「好奇心のスイッチ」を押せば、子どもは学びはじめる
欧米の幼稚園の多くでは、子どもたちを自由に遊ばせています。カリキュラムに教育的な要素を組み込むケースはほとんどなく、就学前の子どもたちは遊ばせることこそが大事と考えているからです。確かに、この時期の子どもたちは遊びから学ぶことが多いため、アカデミックなことを遊びから学べる工夫をしています。
一方、日本では、教育的要素をカリキュラムに加える幼稚園が増えてきました。以前は「文字学習は小学生になってから」という暗黙の了解があったのですが、最近、ひらがなは幼稚園で身に付けるという教育がスタンダードになってきています。それについての是非は別の機会に譲るとして、私の保育園では、英語と日本語の学習とともにサイエンスや算数、体育や音楽、そしてさまざまなテーマ学習を学びます。
これはひとえに「子どもの学びたい気持ちに従っている」からです。子どもが学びたい気持ちを持っているのに、私たちがそれを無視することはできません。もちろん、彼らが学びたいと考えていないことをこちらから押し付けることもしません。
私たちが子どもたちに行うのは、好奇心のスイッチを押すこと。前述したとおり「質問力」を駆使して、適正なタイミングで絶妙な質問をする・・・子どもたちの好奇心の芽を育むことが、私たちの仕事です。
保護者と共有できる「成長記録表」は自宅学習にも有益
そのなかで私たちの予想をはるかに超えて、子どもたちの学びたい心は育っていきます。その記録を保護者にも知ってもらいたいと始めたのが「ポートフォリオ」、分かりやすく言えば成長記録表です(図表1)。
[図表]成長記録表「ポートフォリオ」
体育や音楽、遠足や各種体験型学習など、日常のカリキュラムの成果を写真で残すとともに、それぞれについての評価を学期ごとに知らせます。「鍵盤ハーモニカを上手に吹けています」「サイトワーズをこれだけ覚えました」という具合です。写真で見ると、成長が一目瞭然、非常に分かりやすいので好評です。
同時に、生活習慣についても評価をお知らせします。例えば「後片付けがきちんとできます」「順番を守って行動ができます」「グループで協力して一つのことを成し遂げられます」など、○△×の3段階でシンプルに評価しています。
こうした細かい成長記録表がある園は、日本でも珍しいと思います。海外ならなおさら。ポートフォリオを作るためには講師の努力も必須なので、カナダ校の保護者からは「(日本の教育では)こんなことまで細やかに目を向けてくれているのか・・・」と驚かれました。
こうした成績表を作るのも日本式教育の一つ。スクールでの様子を保護者と共有できるのはもちろん、子どもがどのレベルまで到達しているのかが分かるので、自宅学習のヒントにもなります。とりわけ、生活習慣については自宅で学ぶところが大きく、改善すべき点が分かるのは保護者にとっても有益です。また、子どもたちにとっても自分が英語保育園でなにをしてきたかを振り返る学習になります。自分がどれだけ成長したかを感じることが、子どもの達成感を刺激するのです。その意味でも、ポートフォリオは意義ある成長の記録です。
育てたいのは「外国人のような日本人」ではない
繰り返しになりますが、私たちが育てたいのは、「外国人のような日本人」ではありません。創業以来、バイリンガルで広い視野を持った国際感覚のある子どもを育てたいと考えてきました。
そうした観点から「マナー」や「しつけ」についても、指導を重ねています。というのは、いわゆるインターナショナルスクールは、「規則」が緩やかな傾向にあるからです。それを「自由」「子どもの個性をつぶさない」「自主性を重んじる」と表現することもできますが、私は子どもたちが、小学校で日本の学校を選んだ場合、集団で浮いてしまう存在にならないように考慮しています。
例えば、日本の教育現場であれば、廊下を走り回る子どもを諭さないことはありませんし、授業中に周りを気にせず大声を発する行為も許されません。使った道具をそのままにしておいて黙って見過ごすこともありませんし、自分たちのバッグをあちこちに置いてOKとはいえません。
何事にも礼節を重んじる日本人の気質を堅苦しいと見る傾向もありますが、礼儀正しく気持ちが良いと感じる、それが日本人のアイデンティティーです。そのマインドを大切に、対した人を不愉快にさせない、周りの気持ちを慮る「しつけ」と「マナー」の教育を徹底します。
まずは、整理整頓と挨拶です。登校して自分のバッグを決まった位置にきちんと置いたら、先生や友達に大きな声で「Good Morning!」と挨拶をします。園内で会った人にも「Hello!」を忘れません。ランチの前には「Thank you for the food!」の掛け声とともに「いただきます」の歌を歌います。1日の締めくくりには「Good bye See you tomorrow!」と締めくくります。挨拶を交わすなかで、互いの距離が縮むことや相手を大切に思っている、あるいは相手を認めていると表現すること、なにより挨拶をすると自分も気持ちが良いという感覚を身に付けます。
授業の前には、日本式に「起立」「礼」「着席」も欠かしません。
また、多くのインターナショナルスクールでは、講師を含め、友達のことはファーストネームで呼びます。「先生」はもちろん、「ちゃん」や「君」も付けません。創業当初、違和感なく、そうした呼び方をしていた子どもたちが、小学校に上がった瞬間に先生に叱られたり、友達に拒否されたりしたことがあったと保護者から聞きました。
ですから、園内でそういう呼び方をしていても、「小学生になったら、先生には先生を付けて、お友達が嫌がったら『ちゃん』や『君』を付けること」と教えるようになりました。子どもにまったく悪気がなくても、日本の常識外ということはあります。
ほかにも、運動や遠足の際には整列をすることや、前述した「SHOW&TELL」で発言するときには手を挙げること、靴を揃えて脱ぐことや椅子をしまうこと、授業が始まるときは「先生、よろしくお願いします」、終わったら「先生、ありがとうございました」と言うなど、いわゆる日本式のマナーを正しく教えていきます。
こうしたしつけは3歳から始まりますが、本格的に学んでいくのは5歳からです。そのころになると、子どもはスクール以外の経験も増えて、「外国ではいいけれど、日本ではしてはいけないこと」が分かり始めます。グローバルな感覚を育てるのと同時に、日本人としてのマナーや立ち居振る舞い、常識を学ぶことも非常に大切です。
中山 貴美子
株式会社キンダーキッズ 代表取締役