相続人は「保証人」としてお金を返す義務も引き継ぐ
①財産面での状況把握(負債を含む)
Q:相続対策とは、相続税のことだけでしょうか?
A:相続税のほかに、遺産をうまく分けられるかどうかも問題です。山林だけではなく、すべての資産の価値で考えます。負債も含めて考えてください。
相続と聞いてまず頭に浮かぶのは相続税でしょうか。相続対策と聞いて、相続税の節税対策を連想される方もいるでしょう。相続税は、山林だけを見るのではなく、不動産、現預金などを含めた財産全体の評価額で考えるものです。
そこでまず、全財産を調べ上げ、納税対象額となるかどうかを検討しておく必要があります。実際には相続税の納税義務が発生する人のほうが少ないのが実情です。
相続税を心配しなくて良いご家庭の相続対策は、円満に遺産を分割して引き継ぐための対策です。特定の相続人に山林を持たせたいと考えた場合に、ほかの相続人が相続する財産との間に価値の不均衡が生じてしまうと、相続人の間で遺留分や法定相続分をめぐってトラブルが発生することもあります。そうなると、希望する人に山林を相続させることも難しくなります。
財産が少なく(基礎控除の範囲内で)相続税の課税対象とならなくても、財産が不動産中心の場合は、きれいに分けられないという問題があります。例えば、自宅(実家)600万円、預貯金200万円、山林100万円の財産を、子供3名で相続する場合です。子供たちの間での法定相続分は平等とされていますから、実家を継ぐ子とそれ以外の子とで不均衡が生じ、そのままでは揉める可能性があります。
したがって、どんなご家庭の相続対策でも山林だけではなく財産全体とそれを相続させる割合など、全体を広く見ておかなければなりません。
もう一つ、現実的な問題として、負債の存在があります。
財産は相続人たちが話し合って相続する人を決めることができますが、負債はそうではありません。相続人たちの話し合いは、亡くなった人の債権者には関係ないのです。債権者は相続人たちの話し合いで出た結果にかかわらず、法定相続分で各相続人に借金の返済などを求めることができます。相続人がこれを免れるには、相続放棄するしかありません。
借金ならば亡くなられた方が把握している可能性が高いのですが、厄介なのは他人の債務の保証人になっている場合です。相続人は、保証人としてお金を返す義務も引き継ぎます。
例えば、亡くなられた方が自分が経営する会社の保証人になっていて、その会社に負債がある場合、財産を使って清算または再建するのか、あるいは相続放棄しなければならないのか、という点は考えておかなければなりません。
これは生前贈与のときにも問題になります。債権者の追及から財産を逃がす手段として生前贈与を考える方がいるのですが、債権者から「無効である」あるいは「取り消してほしい」と主張され、訴訟で負けることが実際にあります。ここであえて、「負債を含む全財産の調査」としたのは、そうした理由です。負債や債務の保証人になった状況を含めた資産全体を見ないと、相続の進め方の方針が立てられないのです。
また、相続登記未了の財産がないか確認しておくことが望ましいです。自分名義でなく、先代あるいは先々代名義の財産です。探すと出てくることが実際にあります。
難航するケースが多い「遺産分割協議」だが・・・
②相続人(配偶者や子ども)の状況把握
Q:相続するのは妻と子の予定ですが、ここでのポイントは?
A:遺産分割協議がスムーズに進むかどうかの見極めです。難航することが明らかならば、遺言の作成を強くお勧めします。
ほかに法定相続人になるお子さんはいませんか? 相続人の状況把握は、非常に大切です。
こうした表現で相談を始める方に、遺産を相続させないと決めたもう1人の子がいることがあります。法定相続人全員の状況を把握することも、相続対策の基本です。
山林所有者が亡くなり、遺言がない状態で相続が始まると、法定相続人の間で遺産分割協議を行います。この遺産分割協議が成立しないと山林を希望の人に所有してもらうことができず、ご希望の人が所有者になる相続登記もできなくなります。遺産分割協議が終わるまで、法律上は山林は法定相続人たちによる共有のままなのです。
例えば、亡くなった方の奥さん(相続人の1人)が寝たきりで意思疎通ができない場合、その人本人との遺産分割協議はできません。こうなると、特定の人(例えば長男)に山林を相続させたいと思っていても、遺産分割協議による相続は難しくなります。成年後見人を選任して遺産分割協議ができるという本もありますが、その申し立てや後見人への報酬といった費用がかかることまで考慮する必要があるでしょう。
このように遺産分割協議が容易に成立しないことが相続前から明らかでも、生前に遺言を作成しておけば遺産分割協議の必要そのものがなくなります。ここは遺言の作成を強くお勧めしたいと思います。
「効力がない昔の契約書」などはどう処理すべきか?
③山林の状況把握の情報承継
Q:山、特に現地に関して、生前にやっておくべきことは?
A:把握している内容を記録に残しましょう。後継者が扱いに迷う書類も整理してください。
境界はもちろん、現地への行き方も不明なケースが多いので、把握しているなら記録に残してください。ハンディGPSを使って記録を残すことも有効です。その作業を親子でできるなら、それが一番良いでしょう。
それともう一つ。財産に関する過去の書類がたくさん残っていることがよくあります。今は効力がない昔の契約書、山を人に譲ってしまった後の権利書などが雑多に残っていて、相続時に悩むことになります。
必要なら司法書士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に見てもらいながら、不要なものは破棄しましょう。自分では分からなくても、見る人が見れば、要否が分かります。必要なものだけに整えた上で託す、継がせるのが望ましいです。こうした作業を通じて、忘れられていた財産を発見できることもあります。
④前記①~③を考慮しつつ、できる対策の立案
Q:自宅は妻に、山は長男に、と考えていますが、どんな問題が考えられますか?
A:他の子に不利にならないか、相続税の納税資金が確保できるか、が問題です。
ここまでで明らかになった財産、相続人、各々の状況といった複合的な要素を加味した上で、総合的に対策を講ずる必要があります。
特に、誰に何を相続させるか、その方針を良しとしない他の相続人がいるかが問題です。不動産が財産のメインであれば、財産を平等に分割することが難しくなり、遺言を書いても他の相続人の遺留分を侵害する可能性が出てきます。生前に相続の方針について合意が得られていればトラブルには発展しないかもしれません。しかし、いざその場面を迎えた際に、何が起きるかはわかりません。