前回は、日本の教育でバイリンガルが育たない3つの理由を取り上げました。今回は、幼稚園児を対象に、英語とともに地理や科学などの知識も身に付けられる「テーマ学習」について見ていきます。

子どもが興味を持ちそうな、さまざまなテーマを勉強

英語に限らず、学習は講師と子ども、あるいは保護者と子どもが双方向で取り組めることが大事です。就学前の子どもなら遊び感覚で子どもの好奇心をくすぐり、向学心が生まれたサインを的確に読み取って、タイミング良く学びを与えます。子どもの集中力は長くは持ちませんから、さまざまな工夫をして授業をしなければいけません。

 

子どもたちを飽きさせないために、キンダーレベル(幼稚園児クラス)で始めるのが「テーマ学習」です。英語の習得とともに地理、科学、社会学などの基礎を身に付けるため、子どもが興味を持ちそうなさまざまなテーマで勉強をします。

 

取り上げるテーマは、「人体」「世界の国々」「地域社会の仕組み」「宇宙」など、多岐にわたります。大人が「このテーマは面白そう」と思っても、子どもたちが見向きもしないことはありますし、またその逆もあります。

 

テーマ作りは常に試行錯誤の繰り返しで、これまでボツになったテーマも数知れません。この18年間でかなりブラッシュアップされ、子どもたちの好奇心を育むものだけが残りました。

 

一つのテーマについて、年齢を重ねるごとにどんどん掘り下げていくのが特長です。例えば、「体の仕組み」がテーマだとしたら、母親たちが子どもに言う「お菓子をあまり食べないで、ご飯を食べなさい」というセリフに対して、「なぜ?」からスタートします。「お母さんがどうして、そんなことを言うのか分かる?」という問いかけの答えを、3年かけて学ぶのです。

 

最初は「ジャンクフード」がテーマ。子どもたちにスーパーやレストランの折込チラシを持ってきてもらって、そこに掲載されている食べ物の写真を図工の時間にハサミで切ってもらいます。野菜や肉、魚などにお菓子が交じったジャンクフードもあります。切り終わったら、「体に良い食べ物」と「体に悪い食べ物」を分けてもらいます。

 

まだ3歳ですから分からないところも多く、担当講師がフォローしながらの作業です。その後もさまざまな食べ物について勉強しますが、まず、食べ物には体に良いものとあまり良くないものがある、ということを学んでもらうのです

 

4歳になると、食べ物はいくつかに分類されていることを勉強します。例えば、「野菜と果物」や「肉と魚」それぞれが同じカテゴリー内に属していることを理解します。また、味覚には「甘味・苦味・塩味・酸味」があり、舌のそれぞれ別のエリアで感じやすいことを知ります。文字や図だけでは味覚の差を理解しにくいため、食べ物のシールを用意し、例えばレモンであれば「Sour(酸味)」の位置に貼ってもらうのです。そうすることで、酸っぱいものは「Sour」と理解するようになります。

 

さらに、5歳になると、食べ物の「栄養成分」についても説明します。例えば、肉や魚は「Protein(タンパク質)」と学ぶことで、その食べ物が体のなかでどういう役割を果たすのか。血液になるもの、筋肉になるもの、骨になるものなどを学習します。ここで初めて、「どうしてお母さんはジャンクフードを食べてはいけない、お菓子ばかりを食べてはいけないと言うんだろう?」ということが理屈で理解できるのです。

 

さらにこのテーマでは、学習のなかで「臓器」の話も登場します。臓器については教えなくてもいいだろう、とも考えたのですが、食べ物が体のなかでどのような変化を起こすのかを教える際にどうしても臓器名が出てきてしまいます。それについては深追いしなくていい、というスタンスでいても、気づけば、子どもたちのほうから「Colon(結腸)」「Ascending colon(上行結腸)」「Descending colon(下行結腸)」などという、大人でも分からない言葉が出てくるのです(図表1)。

 

[図表1]テーマ学習の一例「体の仕組み」

興味があれば、無理強いしなくてもどんどん吸収する

そして、これまでの学習を基にこんな実験をします。下記の図表2を見てください。ビニール袋のなかにクッキーやバナナなどの食べ物と、唾液の代わりに水、胃酸にはオレンジジュースを使ってぐちゃぐちゃに混ぜるのです。これが「食べ物を食べたときの胃のなかの状態」と説明すると、子どもたちは納得します。そのあと、胃から小腸、大腸、肛門へと栄養分を吸収しながら、食べ物は流れていきますが、その流れをトレーや紙コップ、タイツなどを使って説明していきます。そして最後、体外に出たものが「うんち」。分かりやすく目の前で見せると、子どもたちは大喜びで、自分たちの体が行う消化について正しく理解します。

 

[図表2] テーマ学習による実験の様子

 

これこそがテーマ学習の効用。まずは身の回りにあるものや小さな疑問から始まった学習が、ゴールでは一部医学の分野にまでたどり着いている。これがテーマを掘り下げて学習する面白さです。また私の子どもが小学6年生になったとき、「お母さん、人間の臓器について保育園でやったよね? 私、英語で全部思い出したよ!」と言ってきたのです。それには大変驚きました。一時的に忘れてしまった単語でも、なにかをきっかけに思い出し、あらゆるところにつながっていくのです。

 

ほかにも「人間はどうして一年で年を取るの?」という疑問から宇宙の仕組みに話が広がったり、「アフリカにはどんな動物がいるの?」という疑問から6つの大陸と7つの海の話に広がったり、「家のなかにはなにがある?」という疑問から世界中の家や建築工法の話に広がったりするなど、すべてのテーマ学習がこのように進んでいきます。

 

テーマ学習の手法や考え方は、オーストラリアの学習方法を参考にしています。「子どもたちの語彙を増やすためにはどのような授業をすればいいか」を議題にした際、オーストラリア人の講師がこのテーマ学習を勧めてくれました。3歳はなにに対しても「どうして?」「なんで?」「なに?」と聞いてくる時期。その時期のさまざまな疑問について考えるテーマ学習は、子どもたちの好奇心を育てます。

 

どのテーマも「3歳からこんな勉強をして子どもたちは分かるの?」と思うものばかりですが、子どもの能力を侮ってはいけません。難しいとか、簡単だとか区別するのは大人の概念です。無理強いしなくても興味があることはどんどん吸収していき、学んでいきますから、教えないのは罪です。そしてそうした学習のなかで、英語の語彙も目まぐるしく増えていきます。

テーマ学習には徹底したマニュアルがある

テーマ学習の効果は目を見張るものがあるものの、教える側は大変です。大人ですから、答えは容易に浮かぶのですが、なぜその答えになるのかがうまく説明できません。ましてや相手は子ども。子どもが理解できる言葉を使って明確に分かりやすく物事を説明していかなければいけません。そこが幼児教育の難しいところです。どんなに優れたテーマでも、子どもが興味を持たずにポカーンとしていたら意味がないのです。

 

子どもが興味を持つように仕向けるのは講師の仕事ですが、個々の講師で答えに微細な差が出ないように、テーマ学習には徹底したマニュアルが存在します。テーマ学習に限らず、私の英語保育園では「フラッシュカード」を使って学習をするのですが、そのカードの裏には、正確な答えが記されています。

 

例えば「太陽とは何?」と子どもたちに問いかけながら、フラッシュカードを出し、子どもたちの答えを聞いたあと、正解を言う。その正解が講師ごとに異ならないよう、「太陽とはこういうもの」という答えが3行程度にまとまっているのです。説明の上手な講師の答えをフラッシュカードの裏に、5歳児が分かる言葉(あるいは3、4歳児が分かる言葉)で落とし込みます(図表3)。

 

[図表3]フラッシュカード「太陽って何?」

左:裏面には太陽についての正確な答えや歌などが記載されている 右;表面を見て子どもに太陽について問いかける
左:裏面には太陽についての正確な答えや歌などが記載されている
右:表面を見て子どもに太陽について問いかける

 

フラッシュカードは必要に応じて、次々と作成されています。全学年分になると、その数は1000枚を超え、尋常ではない量になります。以前は手作業で、それらを必要なものと不必要なものに分けたり、裏のカンペをブラッシュアップしていたのですが、さすがに非効率だと考え、現在はデジタルに落とし込む作業を続けています。

 

 

中山 貴美子

株式会社キンダーキッズ 代表取締役

 

奇跡の英語保育園

奇跡の英語保育園

中山 貴美子

幻冬舎メディアコンサルティング

卒園時にはネイティブの小学2年生レベルまで英語力が向上! 専業主婦がたった一人で立ち上げた「英語保育園」は瞬く間に反響を呼び海外展開にまで発展するほどの超人気校に!その理由とは・・・⁉︎ 英会話でのコミュニ…

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