アルファベットの「単独音」を学ぶことからスタート
「フォニックス」は、アルファベットと音の関係の規則性から、子どもが学びやすいように開発された音声学です。まず、26文字のアルファベットの単独音を学ぶことから始まります。
いわゆる「A(エー)」「B(ビー)」「C(シー)」「D(ディー)」「E(イー)」ではなく、「アェ」「ブ」「ク」「ドゥ」「エッ」と読ませます。単語を読むときにはフォニックスを組み合わせて読むため、これらが身に付けば、複数の単語を読むことができるようになり、また、知らない単語でも発音ができるようになります。
そのすべてを覚えるのはハードルが高いように感じますが、ひらがな50音のおよそ半分と思えば、さほど難しいことではありません。子どもたちはアルファベットよりもフォニックスのリズムのほうが楽しいようで、私たちが想像するより容易に読みと発音を身に付けていきます。
ここで注目したいのは、アルファベットで教育を受けた子どもよりもフォニックスで学んだ子どもたちのほうが、発音が優れていることです。
私はこのフォニックスを知ったとき、「どうして私たちが中学生のときにフォニックスを教えてくれなかったのか!」と、発音についてはもちろん、リーディング能力が劇的に違ったのではないかと悔しい思いをしたことを覚えています。
私の英語保育園では、その26音をさらによく使うもの、あまり使わないものに分けて、使用頻度の高いものから順に教えています。例えば「S」はアルファベットでは後ろのほうに位置しますが、使用頻度でいえばかなり前になります。使用頻度順に教えると、単語が早く読めるようになって、子どもたちの学習意欲も高まります。
子どもの理解を助けるオリジナルキャラクターを開発
さらに、フォニックスを身近に感じてもらうために、(フォニックスに沿った)ユニークな26のキャラクターを考えました。
例えば「A」は「Angry Apple」(怒っているリンゴ)、「B」は「Busy Bee」(忙しいみつばち)、「C」は「Cool Caterpillar」(かっこいい毛虫)、「D」は「Dancing Dinosaur」(ダンスをする恐竜)という具合に「Z」の「Zippy Zebra」(陽気なシマウマ)までキャラクターは続きます。
単純に名詞だけでなく、形容詞も付け加えたことで、それぞれの個性を浮かび上がらせることができるのはもちろん、一つのキャラクターを覚えると「形容詞」と「名詞」の二つを同時に覚えられることになります(図表1)。
[図表1]形容詞と名詞を同時に学べるキャラクター
子どもたちの吸収力は素晴らしい。“せっかくなら、一つのキャラクターで二つの単語を覚えてほしい”という欲張りな取り組みでしたが、こちらの期待どおり、子どもたちは次々とキャラクターを覚えていきます。
そこには、子どもたちがキャラクターを鮮明に覚えられるように、形容詞に沿った形で性格を決める工夫がありました。カラフルなイラストとそれぞれの性格で、子どもたちはキャラクターに親しみを覚え、その名前を覚えることで、自然とフォニックスを身に付けていくのです。
[図表2]フォニックスキャラクター(一部)
[図表3]フォニックスを学ぶ様子
とはいえ、これらのフォニックスのキャラクターを作り出す際には、産みの苦しみがありました。言ってみれば、どれもこじつけ名ですが、音感が良く、絵になり、性格にもつながるキャラクター名を作るのは、想像力のいる作業。振り返れば楽しかったと笑えますが、当時、これを作ったカリキュラム担当者たちは、毎日悲鳴を上げていました。
アルファベットをまだ教えていない0〜2歳の子どもたちには、曲を作って歌いながらフォニックスが覚えられる工夫もしました。すべてのキャラクターが自分の頭文字の声を発するという設定で「♪アングリーアップル“ア、ア、ア”」というシンプルな歌詞を覚えやすいメロディに乗せました。
歌詞もメロディも講師陣が作ったオリジナルですが、実に覚えやすいのです。私たち大人でさえ、英語を見て覚えられなくても、歌であれば自然と口をついて出ている、ということがあります。言葉を覚える段階で音楽の力を借りない手はありません。
[図表4]フォニックスを覚えるための音楽CD
Angry Apple
Angry Apple,a a a a a a a a
a,a,a,a,a,a,
Angry at the ants,
Angry at the alligators,
a,a,a,a,a,a,
音楽に合わせた歌詞が「Z」の「Zippy Zebra」まで続く
「フォニックスのルール」はオリジナルカードで学ぶ
フォニックスの26音を身に付けたあとに学ぶのは「フォニックスのルール」です。フォニックスにはいくつかのルールがあります。基本的な英語の読み方はフォニックスによりますが、重なると違う音になったり、無声音になったり、さまざまなルールがあることが分かります。ネイティブの子どもたちもこのフォニックスのルールを学ぶのですが、日本人にはとても難しく感じます。複数あるうえに慣れない英語、という点が理解を遠ざけるのでしょう。
しかし、このフォニックスさえ身に付けてしまえば、日本語のようにカタカナや漢字はありませんから、その後に読み・書きについて学ぶ必要はほとんどなくなります。最初にして最大の山場ではありますが、頑張って登り切ってしまえば、視界は一気に広がります。
とはいえ、こうしたルールは文章になると「母音」「子音」などの言葉とともに説明されるので大人でも戸惑います。大人に説明するように、まだ日本語もおぼつかない幼児に教えるのは不可能なので、私たちはオリジナルの「フォニックスカード」や「フォニックスBOOK」を使って教えています。
例えば代表的なフォニックスのルールに「単語の間に“i”が入り、終わりに“e”がくる単語は、最後の“e”を発音しない」というものがあります。
このルールを覚えるために、私の英語保育園では一つのストーリーを作りました。
主人公は「Mrs. I from island」(アイランドに住むミセス・アイです)。彼女は電気に注意深く、単語の終わりに電気「electric」の“e”がつくと、必ず自分の名前を呼んで電気を消します(図表5)。こじつけですが、子どもたちはこのストーリーで「単語の間に“i”が入り、終わりに“e”がくる単語は、最後の“e”を発音しない」ことを学びます。
フォニックスルールを一つ理解したら、その法則と同じ単語を次から次へ教えます。この場合なら、“rice”“ice”“price”などがそれですが、キーワードの“i”と“e”だけを残して空白の部分をどんどん埋めてもらいます。
[図表5]フォニックスの代表的な“ie”ルール
キャラクターを駆使してフォニックスルールを学ぶ
また、前述したフォニックスルールをキャラクターを使ったショートストーリーで教えるケースもあります。
例えば、「O」が2回続いたときは「ウー」と発音する、というフォニックスのルールはこのように説明します。
双子のオレンジオクトパスさんはボウルに入ったフルーツを見つけました。
「ちょっと待って!フルーツの中に魚が入ってるよ⁉ウー!!!ヤック!(ウエッ)」とキャラクターを使って楽しくルールを教えるとともに「spoon」「boot」「zoo」など同じルールを持つ言葉も教えるのです。
これが非常に大事なポイントです。
一つのフォニックスルールに基づいて同じルールの単語をどんどん提示することで、子どもたちに強い印象を残し、他の単語も同時に覚えていくというメカニズムです。
[図表6]キャラクターで学ぶフォニックスルール
このように、キャラクター自身がフォニックスルールになっている場合以外にも、キャラクター同士が絡み合うことでストーリーが生まれ、そこからフォニックスルールを説明しているパターンもあります。
こうしたステップで、子どもたちはストレスなく、フォニックスとそのルールを身に付けていきます。なにしろ、毎日それらを遊びのなかで学ぶのですから、気づいたら身に付いているのは当たり前といえば当たり前です。
また、それぞれのキャラクターは各クラスのシンボルにもなっています。子どもたちはキャラクターに愛着を持つと同時に、自然とフォニックスのルールを覚えていくのですが、これもまた、フォニックスを身に付ける工夫の一つです。
こうしてフォニックスルールを覚えた子どもたちは、講師が発音した単語をそのままスペルに落とすことができるようになります。
例えば先生が「『プリンセス』と書いてみて」と言うと、その単語を見たことがないのに「princess」と書けるのです。大人でもプリンセスの最後のsが「ss」になると忘れてしまう場合もあります。それを子どもたちは聞いただけで文字化できる、その事実に保護者は驚きます。
このフォニックスのルールを身に付ければ、中学生になってより多くの単語を覚える際にも、それほど難しいことではなくなります。
中山 貴美子
株式会社キンダーキッズ 代表取締役