建物の価格決定には「減価償却」の考え方が適用される
前回は、土地を売却する時、依頼された業者がどのようにしてその価格を決定するかについて解説しましたが(関連記事『不動産の価格査定…なぜ業者によってバラバラなのか?』参照)、今回は建物の価格をどのようにして決めるのか見ていきましょう。
建物は減価償却の考え方で減価修正というものを行います。減価償却とは新築のときが最も価値が高く、年を経るごとに少しずつ価値が下がっていくという考え方です。
建物にはそれぞれ構造や用途に応じて、法定耐用年数が決まっています。しかし、取引実務では、法定耐用年数ではなく、経済的に有効に使用できる年数を経済的耐用年数として判定します。
例えば、木造の居住用建物だと取引市場では経済的耐用年数は20年から25年程度とみられています。つまり、新築から10年程度経つと評価は約半分になり、20年から25年経つとゼロとされる取引慣行です。
国土交通省は、これが中古住宅流通市場活性化の阻害要因とみて、良質な維持管理やリフォームが適切に評価されるよう「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」を示しています。
なお、建物価格の査定価格も新築想定価格をいくらと判断するか経済的耐用年数を何年とみるかによって異なってきます。建物の評価は、対象建物の再調達原価(新築想定価格)を求め、これに現価率に基づく減価修正を行って求めます。
現価率は「経年減価」と「観察減価」を併用して求めます。「経年減価」は、時の経過による減価を建物建築後の経過年数と、今後の経済的残存耐用年数とに基づき、客観的に把握しようとするものです。
経年減価は機械的なものですが、個々の建物の経年減価だけでは判明しない減価要素を、建物を観察して査定に反映することを「観察減価」といいます。観察減価を特に考慮すべきなのは、特殊な建築物で経済的価値の下落が経年以上に大きい場合、保守管理が悪いことなどによって多大な補修費用がかかる場合、建物の所在場所の多湿等の自然的条件により経済的耐用年数の到来時期が早まると予測される場合などです。
実際の計算式としては図表1のようになります。
[図表1]建物評価の算出方法
収益物件には「収益還元法」が適用される
建物がアパートやマンションなどの収益物件の場合は、収益還元法という方法によって収益価格を求めます。賃料等から修繕費、固定資産税、損害保険料等の必要な諸経費を控除して求めた純収益を還元利回りで資本還元して、収益価格を算出します。
還元利回りとは、通常の投資家なら、いくらの利回りなら投資するであろうという利回りですが、不動産の用途、地域、品等によって異なるので、対象不動産の状況に応じて適切に求めることが必要です。
例えば、賃貸物件でも飲食店舗は、住居や事務所より管理が難しいし、都心にある賃貸物件より地方のもののほうが空室リスクは高いし、新しい建物より古い建物のほうが維持管理費はかかり、リスクが高いといえます。
要するにリスクが高い物件は、利回りが高くないと買う人がいないので、利回りは高くなるということです。
計算式は図表2を参考にしてください。
[図表2]収益価格の算出方法
図の式からもわかるように、収益価格は、還元利回りをいくらとみるかによって、大きく異なります。利回りを低くみると収益価格は高くなります。
例えば、年間の賃料収入が1000万円で諸経費に200万円かかり、純収益が800万である賃貸アパートの収益価格は、利回りを7%とみると約1億1400万円となり利回りを5%とみると1億6000万円となります。現在のように定期預金の金利が1%を大幅に割るような低金利時代には、不動産投資の利回りが低くても数%となるため金融商品より高くなります。
そこで、不動産投資には価格変動や空室のリスクがあり手間もかかるものの、投資資金が向かうようになっています。
不動産投資家の期待利回りについても、日本不動産研究所(www.reinet.or.jp/)の不動産投資家調査によると、平成20年10月の調査では、東京(城南地区)ワンルームタイプ賃貸住宅一棟の利回りは5.5%でしたが、平成29年4月の調査では、4.5%となっています。金融緩和の影響により投資が活況となり、ビジネスホテルの利回りについては、平成20年10月の調査では5.7%であったものが、平成29年4月の調査では4.7%となっています。
土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役 不動産鑑定士