「人事労務」に頭を悩ませる現代の経営者たち
人事労務と聞くと、難解で拒否反応を示される医師・歯科医師が多いのではないでしょうか。その通り、労働法は複雑多岐にわたりすべてを網羅して理解するには多くの時間を要します。
本連載は開業医を対象としております。昨今の報道を見ても、人事労務トラブルには事欠きません。詳細は本文に譲りますが、開業医にとって避けては通れない案件です。「2018年中小企業の景況見通し」(株式会社日本政策金融公庫・総合研究所リリース)によりますと、中小企業の経営者に聞いた経営上の不安要素としては、
1位 国内の消費低迷、販売不振
2位 人材の不足・育成難
3位 原材料価格、燃料コスト高騰
があります。
経営基盤の強化に向けて注力する分野としては、
1位 営業力、販売力の強化
2位 人材の確保・育成
3位 販売価格引上げ、コストダウン
という結果になっております。上記のいずれにおいても2位にある人事労務の問題は現代の経営者にとって非常に大きなウエイトを占めているのです。開業医も中小企業に該当します。いったい誰に人事労務の相談をすべきなのでしょうか。
人事労務相談に応じられるのは「社会保険労務士」
ご存じのように「社会保険労務士」という国家資格があります。その使命は社会保険労務士法第1条に次のように記載されています。
「この法律は、社会保険労務士の制度を定めて、その業務の適正を図り、もって労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする」
人事労務相談に応じられるのが「社会保険労務士」なのです。私は税理士ですが、税理士法人内に社会保険労務士事務所(「みなとみらい社会保険労務士事務所」)を設置しております。業法上、社会保険労務士事務所に関してはこうした設置形態が認められており、業としてサービスを提供することが可能です。現在、8名の常勤有資格者を擁しており、クライアントである医師・歯科医師からの相談に対応しております。社会保険労務士が数多く在籍している理由は、それほどまでにクリニックからの人事労務相談が多いことにほかなりません。
本来税理士にとって、人事労務は専門分野ではありません。しかしながら、昨今の社会情勢から税理士である私にとっても人事労務は看過できない問題であります。なかでもクリニックにおける人事労務は一般企業のそれとは大きく異なり、かつ要望も多かったため、必然として人事労務サポートを行うことになったのです。
そのメリットとしては、以下の通りです。
①クライアントに対してワンストップサービスを提供できるため、院長のタイムコストを削減できます。
②監査担当者ではなく、専門性の高い労務担当者(社会保険労務士事務所所属)がクライアントにおける昇給や賞与の決定、就業規則の見直し、人事トラブルの解決その他労務相談全般を処理することで院長のストレスを軽減できます。
③労働法の知識を有した労務担当者が、給与計算業務をアウトソーシングで受託することにより、院長とのコミュニケーションが緊密に取れ、現在進行形で労働法違反を未然に防ぐことができます。
クリニックは人事労務のトラブルが発生しやすい
医科、歯科を問わず、クリニックでは、様々な形で人事労務をめぐるトラブルや問題が起こる恐れがあります。もちろん、人事労務に関するトラブルは一般の企業でもごく普通に起こっており、医療の世界だけの話ではありません。
しかし、クリニックには一般の企業とは異なった独自の要素や特殊性があり、そのためにトラブルがより発生しやすい土壌があるといえるでしょう。
逆にいえば、クリニックの院長が人事労務に関する問題やトラブルをスムーズに解決するためには、その原因となるクリニックの特殊性(クリニック特有のリスク要因)をじゅうぶんに把握しておくことが必要となるはずです。
次回からはクリニックに特有な人事労務管理のリスク要因について詳しく確認していきましょう。