オーナー経営者は役員退職金を上手に利用することで手元にお金を残すことができますが、税務当局に役員退職金の扱いを否認されるケースも増えています。今回は、役員退職金を活用する際のポイントを改めて見ていきます。

「役員退職金」として認められるための3つのポイント

所得税法では所得を10の区分に分けており、その中で特に低い税率が適用されるのは退職金です。税率が通常の半分になりますし、退職所得控除額を差し引くことができますので少ない税負担で役員退職金を受け取ることができます。

 

オーナー経営者はこの役員退職金を上手に利用することで、手元にお金を残すことができます。ただし、メリットが大きい分、リスクも大きいので実行するには十分注意する必要があります。

 

リスクというのは、税務当局に役員退職金の扱いを否認されるケースが多いということです。否認されてしまうと、役員退職金を受け取ったオーナー経営者も会社も莫大な税金を追加で納付する必要が生じます。それにより会社の経営が傾く可能性さえもあるのです。役員退職金として認められるためには、ルールがありますから、それをしっかりクリアして活用することが重要なのです。

 

ルールには主に3つのポイントがあります。

 

①金額の算定が合理的であること

②形式的な基準を満たすこと

③実質的な基準を満たすこと

 

金額の算定は、役員退職金を受け取った人の在任年数や報酬の月額、あるいは、同じような業種で同じような規模の会社がどの程度の役員退職金を支払っているのかを参考にしましょう。役員退職金は一般的に「月額報酬×在任年数×功績倍率」という式で計算しますので、これに見合った形で算定された金額であるかどうかが判断のポイントになります。

 

形式的な基準は、役員退職金の金額を決める際の手続きがきちんと行われているかということです。役員退職金の金額を決める際には、株主総会を開き、取締役会の決議をきちんと受け、議事録に記録を残しておかなければなりません。

3、4年後の税務調査で否認され、追加徴収されることも

ところが実際には、オーナー経営者が自分で勝手に役員退職金の額を決めて、支給してしまうケースがほとんどです。99%の会社は、実際には株主総会を開かずに議事録だけ作っているのが実態でしょう。このような場合、税務調査で指摘されればほぼ否認されます。

 

実質的な基準とは、退職後の立場です。退職したにもかかわらず、経営上、重要な地位を占めている場合には、退職したとはみなされません。当然、退職金も否認されます。この判定は、退職後の給料が半分になったとか、週に何日出社しているかなど、形式的なものよりも実質的にどうなのかという基準で判断されます。後継者が本当に全権を掌握しているかという点を事実認定で判定し、結果、役員退職金が否認されるケースが増えているのです。

 

これほど役員退職金が厳しくなったのは、2011年の通達で取り扱いが厳しくなったからです。しかし、未だオーナー経営者も顧問税理士も否認されるリスクを認識していないことが多くあります。過去の経緯から「大丈夫」という認識が、経営者にも税理士にも残っているために危険なのです。

 

役員退職金を受け取り、オーナー経営者も会社も節税ができたつもりでいても、3、4年後の税務調査で否認され、高額な税金を追加徴収されるケースが増えています。最後に一気に状況をひっくり返される、オセロゲームのようなことが起こりうるのが税制なのです。

 

 

齋藤 伸市

株式会社東京会計パートナーズ 代表取締役

 

本記事は、2015年9月2日刊行の書籍『財を「残す」技術』 から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

財を「残す」技術

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齋藤 伸市

幻冬舎メディアコンサルティング

成功したオーナー経営者も、いずれは引退を考えなければいけない。そのときに課題になるのが、事業とお金をいかに残し、時代に受け継ぐかである。 保険代理店業を主軸として、オーナー社長の資産防衛と事業承継をコンサルティ…

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