起業から1年で「6割」の会社が資金調達に失敗、撤退に
“一国一城の主”を目指し、独立開業したもののあえなく1年で倒産――そんなケースは決して珍しくありません。
会社が生き残る率、つまり会社生存率に関する中小企業庁のデータを見ると、創業から1年後に約3割の会社・個人事業主が廃業するといわれています。また、3~5年間のスパンで見ても、生き残っているのは全体の40~60%。数年内で約半分の会社が撤退を余儀なくされているのです。
その筆頭に挙げられる理由が、仕事が軌道に乗るまでの時期を乗り越えられないことにあります。
『中小企業白書・小規模企業白書』(2017年版)の調査結果によると、会社の「成長段階ごとの課題」として創業期に1位につけているのが「資金調達」で60%。創業から2~3年の成長初期においても、約半数の会社が「資金調達」を一番の課題に挙げています。
一方で、「創業期に利用したかった資金調達法」で「民間金融機関からの借入れ」(48.8%)が1位に挙げられているのに対し、実際に「利用した資金調達方法」を見ると、「経営者本人の自己資金」が80.2%と大多数を占めています。
加えて、『中小企業における資金調達の実態』(みずほ総合研究所2016年)を見ると、約4割の中小企業が資金調達の方法として「公的金融機関からの借入れ」、とくに「事業性を評価した担保・保証によらない借入れ」を希望しているのに対し、実際に「担保・保証によらない借入れ」の実績がある企業は約2割。とくに規模の小さい企業において希望と実態とのかい離が拡大する傾向が見られます。
ここで、株式会社東京商工リサーチの調査結果を取りまとめた中小企業の「原因別倒産状況」(中小企業庁)に着目すると、直近6年の調査で一貫して倒産理由の1位に挙げられているのが「販売不振」です。
つまり、借りたくても借りられない。金融機関の融資制度を上手く活用できていない。なんとか自己資金で開業にこぎつけても、想定よりも売上が上がらない。こうして、資金繰りがたちまち苦しくなり、破たんに追い込まれてしまう・・・。
創業1~2年で極力借入れ、経営の好循環の仕組みを作る
近年、大企業の業績回復基調が見られるなか、中小企業においては依然、厳しい状況に置かれている実態が見えてきます。
机上のデータだけでなく、実際、資金調達アドバイザーである私の周囲でも、起業後、経営がうまくいかず、自ら銀行に融資を申し込んだもののあえなく断られてしまったという話をよく耳にします。自転車操業もままならなくなり、私の元に相談に見えた方のなかにも、既に手遅れというケースも少なくありません。
「お金がないから借りたい」「資金繰りが苦しいから、助けてほしい」。
それが会社トップの偽らざる本音でしょう。しかし現実はときに非情なものです。
「銀行は晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を奪う」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。晴れの日、つまり会社の業績がよいときは傘(お金)を貸してくれるが、雨の日、つまり業績が悪化すると途端に貸し渋りに遭い、残債の返済を迫られる。そんな銀行の融資に対する姿勢を揶揄した言葉です。
もちろん、近年ではムリに返済を迫るようなあからさまな貸し剝がしは少なくなっています。それでも、「雨の日に喜んで傘を貸してくれる」金融機関はまず存在しないと言っていいでしょう。
銀行とてビジネスです。傾きかけている、つまり回収不能リスクが高い会社に喜んで融資をしてくれるほど甘くはありません。
ではどうするか。端的にいえば「雨の日に貸してもらえないなら、晴れの日に借りるしかない」。
雨が降る前に、あらかじめ傘を借りておくわけです。
つまり、多くの会社にとって資金調達が最大の課題となる創業1~2年の間に、なるべく多くの借入れをして手元資金を増やしておき、切羽詰まる前に余剰資金を元手に資金繰りに追われることなく、売上アップに注力できる仕組みをなるべく早く作ることこそが肝要なのです。
8200万円。
これは、創業から3年目を迎え、3年間で私が金融機関から調達した融資額の合計です。
ちなみに、融資タイミングと金額の内訳を簡単に記しますと、
【1期目】
●2015年12月会社設立
●2016年1月800万円(公庫)創業1カ月目
【2期目】
●2017年4月1000万円(公庫)創業15カ月目
※1期目の決算書提出後すぐ
●2017年7月500万円(三井住友銀行)創業18カ月目
●2017年9月50万円(興産信用金庫)創業20カ月目
【3期目】
●2017年12月2000万円(公庫)創業25カ月目
●2017年12月500万円(興産信用金庫)創業25カ月目
●2018年2月350万円(西武信用金庫)創業27カ月目
●2018年6月500万円(巣鴨信用金庫)創業31カ月目
●2018年6月2500万円(東日本銀行)創業31カ月目
となります。
「そんなに借りてどうするの?」「多額の借金を抱えて財務基盤は大丈夫なのか?」と思う方もいることでしょう。
しかし、返済は順調に行われていますし、資金を元手に必要な投資をしていくことで、利益は返済額を上回る水準を達成しています。お金に困って借入れをしているわけではないので、調達した資金を使い果たすこともなく、手元には常に数千万円の現預金が蓄積されています。
できるだけの備えをし、手元の現預金を厚くすること
こうして余剰資金を蓄えておけば新しい事業を始めたいときも、“思い立ったが吉日”で、チャンスを逃すことなくスタートできますし、オフィスや給与水準などの雇用環境も整備できます。将来的な売上を担う良い人材の獲得も実現します。
新たな集客やマーケティングの施策も、思い切ってチャレンジすることができます。
何より資金繰りに追われることもなく、気持ちの余裕があるのは大きなポイントです。目先の数字に捉われることなく、やるべき事業に注力でき、本当に必要な投資の見極めも冷静にできます。
「融資によって余剰資金が生まれる→投資ができる→売上・利益につながる→さらに融資を受けやすくなる」といった、事業における好循環を、身を持って感じています。
しかし、最初から私が恵まれた状況にいたかというと、そうではありません。会社を立ち上げた時点では社員は2人、資本金400万円。創業1年目は年商2500万円の売上が立ったことで、一期目はなんとか50万円程度の黒字を達成できましたが、元々は「1000万円の売上が達成できればなんとかなるかな」という手堅い事業プランの元、会社立上げと同時に800万円の融資を引っ張ることができました。
この創業融資に成功していなかったら、気持ちの余裕もお金の余裕もないまま、人材の獲得や新しいサイトの立上げにも積極的に取り組むことができず、今の成長はなかったと思います。
繰り返しになりますが、創業してすぐ800万円の融資を受けたからこそ今があると思います。創業してすぐ借りるというのが本当に大切なことなのです。
会社が潰れる第一の理由は「資金がなくなること」です。会社が倒産するのは「借金が多い」からではなく、「現預金がない」からなのです。つまり大事なのは、できるだけの備えをして、手元の現預金を厚くすること。
そして、手元に余剰資金を持つことで、より有利な条件で借入れをしていき、経営、財務基盤を安定させることなのです。
傾向と対策を知り、備えれば誰でも融資はクリアできる
融資の具体的なノウハウはこれから解説していきますが、目指すロードマップのポイントは大きく2つあります。
① 経営が苦しくなる前の創業時に早めに手を打つ。
② 創業1~2年の間に二~三行以上の金融機関と付き合う。
そのためには、待ちの姿勢ではなく、創業前からの相応の準備、さらに創業後も気を抜くことなく、2~3年目に向けた戦略、備えが必須です。
私が多額の融資に成功したのは、決してレアケースではありません。お客様の成功事例を見ても、傾向と対策をしっかり練り、準備さえすれば、融資のハードルは決して高いものではありません。金融機関が“貸したくなる”条件とタイミングを知り、そこに向けた備えさえしっかりしていれば、誰でも資金調達は可能なのです。
次回から、「創業前」「創業直後」「創業1年」「創業2年」という時系列に区切り、成長ステージに合わせた融資を受けるコツについて解説していきます。