人材を粗末にするクリニックが「経営難」に追い込まれる話

スタッフに高圧的な態度で接する開業医の院長。勤務医だった頃の習性もあるようですが、一度に全員が辞めてしまい大変なことに…というケースもあるようです。本記事ではスタッフをないがしろにして経営難に陥った医院の事例を紹介します。 ※医師の独立開業が増加する一方で、経営に問題を抱えるクリニックも増加しています。開業医が頼りがちな開業コンサルタントですが、ときに過剰な設備投資等を勧められ、かえって経営が悪化するケースも少なくありません。本連載では、実例を元に、開業医が陥りやすい経営上の落とし穴と、その予防策を税理士の著者が解説します。

経営者に嫌気して、スタッフが一斉退職する医療機関も

[事例]

 

耳鼻科医のD先生は、開業コンサルのつくってきた事業計画書を見て「これだけ患者さんが来たらスタッフもそれなりに揃えておかなければいけないな」と考え、開業時に事務担当2名と看護師3名を雇いました。しかし、実際に開業してみると、事業計画書の見込みの半数ほどしか患者さんは来ません。

 

毎月、スタッフに給与を支払うたびに銀行の残高がどんどん減っていきます。開業コンサルに相談しても「もう少し頑張れば患者さんが増えてきますよ」と言うだけです。

 

他に相談できる相手もいないD先生は、徐々にスタッフにあたるようになっていきました。「お前たちの対応が悪いから患者さんが集まらないんだ」「指示されなくても自分で考えて動けよ」・・・という具合です。

 

そんな状態になって三カ月ほど経過したときです。スタッフ全員が一度に辞めてしまったのです。急な出来事にD先生は驚きましたが、それほど患者さんも来ていなかったので、D先生が一人で対応しながら、「また募集すればすぐ集まるさ」と気を取り直し、スタッフ募集の広告を出しました。すぐに反応があるはずだと思っていたD先生ですが、いつまで経っても誰も応募してこなかったのです。

 

安易に雇うと人件費に苦しみます。それと同時に、開業するということは診療するだけでなく、スタッフの人事や教育業務も請け負い、何よりも「人財」を大切にするべきだということを忘れてしまっていたのです。

 

スタッフ全員が一度に辞めてしまうことなどあるわけがないだろう、よほどレアケースだ、と考える先生も多いかもしれませんが、私が知っている限り、新規開業した五件に一件程度の割合で起きていることなのです。多くの場合、開業した先生が勤務医時代の意識のままで、スタッフに対して高圧的に接したことが原因になっています。

 

辞めることを事前に告げてくれればまだ対処のしようもありますが、スタッフも先生の対応に嫌気がさしてやめるのですから、突然来なくなることも少なくありません。

 

開業時にスタッフを募集すると多くの応募がありますので、先生方は「スタッフの代わりなどいくらでもいるさ」と思いがちですが、それは幻想です。応募が集まるのは開業時だけなのです。

 

D先生のケースでもそうですが、人件費がクリニックの経営を圧迫して、スタッフにあたり散らす先生も少なくありません。その意味で人件費については慎重に考える必要があります。

「伸び代」を考慮し、閑散期に合わせた人数体制で雇用

先生方も人件費は必要な費用だと考えがちです。たとえば、300万円の医療機器を毎年2台、3台と買いますか? と聞かれれば、先生方も「買うわけはないでしょう」と答えるはずです。そんなものは不要だと考えるのですが人件費の場合には、その感覚が狂ってしまいます。

 

仮に月20万円の給料を1年間支払うと240万円になります。ボーナスを加算すれば、すぐに300万円を超えてしまいます。社会保険料の負担もしなければなりません。

 

スタッフが3人いれば、300万円の機器を毎年、3台買っているのと同じことになります。その感覚を持っておかなければなりません。

 

少し話はずれますが、上場会社が新入社員を採用するとき、多くの場合は役員面接があります。なぜ、新入社員を雇うために、わざわざ役員が面接までするのでしょうか。役員がその時間を使って会社の方針を決めることによって、大きい場合には、何千億円単位の金額が動くこともあります。

 

なぜ、初任給二十数万円の新入社員の面接までするのかといえば、人件費は会社のコストとして無視できないほど重要だからです。もちろん、人材が重要であるとの意識もあると思います。しかし、人を一人雇った場合のトータルコストは医療機器を買うのとは比べ物にならないほどの大きな影響力を持っているのです。

 

ここで重要なのは、人件費は固定費だということです。収入があってもなくても確実にかかるコストです。

 

医療機関には、どうしても季節変動があります。耳鼻科であれば風邪が流行する季節、あるいは花粉症の季節には患者さんが増えます。しかし夏の間は減ってしまいます。そのクリニックにもよりますが、少ないときにはピーク時の七割程度まで落ち込むことも少なくないでしょう。

 

それでは夏の間のスタッフを一人減らせるかといえば、そういうわけにはいきません。年間を通して一定数でやっていくしかないのです。ですから、ピーク時に合わせて人を雇ってしまうと固定費がかかり過ぎてしまいますし、閑散期に合わせてしまうと繁忙期を乗り切ることができないかもしれません。非常に難しい問題です。

 

しかし、クリニックの運営に成功している先生方の多くは、スタッフの伸び代を考慮して閑散期に合わせた人数体制で雇用しています。

 

★まとめ

●新規開業の五件に一件でスタッフの総退職が起きている。

●スタッフを一人雇うのは、毎年300万円の機器を買うのと同じ。

●経営に成功している先生は閑散期に合わせた人数体制で雇用している。

 

 

田浦 俊栄

協奏会計・税理士事務所 代表税理士

 

小泉 暁之

協奏会計・税理士事務所 パートナー税理士

 

協奏会計・税理士事務所 代表税理士

代表税理士。慶應義塾大学商学部卒業。大手医療専門税理士法人の勤務を経て協奏会計・税理士事務所を設立。
顧客の100%が医師・医療機関である。積極的な節税提案で勤務医・開業医のライフプランをリタイアまでサポート。塾講師の経験を活かした楽しく分かりやすい説明が好評。

著者紹介

協奏会計・税理士事務所 パートナー税理士

パートナー税理士。慶應義塾大学法学部卒業。関東信越国税局で税務調査官として活躍。
100件以上の調査経験に基づく実践的な知識で、税務調査では顧客の強力な盾となる。顧客の立場に立ち、誠実で柔軟な対応に定評がある。

著者紹介

連載コンサルが教えてくれない「クリニック開業」の落とし穴

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