為替相場の関心が高い「米雇用統計」
米雇用統計とは?
「米雇用統計」とは、アメリカの雇用情勢をレポートする経済指標です。おもな項目は、「非農業部門雇用者」の前月比増減数、「失業率」、「労働参加率」、「時間あたり平均賃金」、「週平均労働時間」などですが、「非農業部門雇用者数」と「失業率」は特に注目されます(図表1参照)。
原則として、アメリカ労働省が、毎月第1金曜日の日本時間21時半(アメリカ冬時間は22時半)に発表します。
[図表1]米雇用統計の調査項目
数値は「予想と比べてどうだったか」が大事
「米雇用統計」は、前月の調査結果を第1金曜日に発表するという「速報性」と、米連邦公開市場委員会(FOMC)の金融政策決定に大きな影響を与えるという「テーマ性」から、為替市場の関心が極めて高い経済統計です(図表2参照)。その分、雇用統計に対する市場の反応も大きくなりがちです。
[図表2]米雇用統計と為替相場の動き
統計の数値は、予想と比較してどうだったか、という見方をされます。「非農業部門雇用者数」は、予想以上に増えていれば雇用情勢が良好との見方からドルが買われる一方、予想に届かなければドルが売られやすくなります。「失業率」については、予想を上回れば悪化したことになるためドル売り材料になりやすく、予想を下回ればドル買いにつながりやすくなります。
なお、2016年頃からは、アメリカの中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)がどれくらいのペースで利上げを行うかを考える上で、「時間当たり平均賃金」にも注目が集まるようになっています。
米雇用統計はなぜ、為替関係者から注目されるのか?
「米雇用統計」がこれほど注目される理由は、FRBが金融政策を決定するうえで、雇用情勢を重視しているためです。
多くの先進国では中央銀行の役割は物価の管理だけですが、FRBは「物価安定」と「雇用最大化」を責務として負っています。したがって、雇用統計が良好なら金融引き締め(利上げ)観測につながりやすく、反対に悪化すれば金融緩和(利下げ)観測につながりやすいのです。
アメリカの金融政策を決定・・・「米連邦公開市場委員会」
FOMCはアメリカの金融政策を決定する機関
FOMC(米連邦公開市場委員会)は経済指標ではありませんが、為替相場への影響が大きいので、ここで取り上げます。FOMCは、アメリカの金融政策を決める最高意思決定機関です。FRB理事7名と地区ごとの連銀総裁12名の最大19人のメンバーで構成されます。このうちFOMCで投票権を持つのは最大12名で、FRB理事と副委員長を務めるNY連銀総裁は常任です。残り4名はNY連銀を除く11の地区連銀の中から1年ごとに輪番交代で投票権が与えられます(図表3参照)。会合はワシントンで開かれます。
決定事項を盛り込んだ声明の発表時間は、日本時間午前3時(アメリカ冬時間は午前4時)。3月、6月、9月、12月の会合では、メンバーによる経済見通しと政策金利見通しも同時に公表されるほか、会合終了後にはFRB議長の記者会見が行われるため、さらに注目度が増します。
[図表3]FOMC(米連邦公開市場委員会)の開催日と決定事項
利上げはドル買い、利下げはドル売り
基本的に、利上げや近い将来の利上げを示唆した場合はドルが買われる一方、利下げや利下げの示唆はドル売り材料となることが多いです(図表4参照)。ただ、FOMCは「市場との対話」を重視しており、とくに利上げの場合は事前に十分な示唆を市場に与えるケースがほとんどです。結果的に、利上げしてもドルが買われず、むしろ「材料出尽くし」で売られてしまうことも珍しくありません。なお、FOMCは開催から3週間後には議事録が公表されます。声明ではうかがえなかった議論の内容などが明らかになるケースも散見されており、こちらも為替相場を動かす場面がしばしば見られます。
[図表4]FOMCの発表と為替相場の動き
ワンポイント FOMCの臨時会合とは?
FOMCは年8回のスケジュールがあらかじめ決まっていますが(図表3参照)、不測の事態が起きた場合には臨時会合を開催して金融政策を変更します。2008年1月には、定例会合の8日前というタイミングで臨時会合を開き、緊急利下げを行いました。この年はリーマン・ショックと呼ばれる金融危機が起きた年で、景気の悪化を防ぐために10月にも緊急利下げを行いました。なお、この緊急利下げの5日前に発表された米9月雇用統計は、非農業部門の雇用者が前月比で15.9万人も減少していました。
[図表5]2018年のFOMC開催日程