そもそも「返礼品の送付」は自治体の義務ではない
本来の趣旨に鑑みて正しく運用されたならば、とても意義がある「ふるさと納税制度」。しかし現実は、自治体による過激な「返礼品競争」により、一般生活者にとっては「お得な買い物競争」になりつつあります。
いくつかの誤解を含みながらやや想定外の方向に過熱し、年々その規模を拡大している現在のふるさと納税。今回は、その問題点について見ていきましょう。
よくも悪くも一番注目されているのが、寄附した自治体からもらえる返礼品です。そもそも、返礼品を送ることは自治体の義務ではないのですが、自らの自治体への寄附を増やそうと、趣向をこらした特産品を「寄附のお礼」として寄附者に送る(贈る)のが当たり前となりました。
残念なことに、自治体職員の中には「寄附をもらって返礼品を返すことがふるさと納税の制度だ。返礼品のない寄附はふるさと納税でない」と誤解している方もいます。
自治体職員ですら誤解するこの制度、一般生活者としては「わずか2,000円の自己負担で各地の特産品が楽しめ、生活費も節約できるなら利用しない手はない」と思うのも無理はないでしょう。
ギフトカタログと見まごう「納税ポータルサイト」も
その誤解の原因のひとつが、多くのふるさと納税ポータルサイトの便利な機能かもしれません。
例えば、ふるさと納税ポータルサイトでは、寄附先を返礼品から選ぶのが主導線になっています。寄附金額別に返礼品を絞り込むことができ、品物のカテゴリ別に人気ランキングを見ることもできます。人気があるのはお肉やお米、海産物やお酒などで、このような機能を利用してサイトを眺めていると、まるで高級ネットショップやギフトカタログを見ているかのような錯覚に陥ります。
また、本来のふるさと納税制度が予期していなかった、「還元率」という言葉も作られました。ポータルサイトの中には独自に還元率を計算し、ランキングを掲載している場合もあります(総務省は「返礼割合」という言葉を使っています)。
還元率というのは、例えば10,000円を寄附した場合に3,000円相当のお礼がもらえれば30%と考えるものですが、寄附をする個人としては、還元率が高ければ高いほど「コストパフォーマンスがよい」ということになり、それだけお得感があります。
こういったポータルサイトの機能はユーザーの使いやすさを追い求めた結果だとは思いますが、誤解を広めている側面があることは否めないでしょう。
[図表]各ポータルサイトでは返礼品のランキングが見やすく並ぶ
寄附金の行き先に無関心(?)な納税者
こういった「返礼品競争」が引き起こす弊害はいくつかあります。
一つ目は、高所得者ほど減税幅が大きくなり「節税対策」として使われることです。
本来、福祉や子育て、地域活性化支援などに使われるはずだった税財源が、高所得者へ届けられる返礼品に変わってしまう結果も生みかねません。寄附先の自治体にとっては、事業に使える財源は残るため良いのですが、元々住民税が納められるはずだった住所地の財源が、個人の利益に置き換わっているという負の側面を見逃してはいけません。
二つ目に、返礼品目的で寄附先を選んだ人は、「寄附が何に使われるか」どころか「寄附金がどの自治体に行くのか」すら関心がないということです。
こういった寄附者は、他の自治体でより良い還元率で牛肉や海産物が出たら、そちらにシフトします。このような寄附は、ふるさと納税の第二の意義である「ふるさと」の応援にはつながらないのです。
さらに還元率を競った場合、還元率が高いほど自治体に残るお金は少なくなり、寄附を活用して地域を活性化するという趣旨に反します。また、特産品業者だけが潤ってしまうという偏った構造になる懸念もありますし、特産品を提供する地元業者と自治体との癒着を指摘する声もあります。
ある街づくり専門家は、「返礼品頼みのふるさと納税は、財源のほしい自治体にとって麻薬のようなもの。業者も返礼品を買い集めてくれる役所に依存する。地方経済のためにならない」と話しています。