「米貿易収支」はドル買い・ドル売りの判断材料
アメリカの貿易収支は、ドルストレートの為替相場に影響を及ぼす基本的な要素です。基本的に貿易収支は赤字ですので、赤字幅が縮小するとドル買い材料となり、拡大するとドル売り材料となります。
アメリカの貿易収支は基本的に赤字
アメリカの「貿易収支」は、米商務省が毎月上旬に発表する統計で、1カ月分の輸出入金額の収支を示すものです。
輸入金額より輸出金額のほうが多ければ貿易収支が黒字、反対に輸入のほうが多ければ貿易収支が赤字となります。
消費大国のアメリカは、基本的に貿易収支が赤字です。1971年に赤字になって以降は毎年赤字で、赤字幅が拡大し続けています。赤字が縮小するとドルが買われやすく、拡大するとドルが売られやすくなります(図表1)。
[図表1]米貿易収支と為替相場の動き
アメリカの対日貿易赤字と対中貿易赤字
1980年代には、日本からの自動車・ハイテク製品の輸出によってアメリカの対日貿易赤字が増加。「日米貿易摩擦」という言葉が盛んに取り上げられて社会問題となりました。その後は、ドル安・円高の進行や日本の製造業が拠点を海外に移す動きが強まったことなどから、対日貿易赤字は増加していません。1990年代以降の対日貿易赤字は、毎年500億~800億ドルで推移しています(図表2)。
その代わりに、中国が輸出大国として台頭。2018年にはトランプ米政権と習中国政権の間で「米中貿易戦争」が勃発しました。
[図表2]アメリカの対日・対中貿易収支
ワンポイント アメリカの貿易赤字は減っていく
トランプ・アメリカ大統領は、貿易赤字の削減に強いこだわりを見せており、輸入関税の強化に動いています。ただ、そんなことをしなくてもアメリカの貿易赤字は今後減少していくものと見られます。それは、シェール革命によって2016年に解禁された原油輸出が急増しているからです。
かつては世界最大の原油輸入国だったアメリカに替わり、いまや中国が世界最大の原油輸入国になっているのです。アメリカから中国や日本への原油輸出は今後も増えると見られており、鉄鋼やアルミ製品に関税を賦課しなくてもアメリカの貿易赤字は縮小していくものと見られます。そうなると、ドルが強くなっていく可能性が高いと考えられます。
日本の金融政策を担う「日銀金融政策決定会合」
ここからは番外編としてアメリカ以外のイベントを取り上げます。日銀金融政策決定会合は、日銀の金融政策を決める会合です。黒田総裁が就任した2013年以降は、金融緩和の傾向が続いています。
日銀の金融政策を決める会合
日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の会合のうち、金融政策の運営に関する事項を審議・決定する会合を金融政策決定会合といいます(図表3)。原則として年に8回行われ、会合終了後ただちに決定内容を発表します。
[図表3]日銀金融政策決定会合とは
黒田バズーカと大胆な金融緩和
2013年に就任した黒田東彦総裁は、就任後はじめてとなる金融政策決定会合で、2%の物価目標を2年程度で実現するために、日銀が供給するマネタリーベース(日本銀行が世の中に直接的に供給するお金)を2年間で2倍にするなど大胆な金融緩和に踏み切り、円安と株高を演出しました(図表4)。
その金融政策は、威力の大きさから「黒田バズーカ」と呼ばれ、金融緩和に最も前向きな中銀総裁という評価が定着しました。そうした経緯から、毎会合後に行われる総裁会見は注目を集めています。黒田総裁が就任した2013年3月から、ドル/円相場は最大で20円以上の円安に動きました。
[図表4]日銀の金融市場調節方針の変遷
ワンポイント 黒田日銀総裁・2期目の注目点
黒田日銀総裁は2018年3月に異例の再任が決まり、2023年まで続投することになりました。日銀総裁の2期続投は1961年の山際総裁以来57年ぶりのことです。
黒田総裁が1期目の5年間で推し進めてきた「異次元緩和」をどのように終了させるのかが2期目の課題になるとの見方がもっぱらですが、「2年で達成できる」とした消費者物価の前年比上昇率2%は、いまだに達成できていません。2018年5月の消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年比で+0.7%にとどまっています。
黒田総裁の2期目は、物価目標の達成と金融緩和からの出口の板挟みで難しい舵取りを迫られることになりそうです。
神田 卓也
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長