開業場所をどこにするべきかという問題は非常に重要であり、選択を誤ると早いうちに閉院のおそれもあります。今回は2つ目のポイント、「物件探し」について見ていきます。

科目によっても開業に適した地域は異なる

「クリニックの開業場所をどこにするべきか」という点は、集患に直接的にかかわる最も大きな問題のひとつであることから、とりわけ多くの注意点があります。まずはじめの重要なポイントとして、昼間人口と夜間人口の差を意識しておかなければなりません。

 

例えば、オフィス街は、昼間はサラリーマンやOL等であふれかえりますが、夜間は人気がなくなります。そのような場所のビルテナントで開業するのであれば、患者として想定できるのは、昼間人口だけということになるでしょう。

 

そこで考慮すべき点としては、通勤するサラリーマンやOLが病気やケガで通院するにあたっての患者としての心理です。頭痛や風邪程度の症状の軽い病気であれば、「オフィスビルの1階にクリニックがあるから、帰りにそこで診察してもらおうか」という気持ちになるでしょう。また定期健診なども同じ心理がはたらくでしょう。

 

しかしながら、リウマチや不妊治療などのように長期間の治療が必要となるような病気については、「休みを取って、地元のクリニックでじっくりと診てもらおう」となるのがおそらくごく自然な心理でしょう。

 

このように、東京の丸の内や八重洲に代表されるオフィス街のような昼間人口にウエイトがある場所では、リウマチ科や不妊治療をメインとする婦人科のような科目は、例外はあるとしても、やはり集患が期待できません。逆に言えば、このような性質を有する診療科目においては、むしろ夜間人口の多い場所を開業地に選択することが望ましいでしょう。

自分のライフスタイルから場所を選ぶ方法もあり

一方、こうした一般論に固執せず、ドクター自身がそのライフスタイルを重視することで、意識的に昼間人口だけに的を絞って開業をするという選択肢も考えられます。

 

筆者のクライアントのドクターに、奥様が外資系金融会社で働いている方がいらっしゃいます。そのため、日中はお互いに多忙であり夫婦のコミュニケーションがなかなかとれないので、せめて夕食は一緒に食べて、土日祝も一緒に過ごしたいということで、あえてオフィス街で開業されました(オフィス街のクリニックは総じて、土日祝は休診であり、かつ夕方6時以降は診療しないことが多いのです)。

 

また、オフィスビルで開業している別のドクターは、毎朝7時半から開院して早朝診療をしているので、通勤前に診療してもらいたいという患者に大変好評を得ています。勤務時間が朝早くからなのでスタッフの早朝割増手当は発生しますが、それを十分にカバーできるだけの来院患者数を確保できているのです。

 

夜間人口が少ない場所でも、こうしたケースが示唆するように、工夫次第では患者の潜在的なニーズを取り込んで確実に集患することが可能となるのです。そのような可能性も念頭におきつつ、開業場所を選ぶ際には、昼間人口と夜間人口のどちらを重視するのかを、じっくりと検討することが大切となります。

本連載は、2016年4月刊行の書籍『改訂版 クリニック開業読本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 クリニック開業読本

改訂版 クリニック開業読本

髙田 一毅

幻冬舎メディアコンサルティング

2000年から2015年の医療機関の倒産件数は527件。経営破綻した医科・歯科クリニックの8割は破産を選択せざる得なく、再起も難しい状況です。このような厳しい状況の中でも集患に成功しているクリニックが存在するのはなぜでしょ…

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