イングランド銀行(英中央銀行)は前回(11月)の金融政策委員会(MPC)で政策金利について、限定的かつ漸進的な利上げが向こう数年にわたり必要、との認識を示していました。しかし今回の議事録では、短期的に英国の経済指標には通常以上の変動が見込まれると述べています。今後の金融政策はEU離脱交渉の動向に左右されることが示唆されます。
イングランド中銀:EU離脱を巡る不透明感が高まっているとの認識を示唆
イングランド中銀は2018年12月20日に金融政策委員会(MPC)を開催し、政策金利を市場予想通り、0.75%に据え置くことを発表しました。
MPCの議事要旨によると、「経済全体の見通しは引き続き欧州連合(EU)離脱の動向に大きく左右される」とした上で、「EU離脱がどのような形を取るにせよ、それに対する金融政策の対応は自動的なものではなく、いずれの方向もあり得る」と述べています。
どこに注目すべきか:MPC、CPI、英国議会採決、再国民投票
イングランド中銀は前回のMPCで政策金利について、限定的かつ漸進的な利上げが向こう数年にわたり必要、との認識を示していました。しかし今回の議事録では、短期的に英国の経済指標には通常以上の変動が見込まれると述べています。今後の金融政策はEU離脱交渉の動向に左右されることが示唆されます。
まず英国の経済動向についてインフレ率を中心に振り返ります。英国の消費者物価指数(CPI)は11月が前年同月比で2.3%と、17年後半にインフレ率が同3%台で推移していたのに比べ低下傾向です(図表1参照)。原油価格の下落はインフレ率の下押し要因と見込まれます。一方で、賃金の伸びや失業率の低さから基調的インフレ圧力が高まっている点も指摘しておりバランスをとった見通しを示しています。
[図表1]英国ポンド(対ドル)と総合CPIの推移
しかし、金融政策の策定で不透明要因は英国のEU離脱交渉の展開です。12月11日に予定されていたEUとの合意案に対する英国議会の採決は、承認の見込みが低いことから、前日に突然延期となりました。EU離脱を巡るポンド安がインフレ率を過去大幅に引き上げただけに、イングランド中銀としても、EU離脱の行方が最大の関心事と見られます。
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EU離脱のお膝元のイングランド中銀の議事録を見ても、EU離脱の行方を予測することは困難という印象を受けます。そこで、わからないときは動向の整理に徹することとします。
まず、時間を逆にさかのぼり、最終的な帰結からEU離脱の展開を占うと、①秩序ある離脱、②無秩序な離脱、③残留(再国民投票)の可能性が想定されます(図表2参照)。
[図表2]英国のEU離脱を巡る主な動き
次に最も注目されるイベントは来年1月14日週に予定されている英国議会採決です。延期を決めたのは合意案への反対が強いことが理由ですが、これから1ヵ月ほどでメイ政権がどこまで説得できるかにかかっています。その結果合意案が承認されれば秩序ある離脱の道が見えてきます。
反対に、承認以外の場合、最悪のケース、何も決まらなければ無秩序な離脱の恐れがあります(可能性は低いと見ています)。ただ、当初承認されなくても、議会が合意案を修正できる仕組みに変更されたため、修正後に議会通過秩序ある離脱に向かう道もあります。もうひとつは再国民投票の可能性が高まってきたと見られます。再国民投票実施のテクニカルなハードルは高いようですが、一方で2年前の国民投票の結果と現在の意識にギャップが見られます。世論調査では残留支持が過半との結果もあります。また現地の報道でも再国民投票支持が以前に比べ高まっています。
来年年初から、EU離脱は注目のイベントとなりそうです。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『来年年初の動きが気になる英国EU離脱の行方』を参照)。
(2018年12月21日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト
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