個人消費のバロメーター「米住宅着工件数」
米住宅着工件数は、アメリカで該当月に建設が開始された新築住宅件数の年率換算値を表す経済指標です。個人消費への波及が大きいという点で、アメリカ景気のバロメーターの1つとして注目されています。
米住宅着工件数はアメリカ景気のバロメーター
「米住宅着工件数」は、米商務省が毎月中下旬に発表する統計で、文字通り、建設に着手した住宅の戸数を年率換算(このペースで推移すれば1年間で何件になるかを換算した戸数)したものが発表されます(図表1)。
この場合の住宅には、一戸建てと集合住宅が対象で、公共住宅は含まれていません。一戸建てが全体の約8割を占めています。
住宅投資そのものがGDPに占めるウェートはそれほど大きくありませんが、家具や家電等の購入を伴うケースが多いため、個人消費への波及が大きいという点で、アメリカ景気のバロメーターの1つとして注目されます。
[図表1]米住宅着工件数とは
米住宅着工件数と為替市場の関係は?
「米住宅着工件数」は、予想以上に着工件数が多ければドル高に、少なければドル売りにつながる傾向があります(図表2)。また、1戸あたりの金額が大きいことや、天候に左右されやすいこともあって、月によってばらつきが大きいのが特徴です。
そのほか、アメリカの住宅市場関連の経済指標として、「新築住宅販売件数」や「中古住宅販売件数」なども注目されます。
[図表2]米住宅着工件数と為替相場の動き
サブプライムローン問題からリーマン・ショックへ
アメリカの住宅市場といえば、思い出すのはサブプライムローン問題でしょう。2000年代前半のアメリカでは、低金利を背景に住宅投資ブームが起きました。そうした中、信用力が低い層(サブプライム層)にも比較的高い金利で住宅ローンを貸し付ける動きが盛んとなり、住宅ブームが一気に加速します。
ところが、いざ住宅価格が下落に転じると、この住宅ローンに焦げ付きが相次ぎ、いわゆる「不良債権」と化します。米金融機関が世界中に販売していた「住宅ローン担保証券(MBS)」にこのサブプライムローンが組み込まれていたことから、アメリカの住宅バブル崩壊の影響が世界中に広がりました。こうした動きが最終的に2008年秋の「リーマン・ショック」へと繋がり、世界的な金融危機に発展したのです。なお、2008年8月に110円台だったドル/円相場は、この騒動によって大幅なドル安・円高が進行し、同年12月には87円台まで下落しました。
ワンポイント 「不良債権」とは?
不良債権とは、回収困難な債権のことです。たとえば、銀行が企業に貸している事業資金のうち、企業の経営状況が悪化したり、倒産したりして、返してもらうことが困難になる可能性が高い貸付金のことを指します。
アメリカの消費者マインドを測る「米消費者信頼感指数」
米消費者信頼感指数は、アメリカ人の消費者マインドを指数化した経済指標です。1985年時点の景況感=100として指数化されています。この指数が上昇すれば、ドルが買われやすくなります。
消費者信頼感指数とは何か?
「米消費者信頼感指数」とは、アメリカの民間調査機関であるコンファレンスボードが毎月末に発表する、消費者の意識調査に基づいた消費者マインドを指数化した経済指標です(図表3)。
消費者マインドというのは、消費者の支出に関する意識のことです。さまざまな要因が影響すると考えられていますが、「米消費者信頼感指数」の調査では、経済、雇用、所得の景況感(以前と比べて好転/悪化/停滞)について調査しています。5000人の消費者に対して、現在の景況感がどうであるか、6カ月後の景況感がどうなっていると思うかについてアンケート調査を行い、その結果を、1985年時点の景況感=100として指数化し、発表します。消費者信頼感指数が1985年を基準年にしているのは、アメリカでは1985年が、景況感の頂点でも底でもない、ちょうど中間地点の年だとみなされているからです。
[図表3]米消費者信頼感指数とは
米消費者信頼感指数と為替相場の関係は?
参考までに、2018年3月に発表された「米消費者信頼感指数」は127.7、4月は128.7でした。この指数が上昇すれば消費者の購買意欲が高まったと見なされてドルが買われやすくなります。
アメリカの個人消費はGDPの7割を占めるだけに、消費者マインドの変化を示す統計は景気敏感指標として重要視される傾向にあります。
同様の指標としてミシガン大学が調査を行う「消費者信頼感指数」があります。ただし、こちらはサンプル数が500人と少ないことから、注目度はやや落ちます。
[図表4]米消費者信頼感指数と為替相場の動き
ワンポイント 「織り込み済み」とは?
経済指標が発表された後のニュースでは、よく、「織り込み済み」というフレーズを耳にします。これはどういう意味でしょうか?
銀行などの金融機関やシンクタンク、情報サービス会社は、経済指標が発表される前に、その数値がどれぐらいになりそうか、予想を発表していて、市場参加者はその予想に基づいて売買をしています。これを専門用語で「織り込む」といいます。「織り込み済み」というのは、すでにその数値に基づいた売買がひととおり終えられた、ということです。経済指標の発表値が前月比、前年比と比べて大きく変化していたとしても、織り込み済みの場合は、発表後にそれほど大きく為替相場が動くことはありません。
逆に、実際に発表された数値と予想値に差があることを、「ギャップがある」といいます。ギャップが大きいときは、為替相場の変動が大きくなることがあります。