中国経済への先行き不安が増幅し、円高が急進行

中国国家統計局の12月31日発表。製造業PMIなど主要指数の低水準を市場は嫌気、中国経済への厳しい見通しが強まるとの懸念から、米国債市場で長期金利が低下、為替市場での米ドル売り・円買いが進んだ。中国経済を俯瞰すると12月は確かに低水準であったが、1-11月からの全体像を捉えると市場の反応はやや過敏にも思える。中国政府は、米との貿易摩擦を含め解決に向けて施策を進めているが、短期的・長期的双方の課題への対処に迫られる難しい局面である。

中国政府の経済対策へのコミットメントは強い

中国国家統計局が昨年12月31日に発表した12月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.4と、2016年初め以来の低水準となり、重要な節目である50を割り込んだ。製造業PMIを構成する指数のうち将来の需要動向を示唆する新規輸出受注も46.6となった。同様に、27日に発表された2018年11月の工業利益統計では、前年同月比で1.8%減の5950億元(約9兆5800億円)とほぼ3年ぶりに前年割れとなる弱めの指標だった。米国との貿易戦争の影響や景気の減速感が企業収益に影響を及ぼしていることが見て取れる内容だった。

 

市場は、この発表を受けて中国経済の先行きに対する厳しい見方が強まり、特に米国債市場での長期金利の低下と、それを受けて為替市場での米ドル売り・円買いが進んだ。10年米国債利回りは2.69%まで低下(債券価格は上昇)。ドル円為替レートは、109円60銭近辺まで円高が進み、2日のアジア市場では、さらに109円10銭に届く急速なドル売りが見られた。ただ、12月の非製造業PMIは53.8と11月の53.4を上回っており、中国政府の景気刺激策が効果をもたらし始めた可能性も示唆している。また、工業利益も1-11月で見ると前年同期比11.8%増の6兆1200億元で、製造業では9.9%増と高い水準であり、単月だけの結果で過敏に反応しているのではないか。

 

確かに、中国経済の2018年成長率は2017年の6.9%から、6.4-6.5%へと低下する見込みである。しかし、中国政府が、短期的なダウンサイドリスクに対応することへのコミットメントは、相当に強いと思われる。習近平国家主席が毎年大みそかに行う演説は大きなヒントだろう。習主席は「様々なリスクや課題があるものの、中国は質の高い発展を目指して経済政策を実行し、成長のけん引役の交代を加速させると同時に、主要な経済指標を合理的なレンジ内に維持してきた」と2018年の実績を評価したうえで、2019年は、経済成長の急減速を回避するために、既に発表した企業向け減税を実施すると述べた。

 

ちなみに、中国政府は既に、金利水準の維持、預金準備率の引き下げといった金融緩和政策を継続しているほか、1兆3000億元(21.3兆円)規模の減税、国内インフラ投資のための2000億ドルの特別債発行に動いている。中国経済の先行きに対する厳しい見方がより強まる状況になれば、中国政府による追加政策の発動につながる可能性は高まると思われる。

中国経済の抱える長期的な課題とは?

長期的には、中国が抱える経済的な課題は二つあることが明白である。ひとつは、「新常態」すなわち、内需主導型の経済への移行という課題である。改革開放の時代からの輸出主導型の経済発展という経済構造からの脱却を進め、消費主導型の経済発展の実現と貿易黒字の削減に取り組むことは、米国が仕掛ける貿易摩擦だけが理由ではなく、本質的に中国にとっての利益にかなうものである。

 

輸出依存からの脱却に加えて、もうひとつは、特に地方政府や国営企業に見られるような債務比率の多さを如何に改善するかという課題である。抱え込んでいる累積債務を早期に処理し、債務依存の体質からの脱却には、取り組んできているが、なかなか解消する途は容易ではない。また経済成長を支えるためには、資金の流れを維持する必要があるが、社会の信用力の低下は、成長力も能力もある企業へと資金が循環していく流れを滞らせることすらある。習主席は、年末の演説でも、中国には困難を乗り越えるだけの能力が十分にあると強調したが、市場では、厳しい見方も根強い。

 

年明けからは、2月末を期限とする米国との通商協議が本格化する予定である。中国政府にとっては、今年の流れを決めるヤマ場をいきなり迎えることになろう。トランプ米大統領と習主席は昨年12月1日の首脳会議で、米中の貿易摩擦をこれ以上過熱させないようひざ詰めで協議することに合意した。中国政府は以来、米国製自動車に対する報復関税を撤廃し、700品目余りの輸入関税を引き下げたほか、米国産原油と液化天然ガス・大豆の購入を再開するなど、輸入拡大策を次々と打ち出している。12月24日にも、一部の輸出入品目の関税を2019年に撤廃する方針を明らかにして、輸入促進の姿勢はその本気度がうかがえる。また知的財産権の侵害との米国の訴えに対しても強制的技術移転を防止するための法案を起草することに着手して、応じてきている。

 

ただ、貿易摩擦の解消には時間が掛かる。かつての日米貿易摩擦がそうであったように、議論と妥協を繰り返し、思うようにはついてこない黒字削減の成果に繰り返し向き合い、解消には、長い時間を要するプロセスとなる。

 

中国経済のダウンサイドリスクへの手当てを短期的に施しながら、長期的な課題に取り組むという中国政府の取組みは、引き続き難題であることは間違いがないだろう。

 

 

長谷川 建一

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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