当初の離脱協定案が大差で否決された後、21日に表明されたメイ首相の代替案と、英国下院議会が提案した動議の採決結果を比べると、メイ首相の6勝1敗と見られます。ただ、市場の反応を見るとポンドは小幅ながら下落しました。市場は次の点を懸念していると見ています。
英国下院EU離脱修正案:バックストップ代替案などの修正案が承認される
英国下院で2019年1月29日、英国の欧州連合(EU)離脱合意案に対する7の修正案に採決が行われました(図表1参照)。賛成多数で可決された動議(修正案)は2つで、主に労働党などが提案した動議は否決されました。
[図表1]英国下院における修正動議の採決結果(1月29日)
わずか2週間前の1月15日に当初のEU離脱協定案は歴史的大差で否決されましたが、修正案の内容によっては合意の可能性も残されていることが示唆されました。
どこに注目すべきか:離脱協定案、動議、採決、バックストップ
当初の離脱協定案が大差で否決された後、21日に表明されたメイ首相の代替案と、英国下院議会が提案した動議の採決結果を比べると、メイ首相の6勝1敗とも見られます。ただ、市場の反応を見るとポンドは小幅ながら下落しました(図表2参照)。市場は次の点を懸念していると見ています。
[図表2]英国ポンド(対ドル)レートの推移
まず、賛成多数となったブレイディ案は北アイルランドとアイルランドの国境問題について、バックストップ(安全策)を見直してEUと再交渉を目指す内容で、メイ首相の考えに沿う内容です。その意味では、メイ首相の勝利とも見られますが、実現性は低いと思われます。過去に解消できなかった問題が離脱期限を控える短期間で解決できる可能性は低いと思われます。そもそもEUは再交渉に応じない姿勢を維持している点からも厳しい局面が想定されます。
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次に、長期的な離脱期限の延期が否決されたことです。無秩序なEU離脱をしないという点では、スペルマン氏の動議で可決されています。しかし、具体的に延期の期間を定めたクーパー氏の動議(19年年末までの延期)や、リーブス氏の動議(2年間延期)は否決されました。長期の延期を認めてしまうと再国民投票の可能性も浮上することから、労働党の提案に対し保守党の離脱強硬派が反対したと見られ、保守党からの賛成(恐らく再国民投票支持)は17名にとどまりました。市場の事前の予想では離脱日延期を具体的に求める修正案は可決の可能性もあると見られていただけに、採決で否決されたことは、わずかながら、無秩序な離脱の可能性を市場に意識させたと見られます。
今後の展開を占うと、メイ首相は動議に基づきEUとの再交渉で離脱協定案の修正を(2月中旬まで?)目指すと述べています。ただ、EUがすでに検討の余地がないと表明している離脱協定案を再交渉することに、産業界からは早くも不満の声も聞かれます。展開によっては無秩序な離脱の可能性がゼロではないことから、産業界は最悪のケースに備えコストを払って推移を見守っているからです。同じ問題で行ったりきたりしているようにも見える政治に対し不満も高まっているようです。英国のEU離脱を巡っては、様々なリスクが指摘されていますが、政治と世論のギャップにも不安の火種があるように思われます。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『メイ首相、6勝1敗でも喜べない?』を参照)。
(2019年1月30日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト
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