現物寄付では、相続人に税負担のみ課せられることも
相続財産寄付や遺贈を行う場合、現金による寄付だけでなく、不動産・有価証券などの現金以外の資産を「現物寄付」として、そのままNPO法人等の公益法人に寄付することも可能です。
ただ、その不動産等の現物寄付財産が取得した時よりも値上がりし、含み益がある場合は、寄付を行ったタイミングで利益が実現したものとして「みなし譲渡所得課税」が発生します。
先祖代々引き継がれてきた土地や、一代で財産を成した経営者の持つ株式などは、取得時の価格(あるいはみなし取得価格)は低い場合が多いため、一般的に「みなし譲渡所得課税」は大きな金額となりがちです。
さらにこの課税は、現物寄付を受けた団体側ではなく、基本的に相続人に課せられます。
価値のある現物はもらえないのに納税義務のみを負担させられるのは、相続人からすると非常に納得しにくいものです。そのため、故人の遺言により寄付が行われる遺贈の場合は、特にトラブルに発展しやすいのです。
このようなリスクがあるため、不動産の遺贈を受ける民間非営利団体は、その不動産をどのように活用・管理するのか、また売却するなら、どのような方法で売却先を見つけるのか、といった団体としての方針を決めておく必要があります。その手間と難易度ゆえに「現物寄付は受け付けない」としている団体も少なくありません。
現物寄付をするという遺言を残す場合は、事前に寄付先団体や法定相続人と相談をする必要がありますので、自分の想いだけで決めるのではなく、専門家による助言を受けましょう。
高まる「遺贈寄付」への関心…課題は情報のアクセス
日本の年間相続額は、日本総研の試算によると37兆円から63兆円になると言われています。日本の毎年の税収が約60兆円ですから、年によっては1年間に発生する相続の金額が、その年の税収に匹敵する規模になる場合もあります。
そんな中、日本ファンドレイジング協会が発行する『寄付白書2015』によると、遺贈寄付について、40歳以上の男女の21%が相続財産の一部を寄付することに関心があるという調査結果があります。
また、大手国際協力NGOの「国境なき医師団日本(会長:加藤寛幸、事務局長:ジェレミィ・ボダン)」が先日公開した、「遺贈に関する意識調査2018」(2018年6月22日~28日の7日間、全国の20代~70代の男女1200名を対象、インターネット調査)によると、遺言書準備の必要性を理解している人は70代で約6割、「遺贈」の認知度は40代から特に上昇して70代で85.5%と8割以上に達し、約5割に遺贈意向があることが判明したとしています。
遺贈による寄付は、子どもなどの相続人がいても当然可能ですが、一人暮らしで身寄りや相続先がない高齢者が増えていることも、遺贈へ関心が集まる理由と考えられます。
しかし、遺贈寄付の意思がある人のうち、実際に遺言を作成している人は3.9%にとどまるという別の調査結果もあります。この「想い」と「実現」のギャップをどう埋めていくのかが、今後一層遺贈寄付が一般的なものになっていくための課題でもあります。
そんなニーズと課題を受ける形で、2016年11月、日本で初となる寄贈寄付の推進団体「全国レガシーギフト協会」(https://izoukifu.jp/)が発足しました。
これは全国的なネットワーク組織で、無料で遺贈に関する相談ができる、中立的な窓口を全国16ヶ所(2017年2月現在)に展開しています。各地の相談窓口に行くと、弁護士や司法書士などの専門家の紹介、寄付先団体選びの相談、実際の遺言書作成のサポートなどを行ってくれるのです。
特定の団体や活動の押し付けもありませんし、漠然とした考えでも相談に乗ってもらえるので、遺贈寄付や相続財産寄付に関心がある方は、こちらに問い合わせをしてみるのも手でしょう。
(ご注意)
遺贈や相続財産の寄付は、遺産の総額や相続人の人数などにより、基礎控除額が変動するなど、各人の相続の状況にあわせて複雑な計算が必要になります。無用なトラブルを避けるためにも、遺贈や相続財産の寄付を行う際には、専門知識を持つ弁護士や税理士などへのご相談を強くお勧めいたします。
宮本 聡
営業コンサルタント
ファンドレイジングアドバイザー
(株)シティインデックス海外不動産事業マネージングディレクター
認定特定非営利活動法人ACE 理事
公益財団法人 ふじのくに未来財団 理事
株式会社リビルド 社会貢献部長
一般財団法人 共益投資基金JAPAN 理事