注目されるのは「欧州中銀政策理事会」「豪雇用統計」
アメリカ以外では、欧州中銀(ECB)政策理事会の意思決定と、オーストラリア(豪)の雇用統計は、為替相場に影響を与える要素として、為替市場から注目されていますので、ここで解説します。
欧州中銀(ECB)政策理事会とは?
欧州中銀(ECB)政策理事会は、ECBの最高意思決定機関で、原則として6週間に1度理事会を開き金融政策に関する協議を行います。
ユーロ圏19カ国の中銀総裁が理事会メンバーとして参加するため、総裁、副総裁に理事4名を加えて総勢25名の大所帯となります。そのため、協議がまとまりにくいという難点はありますが、2011年に就任したドラギ総裁は、検討段階の金融緩和策を会見で発表することで、ユーロ相場を安く誘導することに成功。そうした手法をたびたび披露したことから、市場はこれを「ドラギ・マジック」と名付けました。
ワンポイント ドラギ・マジックの具体的手法
2013年10月22日のECB理事会で、ドラギ総裁は「次回12月の理事会で、低インフレに対応するために現行の量的緩和(QE)プログラムを見直す」と発言。決定してもいない2カ月近く先の追加緩和を市場に向けて予告するという異例の手法によって、ユーロの押し下げに成功しました。
為替相場に影響を及ぼす豪雇用統計
豪雇用統計は、日本の経済指標とは逆に、為替相場に影響を及ぼす経済統計として注目されています。
豪雇用統計とは、豪統計局が発表する豪州の雇用情勢に関する統計です。失業率の低下や雇用者数の増加などで、雇用情勢が良好と判断されれば豪ドル高につながりやすく、反対に悪化は豪ドル売り材料となります。
豪中銀(RBA)は「通貨価値の安定」と「最大雇用の維持」と「経済的繁栄と人々の幸福」の3つを目的として金融政策を担うことが法律で定められています。
アメリカと同じく、「最大雇用の維持」という使命を負っているため、雇用統計が良好なら利上げ期待が浮上しやすく、悪化すれば利下げ観測につながりやすいのです。豪雇用統計に豪ドル相場が敏感に反応するのはこのためと考えられます。
ワンポイント 日本の経済指標
日本でも図表1のように数多くの経済指標が発表されますが、他国のものほど為替市場は反応しないのが実情です。
1980年代後半から1990年代前半の「日米貿易摩擦」がテーマ化していた時期や、2011年の東日本大震災後に一時貿易赤字に転落した際は、貿易収支や経常収支が注目されることもありましたが、それ以外はほとんど材料視されることはありませんでした。
[図表1]おもな日本の経済指標
為替市場が「日本の経済指標」に反応しない理由
日本の経済指標に為替市場があまり反応しない理由としては、①ゼロ金利等、低金利政策が常態化しているため、経済指標の結果によって、金融政策の変更期待が生まれにくい、②発表時刻が日本時間午前のものが多いため、欧米勢がライブで参加しにくい、③円は「安全通貨」という評価が定着しているため、経済指標の結果が良好でも買い材料にしにくい(弱い場合にも売り材料になりにくい)、といったことが考えられます。
著者は③が最大の理由ではないかと考えていますので、これについてもう少し説明していきましょう。
日本の経済指標の結果が良好ということは景気がよいということにほかなりませんが、日本の場合、景気のよさが必ずしも通貨の魅力を高めることにはなりません。景気がよい時期は金利を生まない「安全通貨」を保有するメリットが薄いためです。つまり、日本では経済指標の結果が良好というのは、他国のように通貨高要因ではなく、どちらかといえば通貨安要因になりうるのです。こうして見ると、日本の経済指標に為替市場が反応しにくいのも納得がいきます。
為替市場が日本の経済指標に反応しないのは、以上の3つがおもな理由として考えられますが、その3つに加えて、少し逆説的ですが、「日本の経済指標には市場が反応しないと市場参加者のほとんどが考えている」ということも挙げられます。