡をクリニックに対し求償してくる労働者がいますが、これは加入している健康保険における制度の違いであるため、使用者が補塡する必要は法的にありません。

 

 

髙田 一毅

みなとみらい税理士法人 髙田会計事務所 所長 税理士

 

みなとみらい税理士法人 髙田会計事務所 所長 税理士

1965年生まれ。兵庫県出身。
1984年栄光学園高等学校卒業。
1988年上智大学文学部新聞学科卒業。
2002年税理士登録。
2003年神奈川県鎌倉市に髙田会計事務所を開業。
2011年税理士法人化をして神奈川県横浜市西区へ移転。みなとみらい税理士法人髙田会計事務所(東京地方税理士会横浜中央支部所属)となり現在に至る。2016年4月現在、スタッフ総数63名、顧問先総数837件の医科歯科に特化した会計事務所の所長を務め、これまでのクリニック開院サポート実績は600件を超える。

著者紹介

連載円滑なクリニック運営を実現する「人事労務」管理のポイント

 

クリニック人事労務読本

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髙田 一毅

幻冬舎メディアコンサルティング

コンサルティング実績1000件超! 医科・歯科特化の税理士が明かす“人事労務管理の極意” 「優秀なスタッフを採用したい」「スタッフの離職を防ぎたい」 人事労務管理に悩むクリニック経営者は多いと思います。 また、人…

 

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