今回は、人件費を抑えるための工夫について見ていきます。※医師の独立開業が増加する一方で、経営に問題を抱えるクリニックも増加しています。開業医が頼りがちな開業コンサルタントですが、ときに過剰な設備投資等を勧められ、かえって経営が悪化するケースも少なくありません。本連載では、実例を元に、開業医が陥りやすい経営上の落とし穴と、その予防策を税理士の著者が解説します。

人件費の抑制には「長く働いてもらう」ことが有効

設定する給与水準は、立地によっても変わってきます。一般的に給与水準は都市部のほうが高く、郊外や地方にいくと安くなりますが、必ずしもそうとは限りません。たとえば、六本木ヒルズに入っているクリニックであれば、郊外のクリニックよりも給与が低いとしても応募はたくさんきます。スタッフも「どこで働いているの?」と聞かれたときに「六本木ヒルズ」と答えられるのは魅力的なのです。月給がたとえ3万円安くても喜んで働いてくれます。

 

前述のように給与は固定費ですから、少しの違いでも人数分×年間になれば、相当な差になります。スタッフの給与水準を決める際には、開業場所なども加味して選定しなければなりません。先生方に最適なプランをご提案できるかは、税理士の経験値によって変わってきます。また、誰の味方をする税理士なのかが重要です。

 

弊社は、あくまでも「税理士は先生に雇われている」と考えており、従業員ではなく先生にとってベストなアドバイスをすべきと考えておりますが、世の中にはそれを理解していない税理士もいるのです。

 

また、人件費を下げる方法として望ましいのは、スタッフに長く働いてもらうことです。そのためにはやはり働きやすさが大事です。スタッフの都合にあわせて診療時間を決めるわけにはいかないでしょうが、診療時間に合うスタッフを探すことはできます。

 

たとえば、駅前のクリニックであれば、会社帰りの患者さんを狙って少し遅い時間帯まで診療することがあります。その場合には、未婚の若い女性か、子どもが高校生・大学生になって子育てから少し手が離れた主婦を狙います。いずれの世代もお金が必要で、かつ時間の制約があまり無いために集まりやすくなります。

 

また、郊外や住宅地ではスタッフを集めにくいと考えるかもしれませんが、それは工夫次第です。たとえば、休み時間を上手に設定すれば主婦は集まりやすくなります。たとえば、昼休みを2時間以上にするとその合間に家に戻って家事ができますし、逆に昼休みが短くかつ午後の診療終了が早ければ、その分、夕方は早く仕事を終えられるなど、子育てで時間に制約のある主婦も働きやすくなるのです。

 

子育て中の主婦は、なかなか働く場所が見つかりません。そんな人には「診療時間は五時半までです」というクリニックは喜ばれ、子どもが少し大きくなった人であれば、昼休みの間に家に帰って、掃除、洗濯、食事の準備などができれば、少し遅くまで働いてくれるかもしれません。

 

安い人件費でも長く満足して働いてもらうためには、開業場所や診療時間と生活スタイルが合う年齢層のスタッフとのマッチングをしっかり行うといいでしょう。

 

★まとめ

●人件費を抑えるコツは長く働いてもらうこと。

●駅前クリニックのスタッフなら未婚女性や子育てが一段落した主婦を狙う。

●昼休みが2時間なら子育て中の主婦から歓迎される。

人材採用を、コンサルや社労士任せにしてはダメ

採用をコンサルや社労士の判断に任せる先生がいらっしゃいます。しかし、スタッフを雇用するときの心構えとして、最終的な判断は先生方ご自身が行ってください。周囲の意見を聞くことも大事ですが、誰を選ぶかは雇用主が決断すべきことです。

 

大事なのは、先生方が一緒に働きたいと思える人を雇うことです。その人にも家族がいるでしょうから、家族ぐるみでしっかり面倒見るという覚悟が必要です。自分で決断をしなければ、覚悟もできないでしょう。

 

診療だけをしたいのであれば、勤務医のままのほうが絶対にいいでしょう。しかし、開業するのであれば、事業主としての責任が発生するのは当然です。それを放棄してはいけません。その覚悟をするのがスタッフの採用でもありますので、しっかり自分で選んでいただきたいのです。

 

★まとめ

●スタッフの採用はコンサルに任せてはいけない。

●先生が一緒に働きたいと思えるスタッフを選ぶ。

 

 

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