使い方次第では悪用される可能性もある任意後見制度
任意後見人には、本人の代理権が与えられます。任意後見契約締結時に、見守り契約や財産管理契約も併せて締結することで、高齢世帯にとっては非常に使い勝手のよいものになるということが、本連載の第6~8回でお分かりいただけたことと思います。
しかしひとつ、重大な問題があります。それは「誰を後見人に選ぶか」ということです。誰が後見人になるかで、この制度が実りあるものになるか、ならないかが決まると言っても過言ではありません。というのも、この制度は使い方次第で悪用される可能性があるからです。
契約発動前の後見人を監視する人は誰もいない
財産管理契約を締結すると、任意後見受任者は本人の代理として、通帳や印鑑を預かることができます。この段階では、まだ本人に十分な認知能力があるため、任意後見契約は発動していません。任意後見契約が発動すると、任意後見監督人がつきます。任意後見人は帳簿つけをするなど、財産管理をしっかり行い、任意後見監督人に財産目録等を提出しなければなりません。一切のごまかしがきかなくなるのです。
ところが、任意後見契約発動前の、財産管理契約に基づく財産管理を行う段階では、任意
後見受任者に監督人はつきません。これは何を意味するのでしょうか? 察しのいい皆さんなら、もうお分かりのことでしょう。任意後見人受任者に悪意があれば、「通帳も印鑑も握った。うるさい監督人もいなくて、やりたい放題」ということになるのです。
ですから、任意後見人には、絶対的に信頼がおける人を選ばなければなりません。悪質な人を選んでしまうと、本人の認知能力が低下してきて、任意後見契約を発動すべき時期になっても、申し立てを行わず、財産管理と称して横領を続けるということになりかねないのです。