日本の社会保障は手厚いですが、進む少子高齢化により持続可能性が疑われています。一方で、シンガポールでも少子高齢化が進んでいるにもかかわらず、多くのシンガポーリアンは老後不安を感じていないといわれています。本記事では、ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子氏が、日本とシンガポールで必要な老後資金の違いについて解説します。

強制貯蓄の役割を果たす「中央積立基金(CPF)」

ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。筆者は、2015年から家族でシンガポールに移住しました。

 

シンガポールに住んでみると、そこは都。書籍『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』(講談社+α新書)では、その賢くて合理的な小国の知恵を記しました。その一部を紹介します。

 

◆人口減少に影響されない社会保障

 

日本では年金や医療保険の保障が手厚いですが、その持続可能性が疑われています。少子高齢化から財政が悪化し、将来に渡ってシステムを継続させることができるのか不透明です。

 

米国の大手コンサルティング会社であるマーサーは、定期的に主要国の年金制度(公的年金に加えて、私的年金も含む)の国際ランキング(グローバル年金指数ランキング)を発表しています。2017年度のランキング結果を見ると、日本は30ヵ国中29位という非常に残念な結果でした。

 

これに対してシンガポールでは、強制自動天引き貯蓄のように、自分自身で将来のお金を貯めていく仕組みになっています。中央積立基金(CPF)が、医療費用・持ち家取得・老後生活に備えた強制貯蓄の役割を果たしています。

 

CPFは個人の口座ですが、雇用主と労働者が共に資金を拠出するというスキームになっており、55歳以下の労働者は収入の20%、雇用者は17%を拠出し、収入の3分の1以上の金額を将来に備えて積み立てるという、よくできた制度です。複利を利用して最も効率的に貯蓄できるようにするため、若いころの拠出率が高くなっているのです。

 

CPFは持ち家率向上にも貢献し、現在シンガポールの持ち家率は9割程度にも及びます(日本は約6割)。家という財産があると、愛国心や社会の安定につながり、老後生活の不安も軽減できるという考えから、政府が持ち家を推進した結果です。

 

対する日本はというと、平成29年度の国家予算の3分の1(約32兆円)が社会保障費の支払いにあてられた上に、急速な高齢化にともない、その額は毎年1兆円規模で増大しています。社会保障費収入は横ばいで推移しているため、その多くは税金と借金で賄われています。少子高齢化は今後ますます進むことから、財政が更に深刻化することが予測されます。

「67歳」までの雇用保障が義務化されるシンガポール

◆日本では自助努力で老後資金を増やす時代に

 

シンガポールでは、67歳までの継続雇用を雇用主は申し出る義務があるため、働く高齢者は多いです。ガイドラインがあり、高齢になっても日本のように大幅に賃金カットが行われることもありません。

 

シンガポールでの高齢者世帯の1ヵ月の平均的な支出は30万円程度。ファッションなどにかける支出は若い世代より少なくなるのですが、健康関連の支出は増えて月2万円程度使っています。つまり、年間の支出は360万円、65歳から90歳までの25年間に換算すると、9000万円必要になります。これは平均的なシンガポーリアンのケースで、持ち家が前提のシミュレーションになります。持ち家のない場合や生活費が大きい場合は、より多額の金額を準備する必要があります。

 

一方、日本で老後生活を送るにはいくら必要でしょうか。2015年の総務省の家計調査によると、年金世帯の平均的な毎月の支出は27万5706円です。年に換算すると、330万円程度、25年間で8271万円程度の金額になります。

 

これに対して、平均的な月の収入は21万3379円で年間約256万円、25年間で約6401万円が必要になります。必要総額に対して年金などの収入だけでは赤字になるので、2000万円弱の貯金が求められます。生活費の他にも住宅の修繕や介護費用など予備費も1000万円程度は確保したいので、夫婦で最低でも3000万円程度の老後資金が必要になってきます。

 

老後生活を送るには日本で暮らすほうが物価も安く、現段階では楽でしょう。しかし日本には、収入や貯蓄が不十分で頼れる人もいない独居老人の孤独死が問題になっています。年金が十分にもらえない人達が増えるということは富裕層にとっても非常に関係のあることです。今の日本の治安の良さを継続させることが難しくなるかもしれません。

 

40年先の日本はどのような社会や経済状況になっているか分かりません。2060年には高齢者1人を1.3人の現役が支える不安定な人口構成になり、長生きリスクもあるので、「人生100年時代」を見据えたより長期的なライフプランが必要になります。

 

世代によっては逃げ切れるかもしれませんが、更なる給付のカットや保険料の引き上げが行われる世代は自分で準備しなければならないお金が膨らみます。子供や孫がいる人たちは決して他人事ではありません。

 

確定拠出年金制度など日本でも老後資金を自力で作る制度が整いつつあります。今後は自助努力でお金を作る時代になっていくでしょう。自分のお金を自分で積み立てる自己責任の反面、税制の優遇を受けることができれば運用次第で老後資金を大きく増やせる可能性もあります。

 

 

花輪 陽子

ファイナンシャル・プランナー

 

本記事は、書籍『少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図』(講談社+α新書)から一部を抜粋し、再編集したものです。

少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図

少子高齢化でも老後不安ゼロ シンガポールで見た日本の未来理想図

花輪 陽子

講談社+α新書

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