不動産の「共有状態」を放置すると、多くの問題が…
理由③ 共有状態の解消:処分に共有者全員の同意が必要な不動産の売却
不動産は共有状態のままでいると、多くの問題が起こり得ます。例えば、4人で土地を所有している場合、それぞれの所有権は「持分」という割合で決まっています。4人が平等に4分の1ずつ持分を所有している場合や、各人で持分に偏りがある場合などパターンは様々ですが、いずれにしても4人で全体を所有しているという状態です。
つまり、どこからどこまでがAさんの持分で、ここからここまでがBさんの持分というような物理的な線引きはされていません。このことがトラブルの元になってしまうのです。
分かりやすく言うと、土地の共有は「1ホールのケーキを丸ごと4人で持っている」ようなものです。4分の1ずつカットされていれば、自分の分を食べようと、他人に譲ろうと、捨ててしまおうと、その人の自由ですが、4人で1ホールとなると、そうはいきません。
自分は「ケーキなんかいらない。人に売ってしまいたい」と思っても、全員の合意がなくては自由にできないのです。4人の所有者のうち3人が「この土地はもう活用することができないから、売ってしまおう」と判断したとしても、残りの1人が「まだ売りたくない」と反対したら、売ることはできません。
こうしたケースでは、売りたい3人と所有を続けたい1人とで、いざこざが起こるリスクが高いのです。
このように、共有状態の不動産は、活用するにしても売却するにしても、何かにつけて全員の同意が必要となりますから、それだけ流動性が低く、活用の範囲も狭まってしまう使いにくい資産ということになります。
そこで、それを解決するための1つの選択肢として出てくるのが、売却による換金をして、お金で分割するという方法です。
不動産のまま分割するという選択肢もあるにはありますが、不動産が簡単には分けられないということを考えなければなりません。土地で言えば単純に4分の1ずつの面積で分ければいいと考えるかもしれませんが、道路に面した部分と道路から奥まった部分では、使い勝手も市場価値も変わってきてしまうので公平に分割するのが難しくなります。
何とか金額的に等分になるように計算して分けたとしても、分割の結果、土地が狭くなってしまうと価値が低くなってしまうこともあります。そういった点を踏まえると、現金にしてしまえば、価値は変わらないままいかようにも分けられますから、所有者同士で不平不満が出にくく、すっきりと片付きやすいのです。
ちなみに、このような不便な不動産の共有状態は、相続のときに生じやすくなります。なぜかと言えば、民法が共同相続を原則としているからです。また、この後で説明する⑥「離婚」でも、夫婦間の共有状態が多く見られます。
理由④ 終活:生前に自宅を引き払いたい高齢者
年々増えてきている相談として特筆すべきは「老人ホームに入るのに自宅を引き払いたい」とか「死後に面倒事を残したくないので、今のうちに不動産を整理しておきたい」といった〝終活〟に絡む相談です。
老人ホームは入院とは違って、余生をそこで過ごすために入ります。つまり、老人ホームこそが、これからの自宅であり、終の棲家となるのです。家の所有者が独居の場合は、自宅は空き家になってしまうため、引き払ってから老人ホームに入居するのが、最もスマートな終活となります。
また、老人ホームによっては、入居時にまとまった額の契約金が必要なところもありますので、その費用を自宅の売却によって用意するケースもあります。
今は一人暮らしの高齢者が増えましたから、今後もこうした終活のための自宅売却は増えていくものと予想できます。
あるいは、地方に住む高齢者の夫婦が、老後を利便性の高い場所で暮らしたいと考え、所有していた戸建ての住宅を売って、都内の駅近くの住居用マンションに買換えたケースもありますし、それとは反対に東京で所有している戸建てを売り、地方に帰って静かに暮らすというケースもありました。
また、終活関連で近年増えているのが、後見人や保佐人などの代理人による不動産の売却相談です。本人が認知症や知的障害などで、判断能力を欠いていたり、著しく不十分だったりする場合、本人に代わって資産の管理を行う後見人や保佐人(www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html)がいます。
例えば、代理権を付与された保佐人から本人(高齢の女性)の介護費用が足りないので、本人所有の賃貸アパートを売却したいとの相談を受けたこともあります。
やや広めの自宅敷地があって、自宅の横に古いアパートが建っていたのですが、息子がアパートを勝手に民泊に使って小遣い稼ぎをしていたことが判明しました。このケースでは強制執行で息子を排除してアパートは無事売却できたのですが、かれこれ3年くらいかかりました。
これは決して特殊な事例ではなく、別件で同じような相談を受けたことから、1つの典型的なパターンだと思われます。超高齢化が進む日本では、後見人や保佐人による売却相談がこれから急速に増えていくことでしょう。