「投機」対象の感が否めない仮想通貨だが…
ここ数年、新たな投資対象として、ビットコインをはじめとする仮想通貨(Cryptocurrency:暗号化技術が使われているため、仮想通貨よりも暗号通貨と呼んだほうが正確)が注目されています。
仮想通貨の将来性についてはまだ不透明なところがあり、投資対象というよりも投機対象の感が否めませんが、一部の米国エンダウメントではすでに投資を開始したようです。今回は、エンダウメントが仮想通貨の運用をする背景について考えていきましょう。
仮想通貨は紙幣や硬貨のような物質的な形はありません。「通貨」と呼ばれてはいますが、あくまでデータの一形態であり、偽造や複製ができないよう、複雑な技術により安全性や流動性が担保されているものです。紙幣の代わりに、当該データで支払いや送金を行うといったイメージです。
円やドルといった法定通貨は、日本やアメリカなどの中央銀行が発行し、価値を保証しています。しかし、仮想通貨には管理者がおらず、民間によって通貨の発行や管理の仕組みが運営されています。したがって、対現実通貨との価値は、当該仮想通貨の需給関係により日々変動しています。ビットコインを例にあげると、1ビットコイン=100万円になるときもあれば、50万円になるときもあり、その価格は常に変動しています(2018年10月15日時点の価格は、1ビットコイン=約70万円)。
ビットコインは値動きが大きく、状況によっては大きな収益を生む可能性があることから、一部の投資家は仮想通貨を投資(もしくは投機)対象として運用しているのです。
学生の「IT・FinTech知識」習得の機会としても期待
報道によれば、仮想通貨または仮想通貨を投資対象とした運用プロジェクトに参加するエンダウメントは、イェール大学、ハーバード、スタンフォード、ダートマス、ノースカロライナといった数兆円規模の運用資産を保有するエンダウメントとなっています。
こうしたエンダウメントは、運用資産の6割から7割をオルタナティブ投資に配分して、運用リターンを極大化する戦略を採用しています。ビットコインは、オルタナティブ投資のなかでも、さらに代替的な投資対象として位置づけられるでしょう。意外なのですが、最近のビットコインのリスク値(標準偏差)は年ベースで7%程度に収束しています。かつて価格が乱高下していたイメージからすると意外性があります(直近5年で最も高かったリスク値は年間50%程度)。
こうした純粋なオルタナティブ投資への対象としてのほかに、学生に対する教育面でのメリットも考えられているようです。仮想通貨は公開鍵暗号、ハッシュ関数等といった高度な暗号化技術を利用するため、仮想通貨の偽造や二重払いといった通貨の基本的な問題を回避できるように設計され、ブロックチェーンに適用することでデータ(仮想通貨)の真正性も担保しています。こうしたITやFinTech技術に関わる知識を学生に学ばせることで、他大学と学術面での差別化を図りたいという意図も見受けられます。
リスク資産の出し手として資産運用業界のなかでも評価の高い米国エンダウメントですが、大手機関投資家に先駆けて仮想通貨の運用を開始した彼らの投資戦略には、一日の長があるといえるでしょう。
太田 創
株式会社GCIアセット・マネジメント
エクゼクティブ・マネジャー(投資信託ビジネス担当)