その1:日本には「英語を身近に感じる環境」がない
日本人の英語力は、先進国のなかで最も低いといわれています。前述したとおりTOEFL®を例に取ると、170カ国中145位。スピーキングに限っては最下位という結果です(ETS TOEFL Score Data 2016)。日本がアジアの島国というハンデを差し引いても、寂し過ぎる現実です。「中学・高校と6年間(あるいは小学生から)勉強をしても英語が話せないのはなぜ?」と多くの人が感じる疑問に、ほとんどの日本人が正しい答えを持っていません。
私は自分の子どもをバイリンガルに育てたいという一心で、日本人のためのインターナショナルスクール(幼保一体型バイリンガル保育園)を設立しましたが、開校から18年経った今、「なぜ日本人がバイリンガルになれないのか?」という疑問の答えがはっきりと分かりました。
第一に、日本では英語を身近に感じる環境が作られていないことが挙げられます。
「幼児期から英語に親しむほうがいい」という常識は定着しつつあると感じますが、週に1度や2度の1時間程度のレッスンでは、語学は身に付きません。私たちが日本語を身に付けたときのことを考えると分かりやすいでしょう。
まだ言葉を知らない赤ちゃんのころ、私たちは周りから発せられる日本語を繰り返し耳にすることで、自然と言葉を身に付けてきました。「読み・書き」は別ですが、「聞く・話す」に関していえば、日常的に〝耳にする(=触れる)〟ことで自然とネイティブになっていくのです。それは1日24時間、言葉漬けの毎日を送ったうえでの〝ネイティブ〟です。
両親のどちらか(あるいは両方)が英語圏の人間でもない限り、日本に住んでいて、日本語を覚えるように英語を覚えることは不可能といえます。
その2:英語教育のスタートが遅すぎる
第二に、英語教育のスタートが遅過ぎるという現実があります。
現在、日本では幼児期から英語教室に通わせない限り、最初に英語の勉強をするのは小学3年生(9歳)です。文科省がようやく重い腰を上げ、2018年から小学生の英語カリキュラムを改良しましたが、いずれにしても英語を9歳から始めるのでは遅過ぎます。
人間の耳は、5歳でその音域が決まるといわれています。「絶対音感は5歳までに身に付かなければ生涯身に付かない」と言われる理由はそこにあります。耳が成長を続ける5歳までに「なに」を「どれだけ」の量、聞くかによって耳の機能の大半が決まるのです。音楽もそうですが、語学もこの時期までに慣れ親しまない限り、容易に身に付くとは考え難いのです。
「はじめに」でも述べましたが、「トマティス理論」から日本語と英語の周波数(ヘルツ)には大きな差があることが分かりました。
英語は、2000〜1万2000ヘルツと高い音で振動する言語であるのに対し、日本語は125〜1500ヘルツと低い音で振動します。各国の言語を比較しても、最高音域に属するのが英語で最低音域に属するのが日本語なのです。つまり、日本語と英語を会得しようとすると、高音域から低音域まで、広い音域をフォローしなければいけないことになります。
もちろん、不可能な挑戦ではないのですが、耳の機能が出来上がる時期に日本語だけで生活をしていると、低音域に特化した耳になってしまいます。すでに出来上がった音域を広げるのは至難の業なのです。
こうした理由から、幼児期に英語と日本語両方で生活する場合と日本語だけで生活する場合では、英語力に大きな差が生まれてしまうのは言うまでもありません。
日本でバイリンガルを育てようと思った場合、現状の小学3年生スタートでは圧倒的に遅過ぎるのです。例えば、6歳から英語をスタートして「R」と「L」の音の区別をするのは非常に難しいと考えられます。6歳からでも遅い英語教育を9歳からスタートして満足している日本の教育現場の認識の甘さには、疑問を感じます。