ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットに代表される世界の富裕層の多くは、自らの資産を活用して「財団」等を立ち上げ、社会問題の解決に挑むなど、積極的な社会貢献活動を行っています。日本ではまだあまり浸透していない社会貢献活動の可能性について、ファンドレイジングアドバイザーの肩書きを持つ宮本聡氏が解説します。今回は、社会貢献の方向へシフトしつつある「ふるさと納税制度」の現状と今後の展望を考察します。

支援目的&返礼品なしで「ふるさと納税」を集めた事例も

各自治体が返礼品を競い合うことで市場が急成長しているふるさと納税。これまで数回に分けて、ふるさと納税の現状や問題点についてお伝えしてきました。総務省は過熱する返礼品競争を問題視し、制度の見直しに動いていますが、一方で、寄附を募る自治体や寄附者の行動にも徐々に変化が現れてきています。

 

ふるさと納税は、寄附先の自治体を寄附者が選べるだけではなく、自治体によっては、寄附金の「使い道」を寄附者が選べる制度でもあります。総務省が公表している「ふるさと納税に関する現況調査結果(平成29年度実績)」によれば、ふるさと納税を募集する際の使途(ふるさと納税を財源として実施する事業等)を「選択できる」と回答した自治体は、平成29年度実績で1,690団体(全自治体の94.5%)と前年度の1,649団体(92.2%)よりも増加しています。そのうち、分野を選択できる自治体は1,609団体(前年度比22団体増)ですが、より具体的な事業を選択できる自治体も255団体(前年度比55団体増)に増えています。

 

さらにこの調査では、『ふるさと納税の使い途を明確化する取組や寄附者とのつながりを重視した取組の例』や『地域資源を活用するなど地域活性化に取り組む市区町村の例』として、熊本県熊本市の「熊本地震被災者の暮らしの再建や復興事業の推進などに活用する事業」や北海道上士幌町の「地域の特産品のPR事業」など計12の自治体の事業を写真付きで紹介しています。また、総務省は2018年3月30日に、ふるさと納税の使途や成果を明確化する取り組みや、寄附者と継続的なつながりを持つ取り組みの好事例をとりまとめた「ふるさと納税活用事例集」を公表しています。

 

[図表1]使い途を明確化する取組みや、寄附者とのつながりを重視した取組みの例

 

この事例集は全80ページにも及ぶボリュームで、企業版ふるさと納税6事例も含めた66もの事例を紹介していますが、中でも注目したいのは、返礼品の送付なしでふるさと納税を集めた「こどもたちに本を贈ろうプロジェクト」(京都府長岡京市)、そして「命をつなぐ『こども宅食』でこどもと家族を救いたい」(東京都文京区)の事例です。このような事例からも、ふるさと納税が単なる返礼品がもらえるお得な制度に留まらず、つながりや共感を呼ぶ方向へシフトしつつあることがうかがえます。

 

また、総務省ではこの他にも、「地域おこし協力隊クラウドファンディング」「ふるさと起業家支援プロジェクト」「ふるさと移住交流促進プロジェクト」として、全国の地方自治体で活躍する地域おこし協力隊員、起業家、移住者の活動を支援するためにふるさと納税を活用する「クラウドファンディング型のふるさと納税」に取り組む地方自治体を後押ししています。

 

このような制度を活用することにより、地域で活動する個人や事業者は地域の内外から事業のための資金を調達することがしやすくなり、また、寄附者としてもより具体的な活動を支援することができます。まだ活用事例があまり多くなく、自治体としても手続きに手間がかかるため一般的な注目度は高くない制度ですが、自治体やプロジェクトオーナーにとってメリットも大きいため、今後の広がりを期待したい施策の一つでもあります。

 

[図表2]「クラウドファンディング型のふるさと納税」に対する総務省の支援策

 

 

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「よりよい未来の実現」は、非常に魅力的で壮大な返礼品

ふるさと納税が災害支援に活用されるケースも増えてきました。ここ最近は災害続きの日本ですから、読者の中にも被災地支援のための寄附をされた方はいらっしゃるかと思います。日本最大級のふるさと納税総合サイト『ふるさとチョイス』を運営する株式会社トラストバンクからの2018年10月19日の発表によれば、「ふるさとチョイス災害支援」における2018年の同時点までの累計災害支援寄附金額は約20億円に達し、サービス開始から4年の通算では50億円に到達したとされています。

 

特に「平成28年熊本地震」や「平成30年7月豪雨」では一つの災害で10億円以上の寄附を集めています。もちろん災害支援寄附金には返礼品はありませんが、ふるさと納税の仕組みを使えば一定額までは実質ほぼ自己負担なしで被災地支援ができるわけですから、手軽な仕組みは支援したい気持ちを後押しするでしょう。

 

被災地支援の取り組みの中でも興味深いのが、株式会社トラストバンクが茨城県境町とともに「平成28年熊本地震」の際に構築した「代理寄附」の仕組みです。災害に対する寄附は発災直後に集まる傾向がありますので、被災自治体は発災後速やかに寄附金募集を始めることがより多くの支援を集めることにつながりますが、一方で有事の際には、被災自治体は市民の安否確認や避難所の準備など様々な業務を行う必要があり、その余裕がありません。

 

そこで、被災していない自治体が被災自治体の代わりに寄附を受け付け、寄附金受領証明書などの発送や受付事務作業を請け負うのがこの「代理寄附」の仕組みで、代理で寄附を募る自治体を「代理自治体」と呼びます。熊本地震の際は、最終的に40を超える自治体が追随し「代理自治体」として手を挙げましたが、前例のないタイミングでこの発想をして実行まで移した境町の橋本町長の英断は見事でした。結果、4月16日から30日までの15日間で境町が集めた代理寄附は1億1000万円超にも達しました。この時に生まれたこの仕組みは、その後に起こった各地での災害でも様々な自治体で活用されています。

 

[写真]

出典:ふるさと納税ポータルサイト「ふるさとチョイス災害支援」より
株式会社トラストバンクの須永珠代社長にインタビューを受ける、茨城県境町の橋本正裕町長。

 

ふるさと納税の第一の意義は「その使われ方を考えるきっかけとなる制度」です。仮に最初の寄附の動機が返礼品目的であったとしても、寄附を体験することでその意味を知り、自分のお金を選択することへの意識が高まれば、社会のお金の流れは変わるかもしれません。

 

今後、お得な特産品が一目でわかる以上に、各自治体の活用報告や成果も簡単に見られる環境が整って行けば、ふるさと納税も本来の趣旨にかなう寄附先の選択が促進され、寄附者が寄附の使われ方を考えることにつながると思います。ふるさと納税の「生まれ故郷やお世話になった地域などの力になることができる制度」という第二の意義にあるように、寄附者が「自分のお金の使い方の選択が地域や社会の役に立つ」ということを知るきっかけとなる制度として広がっていくことを期待しています。

 

本来、寄附は見返りを求めないものですが、地域や社会の「よりよい未来の実現」という想いは、コト消費が主流となる世の中で十分に魅力的で壮大な見返りといえます。税金に敏感な高額所得者ほど、この制度の特徴を理解した上でうまく活用し、税金の使い道の一部を自分で選ぶ=使い道を意識した寄附をしていただきたいと願っています。

 

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