今回は、借入とスタッフの解雇について解説いたします。※医師の独立開業が増加する一方で、経営に問題を抱えるクリニックも増加しています。開業医が頼りがちな開業コンサルタントですが、ときに過剰な設備投資等を勧められ、かえって経営が悪化するケースも少なくありません。本連載では、実例を元に、開業医が陥りやすい経営上の落とし穴と、その予防策を税理士の著者が解説します。

事業上の借入は「投資」、利息は「保証料」と考えよう

借金が好きな方はあまりいません。借金という行為が嫌いな方、利息が無駄と思う方、その両方──これらの理由で、融資を受ける際になるべく少額で、かつ返済期間を短くしようとする方がいます。

 

気持ちはわかりますが、運転資金が少額になる上に、月々の返済額を多くするという行為は最も資金ショートを招きやすい状況を作り出します。経営者としては大間違いです。

 

[図表]1,000万円を借りた場合の月々の返済額

※金利は考慮しない
※金利は考慮しない

 

事業上の借入は借金ではなく投資、利息は保証料だと考えを転換してください。信用がない方はお金を貸してもらえません。借入額が大きければ大きいほど先生は高く評価されているのです。

 

利息は経費となり、その約4割は税金を減らすことができるため、実質的な負担は利率の6割程度です。借りられる最大額を借りて理想とするクリニックを安全に成功させた後、もし借入が気になる場合は、一括返済をしてはいかがでしょうか。

 

なお、借入の返済開始はテナント代の支払い同様、元本の返済を最大限遅らせましょう。

 

★まとめ

●借入を利用して運転資金を潤沢に用意しておく。

●利息は経費。節税効果により実質負担は利率の約6割。

●開業時は最大額を借りて軌道に乗ったら一括返済する方法も。

スタッフは一番の財産、人員削減は最終手段

返済が苦しくなった際には、利息だけ払う、返済期間を延ばすなどの対策が考えられます。追加融資を受けられれば一番良いのですが、銀行は資金が足りなくなるような甘い事業計画を嫌います。また経営がうまくいっていないクリニックにさらに融資をするとなると、二の足を踏みます。

 

とはいえ、銀行も元本が戻ってこないのは困ります。すでに融資してしまったものに関しては、期限を引き延ばしてでも、できるだけ回収したいと考えるのです。

この交渉には顧問税理士の経験値も関係します。信憑性のある事業計画書も提示して、どう改善するのかを説明して、理解してもらわなければなりません。顧問税理士がどのくらい協力的なのかで銀行の反応も変わります。

 

銀行を説得できる事業計画書を先生が一人でつくるのは困難です。一人で抱え込んでしまったために結局破たんしたクリニックもたくさんあります。後で「税理士が協力してくれなかった」と愚痴を言っても取り返しがつきません。そうなる前に顧問税理士を巻き込んで、相談しながら進めるのがいいでしょう。

 

開業時はどんぶり勘定で始まってしまい、資金繰りが厳しくなった時点でようやく細かく収支を計算するケースも少なくありません。どのくらいの収入があればスタッフの給与が支払えるのか、自身の生活費を賄えるのか……、本来であれば開業前の事業計画書で明確にしておくべきですが、「何とかなるだろう」という気持ちでスタートしてしまうのです。

 

銀行の返済以外に、家賃支払いを待ってもらったり、少し減額してもらったり、出費に関する交渉の余地はさまざまあります。入るお金と出ていくお金をどうコントロールしていくかが重要です。

 

支払先との交渉はもちろん重要ですが、税務申告での工夫も大事です。資金の回収がしやすいような申告書の作り方もあるのです。もちろん、法律に違反しない範囲での話ですが、方法はあるのです。

 

あとは、院長先生自身がアルバイトをして、生活費やクリニックの運営費用を稼ぐのです。

 

ここまでしても十分でなければ、クリニックの事務員や看護師など、スタッフの削減も検討しなければなりません。想定ほど収入が得られないのであれば、スタッフの数もそれほど必要ないということになります。しかし、スタッフの削減は最後の手段です。

 

スタッフはもっとも身近で味方になってくれる存在です。すべての対策を講じて努力をしたあとでなければ、スタッフも納得しないでしょう。それでもどうにもならない段階で初めて、スタッフの削減を考えます。

 

★まとめ

●銀行との交渉は顧問税理士の経験値がモノをいう。

●返済が苦しくなったら税務申告の工夫も必要。

●最も身近な味方であるスタッフの雇用は最後まで守る。

 

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