今回は、クリニックの安定的な運営に欠かせない「良いスタッフ」の選び方・育て方を考察します。※医師の独立開業が増加する一方で、経営に問題を抱えるクリニックも増加しています。開業医が頼りがちな開業コンサルタントですが、ときに過剰な設備投資等を勧められ、かえって経営が悪化するケースも少なくありません。本連載では、実例を元に、開業医が陥りやすい経営上の落とし穴と、その予防策を税理士の著者が解説します。

採用を迷ったときは「心理テスト」を行う方法も

単純な問題として、短期間で勤務先を変わっている人は、仮に雇ったとしてもすぐに辞めてしまう可能性があります。なかには「私だったら長期間雇える」と考える先生もいますが、人は簡単に変わりません。多くの場合は本人に問題があって、他のスタッフや患者さんとトラブルを起こし辞めていきます。

 

ですから、応募書類を見て短期間で職場を変わっている人は、たとえいい人に見えても採用しない方が無難でしょう。

 

また、能力で選ぼうとするとなかなか良い人は見つかりません。前述のように、一を言えば十を理解するような人は応募してきません。それよりも気持ちのいい人、気の利く人を選ぶのがいいでしょう。具合が悪い人に「大丈夫ですか?」と声がけするといった、心遣いができるかどうかは、学力とは関係ありません。

 

内科にしても整形外科にしても、クリニックは数えきれないほどあります。患者さんはそのクリニックの先生の得意分野を知らなくても、診察に来ます。たとえば風邪であれば、内科に行って薬を飲めば治るだろうから、どこでもいいと考えます。薬をもらうために内科に行くのです。

 

すると、行った先の内科で、「何で冷房をかけて寝るんだ」とか「もっと早く来なければだめだ」とか、うるさく言われたら面倒になります。もともと具合が悪く気持ちも落ち込みがちの状況にも関わらず、さらに責められるようなところであれば、誰も行きたくありません。

 

したがって、人当たりのいい先生が選ばれるのが現実です。それはスタッフも同じです。よいスタッフというのは、素直であったり、気配りができたり、愛嬌があったりする人です。

 

それを判断するために、面接のときにこんなことを質問する先生がいました。

 

「うちは床を手でふき掃除させるけどいい?」

 

「トイレも同じだよ、全部ふき掃除だけどいい?」

 

「毎日やるよ、クリニックをきれいにして、気持ち良くしたいからね」

 

そういう仕事を嫌がる人もいます。そう思っている人は、質問をしたときに顔に出ます。そんな判断方法もあります。

 

最終的に迷った場合には、心理テストを行う方法もあります。一人当たり2000円程度で受けることができます。この程度の金額でその後に発生する給与が無駄になるかどうかが判断できるなら、高くはありません。

 

最初はどのような人を雇えばいいのか判断がつかなかったとしても、何人かのデータが集まったら先生のクリニックに適した方が見えてくるはずです。

 

★まとめ

●スタッフの対応次第で患者さんの数は変わってしまう。

●短期間で勤務先を変わっている人は避けるべき。

●心理テストで判断する方法もある。

久しぶりに来院した患者に、すぐ気づくスタッフなら…

スタッフの学力を上げるのは無理ですが、患者さんに好まれる人に育てることはできます。「患者さんの名前を全員覚えなさい」というのも一つの方法です。名前を覚えていると、何の診察に来たのかが記憶に残るようになります。

 

久しぶりに来院したときには「お久しぶりです」と声をかけることもできるでしょう。それだけで患者さんの印象はずいぶん変わってきます。誰でも自分のことを覚えていてもらえるのはうれしいものです。

 

他にはスタッフのフットワークを軽くするために、受付に椅子を置かないクリニックもあります。いったん座ってしまうと行動を起こすのが億劫になります。もともと立っていれば、患者さんのところに声をかけにいくのも苦になりません。ハードルが一つ下がります。

 

これもスタッフを育てるための工夫です。ちょっとしたことを矯正するだけで、温かみのあるクリニックへと持っていくことができます。そのときに、ある程度素直な人であれば、それに従ってくれます。「雇った人を自分で育てるのだ」という決意を持って採用に臨むと間違いがありません。

 

雇ったスタッフが辞めてしまうのは大きな損失です。広告費用や面接時間が無駄になり、引き継ぎも必要になります。新しい人が慣れるまでには、他のスタッフの残業時間が延びてしまうかもしれません。

 

患者さんからしても、スタッフが変わるとコミュニケーションが途切れてしまうため、満足度は低下します。辞めたスタッフが悪い評判をたてることもあります。これらをすべて合わせると、相当な損失です。

 

ある先生はこんなことを言っていました。

 

「誰でも五年に一度は、生活のサイクルが大幅に変わる」

 

子どもが受験期を迎えた、あるいはマイホームを買ったなど、大なり小なり転機が訪れるというのです。そのときに退職したいと言われても、クリニックレベルでは人を引き留めるのは難しいということでした。給与も近隣のクリニックと同水準でとりわけいいわけでもありませんから、仕方がありません。だから、ある程度、人が入れ替わるのは仕方がないのです。

 

しかし、二年も経過しないうちにどんどん人が入れ替わってしまうようなサイクルの場合は、何かしら問題があるはずです。その場合には、クリニックとスタッフのマッチングに問題があるかもしれませんし、先生に問題があるのかもしれません。

 

クリニックの理念に沿った目標を掲げて、朝礼やミーティング、個別面談を行うことでそれを共有し、実行していくことによって、簡単に人が辞めない組織を作ることができます。

 

また将来、分院などをつくってクリニックを拡大していきたいと考えている場合には、ナンバーツーの育成も意識しなければなりません。

 

院長やその配偶者が従業員にどんなに良いことを言っても、心には響きません。なぜなら、自分達の利益のために言っているのだと思われるからです。

 

しかし、他人が院長と同じことを言っているとすれば、「やはり院長の言っていることは本当なんだ」と急に信憑性が増し、浸透します。

 

単に医師を雇って分院をオープンしてもうまくいきません。雇われ院長のモチベーションは高くないからです。

 

そのときにも、院長の留守をしっかりと守ってくれるナンバーツーの存在は重要です。やはり、分院展開でうまくいっているのは、ナンバーツーがいるところです。ナンバーツーは医師でなくても構いません。

 

多くの場合は事務員だったり、看護師だったりします。医師同士であると、もめることが多いので、事務員や看護師のほうがうまくいくケースが多いのです。

 

★まとめ

●ちょっとした工夫でスタッフの教育はできる。

●クリニックの発展にはナンバーツーの存在が必要。

●ナンバーツーは医師以外の職種が望ましい。

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田浦 俊栄,小泉 暁之

幻冬舎メディアコンサルティング

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