成年後見の申立てにより後日のトラブルの根を絶つ
<事例6>
父親(被相続人)の法定相続人は、子である長男Aさんと次男Bさんの二人です。
Aさんは父親の生前より、父親の財産管理をしていました。また、Aさんは地方に住んでおり、父親の財産から交通費や父親の入院費用を拠出していました。父親は中度の認知症でしたが、とくに、成年後見の申立てはしていませんでした。
父親の死亡後、突然、BさんがAさんを相手取り、Aさんが財産を私的に流用したとして、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。Aさんは突然被告となったことに動揺するとともに、どのように対応すればよいのか途方に暮れるばかりでした。
この事例では、Aさんが一人で認知症の父親の介護を引き受けていました。その介護にかかった費用や、死後の葬式にかかった費用を、父親の財産から支出していたところ、横領行為であると弟であるBさんから訴えられてしまったのです。
長男は、父親の住まいからは遠く離れた場所に住んでいたため、介護に通うための交通費はかなり高額なものとなっていました。また葬儀の際に、菩提寺に支払った供養料もBさんの目には不当に高すぎると映ったようです。そうした事情がBさんから使い込みを疑われる原因となったのでしょう。
もっとも、Aさんは、支出した費用について逐一領収書を保存しており、書面に記録していたので、「自分はただ、お父さんの面倒をみてきただけだ。次男は何もしてこなかったくせに、私を犯罪者扱いするとは・・・名誉毀損だ!」と真っ向から争う構えを見せていました。
成年後見人には「財産を支出する権限」がある
この事例のように、純粋な親孝行の思いから、親の介護をしてきたような相続人の一人に対して、他の相続人が、「財産を横領した」と訴えるケースは決して少なくありません。このようなトラブルを防ぎたいのであれば、親の生前に、家庭裁判所に成年後見の申立てを行い、成年後見人に就任しておくことが望ましいでしょう。
成年後見人には成年被後見人の財産について管理処分権が認められます。つまり、介護等に必要な費用を親の財産から支出する権限があると裁判所からお墨付きを得られることになるので、あとから、親の財産を使い込んでいるなどと不当ないいがかりがなされるのを避けられるはずです。
実は、本事例でも成年後見の申立てを行うことは検討されたのですが、最終的に次男が反対して行われなかったという経緯がありました。
しかし、結果をみれば明らかなように、たとえ反対されたとしても、長男は申立てを行うべきでした。成年後見の申立ては、親族の一人だけでも行うことが可能なので、次男の同意など不要だったのです。
成年後見申立てにかかる費用は、総額で数千円程度ですが、成年後見人への報酬は月額で数万円程度必要となるでしょう。相続人の中に、申立人自身が成年後見人に就任することに抵抗を示す者がいるような場合には、弁護士に依頼するという選択肢もあります。