納税資金を工面できない場合はどうする?
Q:資産は自宅と山林、田畑といった不動産がメインなのですが・・・。
A:均等に分けられなくても、ご自身の意思表示は大切です。
不動産ばかりの相続はよくある話です。各相続人が相続する資産の価値に、どうしても不均衡が生ずることがあります。しかし、遺留分を主張される可能性を承知の上で、あえて全財産を特定の息子に、などと遺言で指定してしまうことは、何もしないよりはずっといいです。相続人たちがにらみ合った状態で、遺産分割協議が成立しないよりは、遺留分を主張したいなら主張すればいい、と腹をくくってしまってもいいのではないかと、私は考えます。
つまり、あなた自身の意思表示をするということです。その意思に納得して、相続人が遺留分を主張せずスムーズに進むことも当然ありますし、遺留分を主張したくても弁護士への依頼費用など、手続きに必要なコストが制約となって争えなくなるパターンもあります。
ですから、遺留分の問題が残るにしても、遺言での意思表示が大切なんだなと考えていただければいいでしょう。
Q:相続税を納められるか心配です。物納も可能でしょうか?
A:不動産、特に山林の物納は非常に難しいものとお考えください。
相続税が発生する場合、納税資金の調達方法を検討する必要があります。現金が工面できなければ、不動産を売却することを考えますが、すぐ売れないこともあります。そこで物納はできないものかと考えたくなるのは、自然な発想です。
相続税を現金で納付できない人のために、相続財産の現物、例えば土地をもって納税できる制度が昔からあるのですが、今では年間100件ほどしか適用されていません。要件が厳しいのです。物納できる不動産は、隣地との境界が明確である必要があります。山林に関して言えば、ほぼあきらめたほうが良さそうだ、と考えてもらって良いでしょう。
そうなると、納税資金に回せる現金が足りない方は、不利な条件でほかの財産を売る、利子税を払って延納を検討するなど苦労します。ですから、相続税が発生するかどうかを事前に調査しておくことが重要です。
Q:ますます心配が増えてきました・・・。
A:そもそも、相続税が発生しないかもしれません。
不安に思われるのも無理はありません。しかし、そもそも相続税が発生しないこともあります。法定相続人が3人、例えば奥さんと子供2人の場合では、資産総額4800万円までは相続税が課税されません。資産は地方都市の自宅と小面積の山林、それに若干の現金があったとして、5000万円を超える資産を持っている人が、どれだけいるでしょうか。大企業のサラリーマンや公務員として勤めて退職金をもらった人、会社経営者となると別ですが・・・。
ですから、資産と相続人の数を早めに確認しておけば、相続税の心配をする必要がないことがわかり、この点では安心できるかもしれません。
ただし、納税の心配がなくなっても、別の心配が残ります。今度は遺産を分割するための資金です。
不動産をめぐる遺産分割はお金で解決すべきだが・・・
Q:遺産分割のための資金とは?
A:不動産など、均等に分割できない資産を相続する場合、他の相続人と分割後の資産価値を均等にするため、現金で補うことがあります。代償分割と言います。
例えば、相続人が子3人で、自宅が600万円、預貯金が200万円、山林が100万円、合計900万円分の資産があったとします。これを法定相続分で3分割すると、1人当たり300万円になります。仮に1人が自宅を取ると、その1人で600万円分を得ることになり、他の2人の取り分と不均衡が生じます。
他の相続人が同意すればこの内容でも協議を成立させられますが、不利になる2人と揉めて遺産分割協議が難航することもあります。
結局、資産価値が3等分(1人当たり300万円)となるようにしようとなった場合は、自宅の価値が600万円分ですから、自宅を相続する人は差額の300万円をほかの2人に渡さなければいけません。こうした遺産分割の手法を代償分割といい、支払う300万円は自宅を取得する人自身の資金から出すことができます。
自宅を相続する側の立場で言えば、代償分割の資金を計画的に準備しておく必要があるかもしれません。逆に自己資金が出せるなら、遺産分割協議で自分の望む資産を自分1人で相続できる可能性が高まります。
不動産をめぐる遺産分割をお金で解決する考え方には、代償分割のほかに不動産を売ってお金を分ける換価分割があります。しかし、不動産の買い手がつかないか、自宅などどうしても売れない場合は、代償分割かいったん共有して問題を先送りすることを検討せざるを得ません。
実際この例のように、大きな財産が自宅を中心に一つあって、それが上手く割れない、売ることもできないというトラブルが多いのです。こうしたことからも、財産全般、ときには相続人になる人の財産までを見た相談が望ましいと考えます。
Q:こんな苦労を子どもたちにさせたくありません。そのために必要なことは?
A:財産の一覧をまとめ、遺言を作成しておきましょう。
あなたが亡くなった後に、お子さんたちがまず何に苦労するかというと、財産を探せないことです。どこに預金があるのか、どこに不動産があるのかわからない。そうした調査を一からやらせるよりは、市販の「エンディングノート」でもいいので、書式に沿って情報を書き入れておく。こうすることで、自分の財産や負債をまとめて書き残しておくことができるので相続後の対応が楽です。
ただこれは、遺言書としての要件を満たさないものがほとんどなので、法律的に効力がある遺言ではないと考えてください。記録が残っていれば調べる手間が減るので、「ないよりはまし」ということです。
また、遺言を作成するキットも売られていますので、それに沿って遺言を残すことも良いでしょう。できれば、その両方の実行が望ましいです。
財産の一覧を見えるようにまとめておくこと。可能ならば、誰に何を相続させるかを法的に有効な遺言として残すこと。その二つをお勧めしたいです。特に、相続人の中に認知症を患っている方がいたり、連絡がつかない方がいるような場合、つまり遺産分割協議が確実に揉めるとわかっている場合には、ほぼ必須だとお考えください。
ご自身が亡くなることを考えるのは辛いものですし、目をそらしたくなる心情もよくわかります。「遺言を書こう」と実行できる人はそう多くはありません。ただ、遺言がなければ確実に揉めてしまう、書いておけば問題なく進んでいく将来をどう考えるかだと思います。