減少する人口、増加する賃貸住宅・・・。不動産投資家として、入居者に選ばれる賃貸物件をどのように見極めればいいのでしょうか。本連載では、不動産管理のスペシャリストが「勝ち残る」不動産投資のスキームを解説します。

不動産投資ブームに踊らされ、失敗するケースが多発

ここ数年、書籍、セミナー、または著名なブログ、SNSなどから不動産投資のさまざまなノウハウが提供されています。そして実際に多くのサラリーマンが不動産投資の世界に参入しました。

 

なぜ盛んに情報が提供されていたのか、それは金融機関の融資が緩和されて、不動産会社としてはかつてないほど不動産を販売しやすくなっていたからです。

 

融資が活発になった理由は、日銀の動きが大きく影響しています。まず平成25年4月に黒田総裁率いる日本銀行が景気回復目的のため、物価2%上昇を目指した異次元の『量的・質的緩和』を行いました。おかげで銀行にお金が集まってきたわけです。それにより銀行の財務内容は良くなりましたが、銀行からの貸出(融資拡大)による景気回復は見込めません。

 

そこで平成28年(2016年)2月に日銀はマイナス金利政策を採用しました。簡単にいえば、「日銀の当座預金にお金を入れておくと金利がマイナスになるので融資で貸し出しなさい」と号令をかけたのです。

 

ところがいくら「融資をしろ」と言われても銀行には貸出先がありません。回収リスクは銀行にありますし、融資してほしいという企業も多いわけではなく、むしろ設備投資を行う企業は非常に少ないのが現状です。

 

そこで「土地建物という有形の担保を取れる不動産融資は数字を確保しやすい」ということから不動産に対する融資が活発化しました。不動産投資業界に対して銀行が積極的に融資をするようになり、一部の富裕層だけではなく比較的収入の高いサラリーマンに対しても融資が出るようになったという経緯があります。

 

 

加えて外国人投資家が積極的に日本の不動産を取得するようになり、結果「リート(不動産投資信託)」なども盛んとなり不動産取引量の拡大とともに不動産額も上昇していきました。こうして不動産の販売が盛り上がり、不動産会社の数も増えました。

 

このように不動産取引が活発化した影響で不動産価格が上昇した結果、「物件を欲しくても買えない投資家」も増加したのです。それでも不動産会社としては不動産を販売しなければなりません。そこで投資家の資産が目減りしてしまうような物件も積極的に販売するような、不誠実な不動産会社が台頭するようになりました。

 

その代表格が本書(『人口減少時代を勝ち抜く 最強の賃貸経営バイブル』)「はじめに」で述べたような「かぼちゃの馬車事件」です。それ以外にも手元に現金をほとんど持たない状態で不動産投資を始めたため、修繕費や税金が払えなくなっている投資家や、空室が埋まらず当初予定した収益が得られないどころか、銀行への返済さえままならなくなった投資家など、失敗するサラリーマン投資家が続出しています。

 

ここまでをまとめると、下記の図表のようになります。

 

[図表]不動産投資ブームの流れ

これがここ数年でたどってきた流れです。不動産投資ブームの陰には日銀の存在が大きく影響していることがお分かりいただけると思いますが、大半のサラリーマン投資家は「融資が簡単に受けられる」「元手がなくても収益不動産を持つことができる」という甘い言葉に乗せられて安易に不動産投資をスタートさせているのです。

サラリーマン投資家の破綻を招いたSスキームとは?

現在の金融機関は不動産に対する融資に対して様子見状態になってきました。アパートローンは徐々に厳しくなっており、「プロパーローン(事業性融資)はお断り」という金融機関も出てきています。このように不動産投資業界はかなり融資情勢が変わってきています。

 

変わった原因として、金融庁の方針が挙げられます。金融庁は、不動産業界の好況により銀行が不動産融資を出しすぎると懸念して1年ほど前から銀行を指導していましたが、加えてS銀行の不正融資の事実が明るみに出た「かぼちゃの馬車事件」も大きく影響しています。これにより銀行はサラリーマン向け融資に対し「晴れのち曇り」から「雨」の姿勢に変更しました。

 

ここで、S銀行による不動産融資スキーム、「Sスキーム」について掘り下げて解説します。

 

不動産業界では有名なS銀行は、住宅ローンであっても融資が通りづらい人に対して、高金利ではあるものの、積極的に融資をしていました。そのため売買物件の不動産会社であれば知らぬ人はいないほどの有名銀行となり、地銀で最も利益を上げていたのです。

 

かくいう私もS銀行からアパートローンを借りた一人です。不動産投資の世界では上場企業社員で年収が600〜700万円という層がスタートラインになります。このように属性がそこまで良くない人に対して、「不誠実不動産会社」が企画したのが「Sスキーム」です。簡単にいえば、S銀行の基準に合う物件(表向きは収益性が高いが、実態はそうではない物件)をサラリーマン投資家に不正な方法で売りつけるスキームです。不正の具体的な方法については後述します。

 

直近までS銀行で勤務していた方にお会いする機会があり、話を聞くことができましたが、融資ノルマはかなりきつく、ここ2年は特に数字上難しい案件であってもかなり積極的に融資を出していたといいます。

 

 

そして空室もしくは家賃下落により銀行返済が困窮する投資家は、最近も徐々に拡大しているとのお話でした。不動産会社が皆利益を上げようとし、収支上無理な融資を組んで販売して、ある一定期間サブリース保証したのちサブリースを解除するという方式で、サラリーマン投資家の破綻を招いています。これを公式化すると以下のようになります。

 

不誠実不動産会社+Sスキーム≒デフォルト(自己破産)

 

顧客側に立った正しい情報が伝えられておらず、投資は自己責任とはいえ、モラルハザードが起こっているのが現状です。

 

S銀行は都内のシェアハウスのみならず、地方物件に対して年利4.5%という高金利で貸し出しています。ここ数年で同じようにサラリーマン投資家に融資する金融機関が、S銀行対策で金利2〜3%台で融資をしていますが、5年前までは年収1000万円以下の方はS銀行しか融資を受けられる銀行がありませんでした。

融資審査に際し、不動産会社が行った「不正」

それでは、S銀行を使って不誠実な不動産会社がどのようなことをしていたのでしょうか。

 

金融機関は物件と借りる人の両方を見て融資をするのか判断します。そして融資するのであれば、どのような条件で融資するかを検討します。そうした流れに対して不誠実な不動産会社がやることとしては次が挙げられます。

 

●属性偽造(金融資産のかさ増し)

インターネット銀行のエビデンス(資産の資料)が通帳原本ではなくコピーでもよいことを悪用して、記載された金額を改ざんして金融資産を実際よりも多く持っているように見せかけて融資を受ける方法。

 

●物件偽造

物件のレントロール(家賃など賃借条件一覧表)を改ざんして、利回りを高く見せる方法。実際よりも入居率を高く見せたり、高い家賃で入居しているように見せかけたりしている。

 

●契約書の偽造

S銀行では9割融資が基本であるため、実際の契約書とは売買金額の異なる銀行融資用の契約書を作成してフルローン・オーバーローンを受ける方法。「二重売契」「かきあげ」などと呼ばれる偽造。

 

その他、不正ではありませんが一定期間売主が空室を家賃保証して、購入時のみ入居率アップさせて融資審査を通りやすくする手法があります。

 

このように融資に関連する物件、購入者すべてが偽造されて融資審査を通過してしまう状況があったことが分かります。S銀行、及び融資担当者はこれを認識しながら見逃していたという事実が明るみに出ています。

 

S銀行としても不良債権を抱えると同額の貸倒引当金を積まなければなりませんし、不良債権化を覚悟でこのような融資をしていた内実には、銀行マンに対するノルマが厳しいということ、内部統制がうまく機能していなかったという2点が影響していると思います。

 

菅谷太一

ハウスリンクマネジメント株式会社 代表取締役 宅地建物取引士/液化石油ガス設備士/丙種ガス主任技術者

 

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